34話 TODO:悪巧みを考える奴を捕まえてみる
副町長の顔や体形などの特徴を、町長や町の人達から教えてもらったショースケは、その狸親父っぷりの情報を頭の中に叩き込んで、どこに潜んでいるのかを探してみると、どうやら、町長達が仕事をする場所、所謂役場のような場所に居るという事が分かった。
そこでショースケは、認識阻害の腕輪をヒントにして、自分自身を他人から認識できないようにする【概念魔法】を創り出し、堂々(?)と正面から乗り込んでいった。想像した魔法の通り、誰にも気づかれる事も無く、副町長が居る部屋の前まで辿り着く事が出来たのだった。
(さて。何事も無く、ここまで辿り着く事が出来たけど。どうやって、中に入ろうかね?
丁度良く、この部屋に入る人でも来ないかなぁ……って、来た!? 丁度良く、人が来たよ!)
ショースケが心の中でブツブツ呟いていると、副町長に呼び出しを受けたのであろう人物が、願った通りに目的の部屋の前にやって来たのだった。
ドンドン
「お呼びでしょうか、バーニー様っ!」
「おう、カイゼルか! 中に入れっ!」
「はっ!」
(……そういえば、副町長の名前って聞いてなかった。副町長はバーニーっていう名前なのか。そんでもって、呼び出されたのは……忍者? この世界にも、忍者って居るんだなぁ。
でも、全然忍んでないし、堂々と廊下を歩いて来たけど……。)
ショースケが1人思い悩んでいる中、カイゼルはこちらの事なんて気付いているわけもなく、特に気にせずに部屋の中へ入ろうとしていたので、ショースケも慌てて、カイゼルの後ろにピッタリとくっ付いて一緒に部屋の中へ入った。
(お、居た居た。あいつが今回の騒動を起こした張本人、バーニー副町長か。
皆の想像通り、何か企んでそうな顔だなぁ……。)
どこかの映画にでも出てきそうなマフィアの首領にソックリな顔立ちのバーニー副町長が、ニヤニヤしながら呼び出した男に対して問い掛ける。
「おい。村の方はどうなっているんだ?」
「はい。例の水晶玉を村の近くに使いまして、魔者が大量に発生した所は確認しています。偵察の者の話では、順調に村へ向かって行ったという事でした。
このまま順調に行けば、あと2、3日もあれば村は滅びてしまうでしょう。」
「よしよし。そうか、そうか。
全く、獣人の村だなんて、そんなもんこの世界には必要ないだろう。しかも、この町の兄弟町だなんて、全く汚らわしい話だ。これで、後は町長……あの、女獣人が居なくなれば、全てが丸く収まるというものだ。なぁ?」
「フフッ、そうですね……。」
(この下種共が……。)
目の前にいる2人の言い種に怒りが収まらず、思わず「ギリッ」と歯を食いしばる音が、相手に聞こえてしまいそうな程に力を入れてしまうショースケ。
先程までは、誰に気取られることなく副町長を無力化させようと思っていたショースケだったが、気が変わったのか、魔法を解いて2人の前に姿を現した。
「よお。」
「なっ!? 何だ、お前はっ!?」
「いつの間にっ!? バーニー様っ、お下がりくださいっ!」
何もない所から現れたショースケを見て、2人は慌てふためく。
(こいつ、どこから現れたんだ!? この俺が気配すら感じないなんて……。)
カイゼルは警戒してバーニーを背に回しつつも、ショースケの気配を全くと言っていい程に感じられなかった事に臍を噛んだ。裏の仕事で名の売れたカイゼルにとって、ここまでの侵入を許してしまった事に屈辱を感じていた。
「お前は一体……何者だ? どうやって、ここまで入って来たんだ?」
「俺か? 俺は町長に頼まれて、この町の混乱を収めにやって来たんだよ。後は、あんたを捕まえてお終いかな?」
「何ぃ? 町長の……?」
「そう。んで、ここまでは俺の魔法で入って来たんだよ。誰も気が付かなったぞ?」
「魔法、だと? そんな魔法があるはずが……。」
「いや、バーニー様。現に、目の前に居るのです。恐らく……誰にも知られていない、そのような魔法があるのでしょう。」
しかし、猛者には見えないショースケの見た目と、高いプライドの所為で、カイゼルは判断力を鈍らせてしまい、その人生を短くする選択をしてしまうとは、思ってもいなかった。
「ふんっ! まぁ、隠れる技術については、相当なものを持っているのかもしれんが……俺の目の前で、魔法が途切れたのが運の尽きだったようだなっ!」
「……相手の実力も図れないくせに、偉そうな事を言うんだな?」
「チッ、デカい口を叩く若造が……。」
カイゼルは腰から2本のショートソードを取り出し、逆手に握り構える。
(ホント、格好といい、使う武器や構えといい、よく漫画とかで見るような忍者みたいだな。さぁ、こちらの世界の忍者さんの実力は、どんなもんだろうかね?)
「フッ!」
カイゼルは低い体勢になり、一足飛びにショースケの懐に飛び込みつつ、左膝を狙う。しかし、ショースケは避けるどころか、一歩前に踏み出し、前蹴りでカイゼルが腕を振り切る途中の手首を蹴飛ばした。
思いもよらない衝撃を右手首に食らい、得物であるショートソードを吹き飛ばされてしまった。
「グゥッ!?」
「うん。なかなかの速さなんじゃない? ま、それでも、俺の知り合い程では無いけどな。」
「くっ!」
カイゼルは低い体勢のまま、回転しながら足払いを掛ける。その動きは、カポエィラのハステイラの動きに似ているものだった。だが、ショースケは素早く後ろに下がり、足払いを避ける。これは避けられると踏んでいたのか、カイゼルはそのまま回転を続けながら、逆の足で後ろ回し蹴りを放つ。
(忍者みたいな動きかと思ったら、カポエィラみたいな蹴り技を使ってきやがるな。この動き、ゲームで見た事あるなぁ……確か、ハステイラからの、メイア ルーア ジ コンパッソだったっけかな?)
ショースケはカイゼルの動きを解析しつつ、手甲で蹴りを受け止めると同時に足を掴み、そのまま一本背負いの要領で足を担ぐように投げ飛ばし、壁にぶつける。
「ぐあっ!?」
「それじゃ、さようなら。」
そう言うと、ショースケは一足飛びにカイゼルの元へ飛び込みつつ、居合切りの要領で刀を抜き放つ。カイゼルは、そのまま上半身と下半身を両断され、その命を終わらせた。
「あ、あぁ……。」
「さて……それじゃ、大人しく……。」
「おいっ! あんた!」
「ん?」
「金なら、町長の奴よりも俺の方が持っている。だから、ワシの方に付かんか?」
「金、ねぇ……。」
ショースケは、そう呟きながら刀を鞘に納める。
すると、バーニーはこちらの語り掛けに乗ったと思ったのか、気を良くして話を続けようとする。
「おぉ、落ち着いてくれたか。それじゃ……。」
「お前に聞きたい事がある。」
「聞きたい事?」
「そうだ。クロサイト村が魔者に襲われたのは知ってるよな?」
「……あぁ、あの獣人の村だろう?」
「まぁ、先程の会話も聞いてから、お前等が原因だっていうのは分かっているが……何で、村にあんな事をした?」
「何故、だと? 決まってるだろうが! 獣人の村だぞ? あんな下等生物が纏まって住む村なんぞ、この世に必要にだろうが? それに、この町の町長もクロサイト村の村長の妹だというではないか。そんな者が人の上に立つなんぞ、言語道断だっ!」
「そういう事、か。」
「そうだ! だから、人間であるお前も力を貸せ、と言ってるんだ!」
「……くだらねぇ。」
「あ? 今、何て言った?」
「くだらねぇ、って言ったんだよ。いやぁ、清々しいくらいのクズだな? お前。」
「なっ!? 何だとぉっ!」
「まぁ……そのお陰で、お前を消すのに罪悪感なんて、一切無くなったよ。
いやぁ、良かった、良かった。」
「何ぃ……?」
ショースケの人を馬鹿にするような言い方に腹を立てたのか、バーニーはみるみるうちに顔を真っ赤にする。
「バ、バカにしおって……ワシも元は冒険者だったんだぞ? しかも、茶ランクのなぁ!」
「へぇ? それは、それは……さぞ、お強いんでしょうね。」
特に何の用意も無く、丸腰の状態でバーニーに近付いてくショースケ。バーニーの目の前まで近寄ってきた瞬間、バーニーは懐に隠していたナイフを取り出して、ショースケの腹目掛けて突き出した。
「はっ! バカめがっ!」
(ま、そんな所だろうとは思ってたけど、その通りになるとはね。
……それにしても、動き遅っ!? これが、茶ランクの元冒険者? 嘘だろ?)
ショースケは心の中でバーニーの事を馬鹿にしつつ、腹目掛けて突き出されるナイフを横や後ろに避けるでもなく、逆にバーニーに向かって軽く一歩踏み出した。
「悪の親玉どころか、三下とはね……。」
「何をっ!? イダダダダダダッ!?」
副町長がナイフを突き出した所を、ショースケは右手で身体の外へ払い出しつつ、左手で町長の肘の内側を掴み、捻ると同時にナイフを持つ副町長の手首を小手を返すように掴んで捻りながら、その手首を副町長の肩口まで運んで身動きが取れないように固めた。
「そんな呑気に痛がってられるのも、今の内だぞ?」
「イダダ……な、何を言って……?」
ゴギンッ
「うぎゃあああああああぁぁぁぁっ!? うっ、腕がっ!?」
ショースケは肩口まで捻り上げた腕を、そのまま下へ落とすように捻り落とし、副町長の肩と肘の関節を外した。かなり勢いよく腕を捻り落としたので、下手すると腕の骨まで折れているかもしれないが……。
余りの痛みに堪え切れず、絶叫するバーニーだった。
「おいおい……お前、元冒険者なんだろ? 随分と情けないんじゃないか?」
「あああああああぁぁぁぁ……俺の、俺の腕がああぁぁぁ!」
「あのさぁ……。」
「おおおおおおぉぉぉ!?」
「おい。」
「ぐぅぅぅああぁぁぁっ!?」
「……。」
「ぐおおおぉぉっ!?」
プチッ
「少し黙れ!」
「ゴベバッ!?」
声を掛けるショースケを無視して、ずっとうめき声を上げ続けるバーニーに対してキレたショースケは、掌打をバーニーの鼻に目掛けて打ち込んだ。
鼻にクリーンヒットしたのか、薄い鼻骨部分が折れて鼻血が噴き出す。しかし、副町長には相当こたえたようで、腕の関節が外れた事を忘れたかのように……いや、「ゴボゴボ」と声にならないような、何かを訴えようとしているようではあるが、何が言いたいのか分からないし、分かりたいとも思わないショースケだった。
「やっと静かになったな。」
「ゴバボベッ!?」
「まぁ、とりあえず町の混乱の原因の無力化と確保完了、っと。次は、町の鎮静化って所かね? ……さて、どうすっかな?」
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
不定期更新で申し訳ないのですが、エタらずには頑張りますので、よろしくお願い致しますm(_ _)m




