36話 TODO:異なる世界へ迷い込んでみる
いつもお読みいただいていた皆様には大変申し訳ないのですが、この物語は、ここで一旦中断させていただきたく思います。
理由としては、ここからラストまでの話を書いてみて、今までの話もそうでしたが、題名にある週末のみ異世界に渡るという感じが全く感じないため、全体を書き直したいと考えました。
その為、また改修後、かつラストまで物語を繋げた状態にして、また掲載させていただければと思っています。
拙い作品ながら、ブクマしていただいた方々、本当に申し訳なく、そして、本当にありがとうございました。
「……それにしても、飯沼の奴が母親になるのか。」
「えぇ……今は、6か月、って所ですかね。」
「そうか。それじゃ、来年早々にはお前も父親、ってわけだな。」
「そうなりますね。まだ、実感無いですけどね。」
ここは、地球の世界の【紅玉珈琲】。彰介が構えた珈琲専門店である。
そこで彰介は、当店お勧めのオリジナルブレンドを飲む高島と語り合っていた。
「そういえば、会社の方って大変だったんですよね? 結構ニュースでも取り上げられてましたよね?」
「あぁ。本当に参ったよ。あの馬鹿が、インサイダーなんぞやりやがってなぁ……まぁそれでも、何とか巻き返して、元の水準にまで戻せたけどなぁ。」
彰介が【解説】で見た会社の状態の通りになったようである。それでも、高島を始め、会社を立て直せる程に優れた人物は残っていたので、会社自体は潰れる事もなく、ほぼ元通りの状態に戻っていたのだった。
「流石ですね。まぁ、高島さん達の部長陣が揃ってれば、何か問題が起こったとしても、何事も無く解決してくれるとは思ってましたけどね。」
「ははっ、それか買い被り過ぎなんじゃないか?」
「いえいえ。皆、そう思ってると思いますよ?」
「ふむ……まぁ、そう思ってくれてるんであれば、これからも頑張るだけだな。
……お? もう、こんな時間か。そろそろ会社に行くとするか。」
「はい、ありがとうございました。またのお越しをお待ちしています。」
「おぉ……っと、そうだった!? こいつを渡そうと思って、忘れてたよ。」
「ん? 何ですか?」
「あぁ、これなんだけどな。」
「……鍵、ですか?」
そう言って高島から渡されたのは、かなり年代を感じる古ぼけた鍵だった。
「何で、これを?」
「いやな、ここを明け渡す前に軽く掃除しておこうと思って、片付けてたら出てきたもんでな。何となく、お前に渡しておいた方が良いと思って持ってきたんだよ。」
「何となく、ですか……。」
「あぁ、俺も不思議だとは思ったんだけどな。
……まぁ、俺も直感を信じる方なもんで、お前に渡しておくよ。」
「はぁ……分かりました。ありがたく頂きます。」
「押し付けるみたいで悪いな。それじゃ、お前も頑張れよ。」
「はい。」
そう言って、慌ただしく店を飛び出す高島を見送る彰介だった。
「……何の鍵なんだろうな? これ?」
~ ~ ~ ~ ~
今日も無事に1日が終わり、家に帰ると、お腹を大分大きくした由里が迎えてくれた。そして、今日、久しぶりに出張から帰って来た高島と由里の事について話した事を伝えつつ、夫婦団欒を過ごしていた。
そして夜も更け、異世界へと旅立つ時間が迫っていた。
「……っと、そろそろ時間だな。それじゃ、由里、行ってくるよ。」
「ん、彰さん。気を付けてね。
行ってらっしゃい。」
「あぁ。」
そして彰介は、異世界に繋がる扉を潜り抜ける。
「――っと、ただいまー、ユーリ。」
時間になったので、扉を開けてジュエル・ワールドに戻り、こちらの世界のパートナーに挨拶した、つもりだった。
「え?」
目の前に広がるのは、ナイスの宿の一室で待つユーリの姿……では無く、辺りは金属で出来ているような壁に囲まれた無機質な部屋で、今まで見た事も無いようなものだった。 それに、そこで待っていたのは、全身が銀色の全身タイツに包まれたような姿をしていて、表情についても何も感じないような、ボーっとした顔の生物が待ち構えていた。
ちなみにこちらの世界で例えるならば、グレイと言われるものが一番近いのではないだろうか。
「えーっ、と…………。」
「「ダレ?」」
同時に疑問をぶつける2人(?)だった。
「ワタシハ、素体ナンバー101185、通称ギーグト申シマス。種族ハ、人間デアリマス。」
「えっ!? 人間っ!?」
「ハイ。」
「あ、そうなんですか……えっと、俺も人間で、田中彰介って言います。」
「ホゥ。アナタモ人間ナノデスカ? マルデ、歴史デ勉強シタ、数億年前ノ人間ノ姿ニソックリデスネ。」
「え? 人間が進化すると、そんな感じになるの?」
「ハイ。我々ハ、人間ガ進化シテ、コノ姿ニナリマシタ。」
「はぁー、そうなんですかぁ……数億年経つと、そんな感じになるのかなぁ……。」
「恐ラクハ。我々ノ進化ノ元ヲ辿ッテイクト、スライムダッタソウデス。」
「えっ!? ちょっと待って! スライムって言った?」
「ハイ。生命ノ始マリトシテ、スライムカラ始マリ、ソシテ類人猿ニ進化シテ、人間トナリ、性別ノ無イ、1ツノ個体ヘト進化シテイッタノデス。」
「何かちょっと違うような気がするけど……同じなの、か? いやいやいや、スライムから類人猿に進化する過程が、大分すっ飛んでいるような気がするんだけど、どうなってんの?
それに性別が無いって……子供とか、どうやって生まれているのさ?」
「ウーン……進化ニツイテハ、ソノヨウニ学習シタモノダカラ、コレ以上、詳シクハ分カラナインダ。子供ニ関シテハ、好キ合ッタ同士ガ同ジ部屋デ三日三晩過ゴセバ、ドチラカノ身体ニ子供ガ宿ルンダ。」
「何……だ、と?」
初対面だというのに、進化論の話しのお陰(?)で一気に打ち解けつつある2人だった。但し、彰介の方は子供が出来る手段については納得いってなかったようだが……。
しかし、そんな2人の間に空気も読まず、宙に浮かぶ扉が急に現れ、中から人らしき者が飛び出してきた。
「よっと。」
「うわっ!?
……って、神様っ!?」
「カミサマ?」
「やっほー。」
「コノ方、カミサマ?」
「ん? あぁ。信じられないかもしれいけれど、この方は色々な世界を管理しているっていう神様なんだよ。」
「どうもー。」
「ボクタチノ知ッテイル、カミサマト違ウ。」
「あ、そうなんだ。ギーグの知ってる神様って、どんな感じなの?」
「コノ位ノ玉。」
片手の指でビー玉サイズの輪っかを作り、彰介に見せながら説明するギーグ。
「た……玉?」
「ソウ。光ル透明ナ玉。」
「え、何それ? 神様ってビー玉なの?」
「流石、世界が違うと、神様の形も不思議だねー。」
「いや、アンタが言う事じゃないから。自分達の事でしょうが。」
「えへ。」
「えへ、じゃないですよ……ところで、急にどうしたんですか?」
「ごめーん。また、やっちゃったー。」
「え? やっちゃった、って……?」
「えっとねー、報告書とか資料の整理をしてた時にねー、世界と世界を繋ぐ異扉管を、こうブチッとやっちゃってねー。慌てて繋いだら、違う世界同士がくっついちゃった。テヘ。」
そう言いながら、頭に手を当てて軽く舌を出しておどけた態度をする神様を見て、彰介は軽くため息をつき、肩の力が抜けてホッとした表情を浮かべた。
「何だ。結局は、神様がやらかした事でしたか。」
「あれー? あんまりビックリしてないみたいだけど、何でー?」
「いや、神様のノリっていうか、雰囲気からして、何かやらかしてもまぁ、不思議じゃないっていうか、何て言うか……。」
「あれー? ひょっとして僕、ディスられてるー?」
「いや、別に、そこまで言ってるわけじゃないんですけど……まぁとりあえず、神様が態々来てくれた、って事は、もう帰れるって事ですかね?」
「何か誤魔化されてるみたいだけどー……うん、その通りだよー。」
そう言いながら指を「パチン」と鳴らすと、天之御中主神が現れた扉とは別の扉が1つ現れた。
「こっちの扉を潜ってくれれば、ジュエル・ワールドの世界に戻れるよー。」
「そうなんですね。
……はぁ、良かった。このまま、戻れないのかと思っちゃいましたよ。」
「そんなわけないじゃーん。彰介君なら、ね。」
「え? それってどういう……。」
「まぁまぁ、とりあえず帰った帰った。」
「え? ちょっ……。」
天之御中主神は、有無を言わさず用意した扉を開いて、彰介を中へと押し込み、扉を閉めた。
「あー、それにしてもビックリしたー。」
「ソウデスネ。」
「……ねぇ。もう、その話し方辞めない? それにさー、僕の事をビー玉って何よ?」
「申し訳ありません、天之御中主神様。別に普段の仕事の尻拭いが面倒になって、嫌味を隠し味程度に込めただけですよ。」
「まぁ、色々とやってくれてるのは助かってるけどさー。随分と言ってくれるねー……。
伊邪那岐君?」
天之御中主神がそう言うと、先程までギーグと呼ばれていた人物は、グレイのような恰好だった姿から、とても逞しい成人男性の姿へと変えた。
「それにしても、今の段階でこちらの世界に足を踏み入れるとは……。」
「うん、そうだねー。ちょっと予想外だったねー。
まぁ、鍵自体は、殆ど集まってるみたいだしねー。」
「そうでしたか……それでは、逆に今の状態は危ないのでは?」
「うーん。でもまぁ、彰介君なら大丈夫だと思うんだよねー。
何となくだけど。」
「何となく……ですか?」
「うん、何となく。
あ、そうそう。僕、これからまた戻っちゃうから、こっちの世界の管理はよろしくねー。」
「かしこまりました。それでは先程、彰介殿が開かれた異扉管は切断しておきます。」
「うん、よろしくー。それじゃー。
はぁ……まだ、チカラを出すには早すぎるよ。彰介君。」
天之御中主神はそう呟きつつ、自ら用意した扉を潜り元の世界へと戻って行った。




