32話 TODO:原因を見つけてみる
待つこと数分。
ショースケ達の元に、偵察を終えたユーリが戻って来た。
「ご主人様ぁ、戻りましたぁ。」
「お? 随分と早かったなぁ……。
で、どうだったんだ? 何か見つけたか?」
「はいぃ。森の入口辺りに茂みが見えるんですがぁ、その茂みの奥に陣取っているのが居ましたぁ。
気配から察知しますとぉ、恐らくこの魔者の集団のボスではないか、と思える程の強い気配を1体感じましたぁ。他にも数体は居るみたいですぅ。」
「そうか……その、強い気配って奴の実力は分かりそうか?」
「そうですねぇ……あの時の[統率者]程度か、それ以上ではないかと思われますぅ……。」
「[統率者]ねぇ……という事は、カイギルじゃぁ荷が重いな。」
『えぇっ!? 私達じゃ、敵わない、の?』
「あぁ。切り捨てるようで悪いが、今のお前達のステータスじゃ、良くて相討ち、だろうな。」
『そんなぁ……。』
「今のままですかぁ?」
「あぁ、今のままなら、だ。」
ショースケの言い回しに、何かあると感じて尋ねるユーリに対して、ショースケは肩を竦めて微笑む。
それを見た、カイギルもどういう事か尋ねてみた。
『兄様、何か手があるの?』
「まぁな。お前達の気持ちは理解してる、って言ったろ? 任せておけよ……[助力の鎧]!」
ショースケがカイギルに向かって【力ある言葉】を唱えると、カイギルの身体は、僅かにキラキラと輝く薄い膜のようなものに包まれた。これも、【概念魔法】で作り出したショースケのオリジナル魔法だ。
『何か、身体がキラキラしてる……それに、身体が凄く軽い。兄様、何をしたの?』
「あぁ……まぁ、簡単に説明すると、カイギルのステータスを上昇させる魔法を使ったんだ。」
『凄い……でも、上昇っていっても、どのくらいなの? この感じだと、少しじゃないよね?』
「まぁ……ちょっと気合い入れたら、2倍になっちった。」
『ほぇっ!?』
「ふえぇっ!?」
余りにも規格外な補助魔法に驚く、カイギルとユーリ。
この威力は、流石にユーリでも驚きを隠せなかったようだ。この世界で使われるステータス上昇系の補助魔法は、例え一級品の威力だとしても、5割増し程度なのだから。
「……まぁ、ご主人様の実力はぁ、桁違いですから、気にしませんけどぉ……。」
『そ、そうだね……。』
「そんな、人を人外みたいに……まぁ、いいや。
効果時間だって限られてるんだから、急いでいこう。」
『そっか……でも、効果時間って、どの位なの?』
「効果時間は、10分って所だな。」
『10分? それって、どの位なの?』
「あぁー……そっか。そうだよな。時間の概念が違うんだったっけ……。
まぁ、そうだなぁ……今から、500程度数える位、って所かなぁ。」
『ん、分かった。』
「よし、行くぞっ! ボス以外は、俺とユーリに任せろっ!」
『はいっ! 1、2……。』
ショースケ達は、魔者達が隠れているであろう、森の入口へ向けて駆け出す。その中、カイギルはショースケに言われた通り、数を数えながらショースケ達に付いて行く。
「ご主人様ぁ、あそこですぅ!」
「……あぁ、流石に俺でも感じるぞ。どうやら、あそこにいるのが最後みたいだな。」
「はいぃ!」
迫ってくるショースケ達の気配を感じたのか、魔者達が茂みの奥からワラワラと出てくる。
現れた魔者は、全部で6体といった所か。
「まぁ、余裕だと思うけど、油断はするなよ?」
『はい!』
「よし、それじゃ行くぞ! ユーリ! 右の2体を頼む!」
「はいぃ!」
「お前等は、こっちに来いっ!!」
迫りくる魔者達に向かって行くショースケ達。
ユーリは、右に展開する2体の魔者に対して弓を放って牽制し、自分に注意を引き付ける。それに対して、ショースケは左に展開する3体の魔者に対して瞬時に突っ込んで行き、1体の魔者の腹に膝蹴りを食らわせる。しかも、残りの2体の魔者を巻き込むように吹き飛ばして、ボスの魔者から遠ざけた。
ボスに辿り着くまでの道に邪魔者が居なくなった所へ、カイギルは突っ込む。
『お前の相手はっ!この私だああぁぁっ!!』
「ガアアァッ!!」
カイギルは手の先に魔力を込めて、1本1本の爪を伸ばしそれを合わせる事によって、まるで双剣を持っていたかのように、2本のショートソードを生み出した。そして、そのまま舞うようにして、ボスに斬り掛かる。
初撃は惜しくも、魔者が装備していた鉄製の盾で受け止められてしまった。が、受けられてしまうのは読んでいたかのように、盾ごと腕を蹴り上げる。
「ゴアッ!?」
『はぁっ!』
蹴り上げる勢いのそのまま、カイギルは小さく丸まるように宙返りし、そして蹴り上げた魔者の腕を、双剣で交差させるように斬り落とした。
「ギアアアアァッ!?」
『お父さんの仇っ!!』
腕を斬られて怯んだ魔者に対して、更にカイギルは、そのまま舞うように魔者を斬って、斬って、斬って……。
「ガ……ァ……。」
斬り捨てた。
『ハァッ、ハァッ、ハァッ……。』
「よく頑張ったな。」
『兄、様…………ふぅ。ありがとう、兄様。
あれ? 他のは……。』
「あぁ、もう終わったぞ。」
「はいぃ。あっと言う間でしたよぉ。」
ショースケとユーリの言う通り、カイギルがボスと斬り合っている間に、ユーリは2体の魔者の攻撃を掻い潜りながら、華麗にヘッドショットを決めて打ち倒し、ショースケに至っては、全て一刀のもとに切り捨てていた。
『……本当に兄様達は、規格外。』
「お前だって、こいつをアッサリと倒せたんだ。もう、俺達の仲間入りだろう。」
『そんなぁ……。』
「うふふ、でもぉ、しっかりと仇は取れましたねぇ。」
『ん。兄様、姉様、本当にありがとう……あ。』
そう言うと、カイギルの姿が一瞬眩しい位に輝いた。
その光が収まると、カイとギルの2人に分かれるていた。
「お? 時間切れか?」
「うん、そうみたいだけど……おかしいなぁ?」
「どうした?」
「ん。いつもの【合体術】なら、1日は持つはず。こんなに時間が短いのはおかしい。」
「そうなんだよ。それに、力が抜けるようなダルさも無いんだ。」
「んー……やっぱ、あの強化魔法の所為かねぇ?」
「恐らく、そうでしょうねぇ。ご主人様の魔法がぁ、何か作用したのではないでしょうかぁ?」
「だよなぁ。時間が短くなっちまった、ってなるとマイナスなのかねぇ? でも、ダルさが無いんなら[魔力衰弱症]にもなってないって事だよなぁ。そう考えると、プラスに作用したと言える、かなぁ……。」
「ん。それでも、魔者は倒せたから良かった。」
「そうだよ! 兄ちゃん、本当にありがとう!」
ショースケがブツブツと1人反省していると、そんな事は気にならない、と、カイとギルはお礼の言葉を述べる。ショースケは、そんな真っ直ぐな気持ちに、少し照れ臭そうに、頬を人差し指で掻きながら答えるのだった。
「……んー、あぁー、どういたしまして。」
「ご主人様、照れてますねぇ?」
「……んんっ! それはいいから! とりあえず、こいつ等が急に現れた原因とやらを調べてみるぞ。このボス共が隠れていた場所辺りを探してみるとしますか。」
「はいぃ。」
「ん。」
「うん、行こう!」
そして魔者達が現れたと思われる茂みを探す事、数分。
ユーリが何かを見つけたようだ。
「ご主人様ぁ! 何か、変な物が転がっていますぅ!」
「おぉ、でかした。どれどれ……ん? 何だこれ?」
「水晶玉……でしょうかぁ?」
「あ、触るなよ。多分、こいつが原因みたいだし……それに、何が起きるか分からないからな。
この水晶玉について【解説】!」
【解説 Start】-----------
瘴気生成の水晶玉
周囲に漂う魔力を吸収し、瘴気に変換して放出する水晶玉。「起動」の【力ある言葉】をキーにして起動し、放置した場所に、魔者の発生を促進する事を目的に作成されたマジックアイテム。
機能を停止させるには、破壊する以外に方法が無い。
状態:損壊(大)
-------------【解説 End】
「……うん。分かっちゃいたけど、完全にこの村だけの問題じゃなくなったな。」
「はいぃ、こんな物が放置されているなんて……やっぱりぃ、ロードナイトの町が関係してる、としか考えられませんねぇ。」
「魔者の生成装置が置かれていて、村が滅びそうだっていうのに町からの助けは来ない。逆に、ここまでお膳立てしてもらってて、関係していないっていう方が難しいだろうよ。」
「そ、そんな!? だって、今の町長さんは、叔父さんの妹さんなんだよっ!? そんな人が、この村を滅ぼそうなんて考えるわけ……。」
「ギル……。」
ギルが慌てて、村長さんの妹である町長さんが、そんな酷い事をする訳が無いと思ったのか、町長さんを庇おうとして、一生懸命捲し立てた。
しかし、カイはショースケが言わんとした事を理解したのか、ギルに向かって、違うよ、と言うように首を横に振った。
「っ!? それじゃぁ……。」
「……あぁ。その町長に何かがあった、と考えるべきだろうな。」
ショースケがそう言うと、皆、沈痛な表情を浮かべ、俯くようにして黙ってしまった。
「……休憩無しで厳しいかもしれんが、急いで町に向かう。
もしかしたら、まだ無事かもしれないしな。」
「っ!? そうだよねっ! まだ無事だよっ! 急ごう! ショースケ兄ちゃんっ!」
「ん、そうね。私達なら大丈夫。」
「そうか。なら急ぐぞ。ギル、背中に乗れ!」
「えっ!? あー、やっぱり?」
「しょうがないだろう? そっちの方が早いんだから。舌噛むんじゃないぞ?」
「うぇーい……。」
「ギル、諦める。」
「分かったよ……兄ちゃん、お願いします!」
ギルはそう言うと、立っているショースケの背中に、ピョンと身のこなし軽く飛び乗った。
カイはカイで、のそのそとユーリの背中によじ登っていった。
「よしよし。じゃ飛ばすぞ。」
「お手柔らかにぃーっ!?」
「ご主人様ぁーっ! 待ってくださいぃーっ!」
いつもお読みいただき、ありがとうございます。




