3話 TODO:訓練を受けてみる
「ここで良いんだろうか……。」
とても広い円形状の部屋。訓練場にて講師を待つ事となったショースケ。
周りを見渡してみると、どうも不思議な気配のする空間であり、壁からも妙な雰囲気を感じていた。
どうにも気になってしまい、壁に触れてみようとしたが、壁には触れる事が出来なかった。どうやら、何か不思議な膜で壁がコーティングされたようになっているようで、壁自体に触る事が出来なかったのだ。
(何か分からんが、妙にハイテクなんだよな。この世界……。)
そのような事を考えながら壁(には触れないので、手前辺り)をペタペタ触っていると、離れた場所で訓練をしていた冒険者達の掛け声が聞こえてきた。
「【火炎連弾】!」
「うぉっ、たっ、危ねっ!? 食らうかよっ!」
対峙した冒険者達の片方から、こぶし大位の火の玉を3個放たれ、もう片方の冒険者に襲い掛かった。
だが、持っていた盾で火の玉を捌くのと同時に、体捌きでかわしきったようだ。その当たらなかった1つの火の玉は、目標を失い、壁に向かっていった。
(あ、壁に当たるっ!)
と、ショースケは心配したが、壁に当たる寸前で、その火の玉は掻き消えてしまった。どうやら、壁にコーティングされているのは魔力による壁のようだ。
(――はぁー、なるほど。壁から感じた違和感は、こういう事だったのか。本当にスゲェな、この訓練場というか、この世界は……。)
と、驚きと共に関心している所で、「ガチャッ」と訓練場の入り口の扉が開き、初心者講習の講師がやってきたようだ。しかし、やってきた人物を見て、ショースケは硬直してしまった。
「待たせたね、ショースケ。それじゃ、初心者講習を始めようか。」
「――!? え、エリナさんじゃないですかっ! え、もしかして、エリナさんが講師って事ですか?」
「あぁ、その通りだよ。これでも、元黒ランクの冒険者だったんだからね。あんたがすぐに死なない様に、しっかり扱いてやるよ!」
何と初心者講習の担当官として現れたのは、先程受付で対応してもらっていたエリナだった。実はこのエリナは、オーニキス支部でも数少ない黒ランク以上の冒険者だったのである。
更にいうと、オーニキス支部の副ギルド長でもあるのだが、それをショースケが知るのは、もう少し後の事になる。
「とりあえず訓練を始める前に、ショースケの実力を見たいから、私と模擬戦をやろうか。」
「は、はぁ……。」
「私の得物は、ちょっと変わっているけど、この木で出来た棒だよ。そこに訓練用の木製の武器が置いてあるから、ショースケも得意な物を選びな。」
そういってエリナが指差した先を見ると、確かに木製の武器が棚に置かれていた。武器の種類は様々なようだ。
(どうすっかなぁ……俺が得意なのって、元の世界で習ってた、古流剣術と合気道だけなんだけど――とりあえず、これから魔物と戦う事になるんだ。だから、徒手空拳は無いよなぁー。となると……。)
「じゃ、これにします。」
ショースケが手に取ったのは、長さ1m程度の両手剣だった。
(とりあえず、重さとか、長さとか、これが今まで扱っていた木刀に近いんだよな。)
「ほぅ、両手剣かい? それじゃ準備が出来たら、いつでも掛かってきな。」
「はい。」
(まぁ、今まで習ってきたものが通用するのか判らないけど、やってみるしかないよな……。)
ショースケは、木剣の柄の部分を両手で握り正眼に構える。そして、己の間合いに入れるように摺り足でにじり寄っていく。
それに対してエリナは、棒の中心部分を片手で持ち、まるで、リラックスした状態で待ち構えていた。
「はっ!!」
気合と共に、ショースケは突きを放つ。それに対してエリナは、一歩前に踏み出しながら下段から棒を跳ね上げて、ショースケの突きを崩した。そして、そのままショースケの頭を狙って、棒を突き出す。
(それは想定済だっ! ここで切り落とすっ!)
ショースケは打ち上げられた木剣を、そのままエリナの棒に対して打ち落としつつ、突きを放った。ショースケの突きがエリナの胸元に突き刺さると思われた瞬間、エリナの姿が掻き消えたように見えた。
「なっ!?」
「まだ、甘いよ。」
エリナは、身を屈めながら棒でショースケの足を払った。ショースケは勢いに乗ったまま足を取られたので、前のめりに倒れる所だったが、何とか丸まりながら受け身を取り、膝立ちの状態でエリナに対する。
しかし、既にエリナは目前に迫っており、突きを放とうとしていた。
「くそっ!!」
ショースケは何とか、その突きを何とか木剣で擦り上げによりかわし、擦り上げた木剣で小手目掛けて打ち落とそうとした。だが、それよりも先に、擦り上げて避けたはずの棒の反対側がショースケの顎を叩き上げる。
「ぐはっ!?」
棒で顎を跳ね上げられた衝撃で、仰向けに倒れた。すかさず立ち上がろうとしたショースケだったが、上半身を起こしたところで、眉間をエリナに棒で小突かれた。
「これまでだね。ショースケ、あんたかなりいいセン行っているよ。」
ショースケは、フラフラと自分の顎を摩りながら起きあがる。
「はぁ、そうでしょうか? その割には、軽くあしらわれたようですが……。」
「何言ってんだい! 私は元黒ランクの冒険者だよ。あんた等位の奴等を軽くあしらえないようじゃ、終わりじゃないかい。」
「そういえば、そうでしたね。イタタ……。」
その後、エリナさんに【小回復】の魔法を掛けてもらい、講習を受ける事になった。まず、冒険者の心得から始まり、簡単な初級魔法についてや、生き延びる為の知識などを教えてもらう。
ちなみに、この世界の魔法は特に呪文は必要なく、魔法言語によるキーワードで発現される。但し、キーワードだけでなく、その魔法を発動させるイメージも重要となるのだ。
そして最後に、魔者について説明された。
「いいかい、あんたも知っているとは思うが、この世界には生きとし生けるものの敵である、魔者っていうものがいる。そして、こいつらを退治する事も冒険者の務めだからね。忘れるんじゃないよ。」
「分かりました……でも、魔者って一体何なんですか?」
「こればっかりは、何なのか分かってないねぇ。何でそんな者が生まれてくるのかも分かってないからねぇ……。」
「そうなんですか……。」
「でも、魔者の見分け方っていうのはハッキリしているんだよ。まず魔力を感じる事が出来るんだったら、禍々しい魔力を感じるはずだ。ちなみに、私は魔力の気配は感じる事は出来ないから、うまく説明できないんだけどね。」
「はい。」
「そして、何と言っても見た目が異様なんだよ。魔者ってのは、目が血のように真っ赤に染まっていているうえに、鈍く光っているんだ。これは見間違えようがないと思うよ。そして、その行動は、人など生きているものを見ると、必ず襲い掛かってくる。」
「はぁ……完全なる敵という訳ですか。」
「あぁ、そうだよ。躊躇したら、こちらが殺されると思いな。」
「はい。」
「じゃあ、講習はこれで終わりだけど、魔者を想定した訓練もしていくかい?」
「はい! ぜひお願いします!」
「うんうん。じゃ、もう一度、武器を用意しておくれ……。」
こうして、講習の最後の締め括りとして、対魔者を想定した訓練が始まった。
エリナは手を変え品を変え、ショースケの相手をするのだが、その攻め方は、なかなかに嫌らしいものだった。
(……なぜだろう? どうも、戦い方が対人戦に特化しすぎているような気がする。マモノっていうのは、知能が高いのだろうか?)
ショースケは疑問に思いつつも、訓練の時間は過ぎていった。休憩時間も入れつつ、1時間ほどで訓練は終了となった。
「……ふぅ、とりあえず、こんな所かねぇ。」
「ハアッ、ハアッ…………ハアッ、ありがとうございました。(何なんだ、この人は? この動きで大して疲れた素振りを見せないって、道場の先生以上に化物だぞ……。)」
「今日は、これで終わりだけど……そうそう、これを言うのを忘れていたよ。魔者は倒すと、魔石を残して身体は消えちまうんだ。残った魔石は、ギルドに持ってくれば買い取るし、ギルドバングルに討伐記録が記録されるから、しっかり持って帰ってくるんだよ。」「はいっ! 今日はありがとうございました!」
こうして、ショースケの異世界の1日目は、酒場での食事と、冒険者ギルドでの訓練で終わる事になった。