7話 TODO:装備品について勉強してみる
店の中に入ってみると、そんなに広くは無い店ではあるが、並べられている小手や胸当てを見てみると、素人目で見ても素晴らしい物だと思える位、良い物が並べられていた。 実際、そこに並べられている商品は、初級の冒険者が簡単に手に入れられるような物では無かった。
軽く店の中を見渡した後、ショースケはパイクとエリナの関係について、気になったので聞いてみる事にした。
「それにしても、エリナさんとお知り合いというか、仲が良いみたいですが……ご兄弟とか、親の知り合いとかですか?」
「あら、お上手ね。そんなに私、若く見えるかな?」
「えっと……違うんですか?」
確かにショースケの言う通り、パイクは、見た目は20台後半から、30台前半位にしか見えなかった。
しかし、ショースケは見逃していた特長があった。パイクの耳はやや長く尖っており、それは、ファンタジーものの話でよく聞く、エルフそのものであった。
「ふふっ。私は、エリナとは一緒のパーティを組んでいたのよ。」
「えっ!? 本当ですか?」
「本当よ。こう見えても、私、120年生きてるのよー。年齢だけで言ったら、私の方がお母さんみたいなものよね。」
「えぇーっ!? ひゃ、120歳ですか?
……あ、その耳。」
「そうよ。私、エルフなのよ。」
「はぁー、お初にお目に掛かりました。」
「ん? エルフなんて、今じゃ珍しくもないと思うけど……。」
「あー、どうやら、この街に来る前の記憶が無くなってしまっていて、名前以外は全然覚えていないんですよ。
なので、色々と教えていただけると助かるんですが……。」
とりあえず、ここでも記憶喪失で通そうとするショースケだった。
「あぁー、そういえばエリナから聞いたわよ。記憶喪失だなんて、大変ねぇー。」
「そうなんですよ、不便でしょうがないです。
……そういえば、エルフの方って、人間とか、こういうゴチャゴチャした街とかは、お嫌いなんじゃ?」
「……その割には、随分と古臭い事を知っているのね?
でも、今はそんな事無いわよ。今じゃ、街に出て暮らしている方が多いと思うわよ?」「古臭い、ですか?」
「そうよ。昔の話でね……。」
パイクから現在のエルフについて、色々と教えてもらう事ができた。
森の中で閉鎖的に暮らしていたのは、500年以上前の昔の話らしく、閉鎖的に暮らすよりも、もっと積極的に自然の大切さや、エルフの事を知ってもらおうとエルフの王自ら街に出て、人間達と連合した国を作り上げたという事だった。
他にも、寿命も長いエルフ達は、色々な職業を営んでいるそうだ。得意な技能も、精霊と仲が良いという利点を使って、物作りに対して、そこらの職人以上の物を作り出したり、冒険者としても、得意な弓や精霊魔法を用いて、活躍しているらしい。
どうもよくあるファンタジー物とは違うようで、結構アグレッシブな性格のエルフが多いようである。ただ、同じ点があるとすれば、寿命が長い事だろうか。平均的な寿命は、約1,000歳程度だそうで、青年期は、30歳から大体950歳までと、とても長いものだった。
「ほぉー、そうなんですか。色々と教えていただいて助かります。」
「いいのよ、それ位。」
「ところで……防具を作る店と伺っているのですが、カウンターの奥に工具の類は見えるんですけど、金属とか、素材らしきものが全然見当たらないけど、どうやって作るんでしすか?」
「素材はね、魔石を使っているのよ。」
「魔石……ですか?」
「そうよ。魔石にある魔法を掛けると、武器や防具などの素材になるのよ。」
「へぇー、魔石に魔法ですか……。」
「えぇ、素生魔法 って言うんだけど……まぁ、鍛冶をやらない人達には、馴染みの無い魔法ではあるんだけどね。
この素生魔法は、魔石に掛けると、素材に変える事ができるの。例えば、有名なところだと、紫の魔石からミスリル金属や、魔力の篭った頑丈な皮などが生成されるわ。
「おぉー、それは凄い! 山を掘ったりしないで、金属とかが出来るなんて、本当に凄いなぁー。
……それにしても、そんな魔法、誰が編み出したんですかね?」
「確かこの魔法は、鍛冶が得意と言われているドワーフが編み出した魔法だと云われているけど……本当の所は、よく分かってないの。」
「そうなんですか。でも、魔石で色々な物が出来るなんて、夢が広がりますね。」
「そうね。だからこそ、魔石は重要な資源として取引されているのよ。」
「その為に、俺等みたいな冒険者がいるわけですね。」
「えぇ。後は、国の騎士団や、貴族お抱えの私設騎士団だって、魔石狩りは主な仕事の一つでもあるのよ。」
パイクの言う通り、この世界では魔石が主な資源となっている。かといって、鉱山や皮革産業が全く無いというわけでない。素生魔法は有名ではあるが、その魔法を使える者は数少ない為、普通の鉱物の装備品や革製品を取り扱う店もあるのだ。
「そういえばショースケ君は、うちの防具をご所望だったのよね? どういった物が欲しいのかしら?
でも、あなたが着ている鎖帷子もかなりの物だけど、他にも何か必要なの?」
「えぇ。実は、手甲が欲しいんですけど……。」
「手甲?」
「えぇ。俺、両手剣や格闘をメインとしたスタイルなので、相手の剣を受け流せる程度の硬さがあって……でも、手首の関節をなるべく自由に動くものが欲しいんですけど、何とかなりませんかね?」
相手が武器を持っている事を想定し、相手の攻撃を捌くには盾のような物が必要になると、ショースケは考えていた。
しかし、現実世界で習っていた格闘技は、古流剣術と合気道である。よくあるファンタジーもののように、盾と片手剣を使った戦い方や、両手剣で相手の攻撃を受けたりする戦い方では、ショースケの場合だと行動が制限されてしまうのだ。
相手の攻撃を手の甲や腕で捌くという経験を生かすには、両手を自由に動かせて、剣や盾を使わずに攻撃を受け流せる手甲が良いのではないかと考えたのだ。
「そうねぇ…………作れる事は作れるわ。」
「本当ですか!?」
「けど、ショースケ君の要望に答えるとなると、かなり高ランクの魔石を使った方が良いわね。それだと結構割高になるけど、それでも良いかしら?」
「そうですよね……ちなみに、どの位になりそうでしょうか?」
「そうねぇ、魔石は緑ランクの物を使うけど、素材自体は少なくて済むから……まぁ、これからの期待も込めて、150,000オロってところかしら?」
「えっ!? 安すぎませんか?」
ショースケが持って帰ってきた青ランクの魔石でさえ、350,000オロもしたのだ。その上の緑ランクの魔石を使うというのに、150,000オロで良いと言っているのだから、ショースケが驚くのも無理はなかった。
「エリナが期待する新人君だからねぇー。私も期待しちゃおっかなー、と思って。」
そう言って微笑むパイクを見て、ショースケは苦笑いを浮かべるしかなかった。
「そんなに期待される程でしょうか? まぁ、出来る限りは頑張りますけど……。」
「そうそう。頑張って常連になって頂戴。」
「ははは……ところで、手甲はどの位で出来上がりますか? あと、お代は?」
「そうね、4日後に来てくれれば、仕上げておくわ。あと料金は、手甲の引渡しの時でいいわよ。」
「わかりました。それじゃ、よろしくお願いします。
それしても勉強になりました。今日は、本当にありがとうございました。」
そう言って、ショースケは挨拶を交わし、店を後にするのだった。