4話 TODO:簡単そうな仕事を受けてみる
いつの間にかブクマしていただけた方がいらしたようで、本当にありがとうございます。
これからも、よろしくお願いしますm(_ _)m
訓練が終わる頃には、もう夕暮れになるくらいの時間だった。
宿泊先を決めていなかったショースケは、エリナにお薦めの宿を紹介してもらう事にした。その宿を訪ねると、まだ空きもあるという事だったので、まずは一晩お世話になる事にしたのだった。
紹介してもらった「ナイスの宿」……名前は置いといて、その宿は、食事も美味しく、用意された部屋も、小奇麗に整えられていた。そして何よりも、共同ではあるが風呂が置いてあったのだ。風呂が入れる宿となると、この世界では、かなり珍しい部類に入る方なのだ。
しかも、1泊の値段も800オロと、マイマイに教えてもらった通りの平均の価格内で済むという、とても素晴らしい宿だった。
「目が覚めたら、元に戻っていた――っていう事は、やっぱり無いか。」
ショースケはそう独り言つ。
目覚めた場所は、木造で出来たナイスの宿の一室であり、現代世界で慣れ親しんでいた、天井やベッドでは無かった。
(あぁー、それにしても昨日は疲れたなぁー。異世界に迷い込むわ、訓練という名の元に、フルボッコにされるわで、マジ身体が痛ぇ……とりあえず、腹も減ったし、朝飯でも食いに行くかぁー。)
ショースケは手早く着替えて、朝食をいただく為に1階の食堂に降りる事にした。
「おはようございます、カチュアさん! 今日の朝食は何ですか?」
「おはようショースケさん、今日はサンドイッチだよ。ほらアベル! さっさと一人前用意しなっ!」
「分かってるよ、カーちゃん。」
ここ、ナイスの宿は、宿泊部屋は6部屋程度の規模で、共同の風呂とトイレがある二階建ての宿である。
ご主人は立派な鬚が似合う、マッチョでナイスガイのアベルさん、42歳。そして奥さんは、ガタイのいい肝っ玉母ちゃんのカチュアさん、40歳の夫婦2人で営なまれている。
どこかの芸能人プロレスラー夫婦に似ていると思ったが、気にしてはいけないと思ったショースケであった。
「はい、ショースケさんお待たせ!」
「ありがとうございます。いただきますっ!」
出てきたサンドイッチの中身は、ハムとレタス(のようなもの)と、塩と胡椒で味付けされたスクランブルエッグ、そしてローストビーフ(のようなもの)だった。
アベルさんの作った料理に舌鼓を打ち、あっという間に平らげてしまった。
「ごちそうさまでしたっ!」
「お粗末様。相変わらず、いい食べっぷりだねぇ。」
「いや、本当に美味しいですから! あ、そうだ。宿泊の延長をお願いしたいんですけど、大丈夫ですか?」
「あぁ、問題ないよ。今泊まってるのは、ショースケさんを合わせて2人だけだからね。こっちも助かるよ。」
「良かったー。それじゃ、10日分お願いします。」
そう言いながら、ショースケは金板1枚をカチュアに渡した。
「いきなり10日分だなんて、あんた本当に冒険者登録したばっかりなのかい? そんなに金を持っているなんて、貴族様とかじゃないだろねぇ……。」
「いやいや、本当に昨日登録したばかりですよ。ただ、この街に来るまでの記憶が曖昧で、はっきりと憶えていないんですよ。」
カチュアにジト目で詰め寄られ、たじろぎながらも言い訳をするショースケだった。
ショースケは、違う世界から来たという事を説明するわけにはいかないので、「街に来るまでの記憶が抜けている」という事で今後は通すつもりのようだ。
「まぁ、長期でウチを使ってくれるんなら別にいいんだけどね……そうだ、お釣りだったね。はい、2,000オロだから金貨2枚だね。」
「はい、これからも是非、よろしくお願いしますね。それじゃ、依頼を受けに行ってきます。」
「はいよ、気を付けて行ってきな。」
ショースケは、カチュアに見送られ冒険者ギルドへ向かう事にした。ちなみに、ナイスの宿も異世界に迷い込んだ時に訪れた酒場から近い場所にあった為、冒険者ギルドまでは徒歩5分程度で辿り着く事が出来た。
おまけになるが、ショースケはマイマイの居る酒場の名前も気になったので、アベルに聞いて確認した所、店名は「ボッタクル酒場」というらしい……。
(気にしたら負けだ。きっと、気にしたら負けなんだ。)
そんな事を考えながら、ショースケは冒険者ギルドに着いた。中に入り、窓口付近にあるクエストボードを確認する。
クエストボードに貼り出されている依頼票は、左から順番に白、黄、青……とランク別に並べられている。
白ランクの依頼内容を見てみると、討伐系は殆ど無く、街中での作業依頼や、近場の採取依頼などが多いようだ。その中からショースケが見繕った依頼は、「回復薬用薬草の採取:1本あたり、100オロ」であった。
「これこれ。やっぱり異世界の初めての依頼は、薬草探しだよね!」
目的の依頼票をクエストボードから剥がし、エリナの元に持って行く。
「エリナさーん、この依頼を受けたいんですけど。」
「……あぁ、この依頼なら、わざわざ依頼票を持ってこなくてもいいんだよ。この依頼票には青く縁どられているだろう? これは、常時依頼を受け付けているって事を表していて、依頼結果をギルドに持ってくれば、いつでも対応する依頼内容になっているんだよ。」
「へぇ、そうなんですか。分かりました、次から気を付けます。」
「そんなに畏まらなくていいんだよ。まぁ、初めての依頼って事なら丁度いいんじゃないかね。頑張ってくるんだよ。」
「はい、ありがとうございます。それじゃ、行ってきます!」
回復薬用薬草の採取であれば、街の西門から出て、そのまま1時間程度進んだ所の道を外れた所にある森の中に、目的の薬草が生えているらしい。ショースケはエリナに依頼の詳細を教えてもらい、早速出かける事にした。
馬車のためか、ある程度均されている道を進んで行くと、目的の場所と思われる森が見えてきた。見通しの良い道でもあったため、特に襲撃などもなく無事に辿り着く事が出来た。
そして、目的の薬草についても、ギルドバングルのお蔭で、簡単に見つける事が出来たのだった。
「それにしても便利だよなー、このギルドバングルってやつは。ギルドで確認されている採取対象物の情報を立体映像で映し出されるとかさ。こういう所だけ見ると、ゲームにしか見えないっていうか、どういう仕組みなんだ? このギルドバングルは……。」
ショースケが独り言ちながら、依頼対象の薬草を摘んでいると、脇にある茂みの奥から、「ガサガサッ」という音が聞こえてきたのだった。