30話 TODO:クロサイト村へ行ってみる
「ねっ、えっ! そろそっ、ろっ、村っ、がっ、見えるっ、よっ。」
「おぉ、もうそんな距離か。意外と早かったなっ! でも、大丈夫か? 下手に喋ると舌噛むぞっ!」
ショースケとユーリは村へと向かって走り続けていた。
もう、3時間は経っているのではないだろうか? それでも、2人は特に疲れを見せる事も無く、普通の大人が全力で走っても追いつかないような速度で走り続けていた。
「このっ、くらいはっ、へがっ!?」
「ほら、噛んだ……ちょっと、速度を緩めるか。」
「……ご主人様ぁ、何か変ですよぉ? 何かが燃えているような臭いがしますぅ。」
「ん。姉様の言う通り、臭い。」
「本当だ、臭うよ。」
「……分からん。」
流石に普通の冒険者とかけ離れた実力があるとはいえ、人族であるショースケでは、獣人族が持つ嗅覚には敵わなかった。3人には分かって、自分だけ分からないのがつまらないのか、少々拗ねたような表情をするショースケだった。
そんなショースケを見て、ユーリ、ギル、カイの3人は苦笑いを浮かべつつ、フォローしてきた。
「兄ちゃんは、しょうがないよ。僕等だって、微かに臭うって程度だしね。」
「そぉですよぉ。これは、種族特有のものですからねぇ。これぐらいは、優位に立たせてくださいぃ。」
「あぁ、頼りにしてるよ。
でも、燃える臭いか……もっと急いだ方が良いな。ギアを上げるぞ!」
「はいぃ!」
「えっ!? ちょっ、まっ、へぐっ!?」
また舌を噛んでしまったギルに対して、ちょっと申し訳ない気持ちになりながらも、ほぼトップスピードに近い速度で木々の間をすり抜けていくショースケと、それに付いて行くユーリ。
そろそろ林から抜けるかという所まで来た所で、木々の隙間から村の方角を見てみると、ユーリ達の言う通り、家が燃え、煙が立ち上っているのが見えた。
「ぼっ、僕達の村がっ!?」
「あぁっ!? そっ、そんなぁ……。」
「……村が燃えてる。」
村にある家々に火がつけられたのだろうか、村が真っ赤に燃え上がっていた。
見えた光景に唖然としてしまう一同だった……が、ショースケだけは疑問が浮かんだのか、顎先に手を添えて、燃え上がる村を見つめていた。
「? ご主人様ぁ、どうしたんですかぁ?」
「……ん? あぁ、魔者ってのは、ここまで頭が回るものなのかな? と思ってさ。」
「え?」
「ん、アイツ達は人を襲うけど、見えている人を、まっすぐ追いかけてくるだけ。兄様の言う通り、頭は良くない。」
「だよなぁ。って事は、この村が燃えている状況っていうのは、どういう事なんだ?」
「誰か、村の人が火を付けた、という事でしょうかぁ?」
「そんな……。」
「うーん。そうとも思ったんだけどさぁ、理由が思いつかないんだよなぁ。火を付けた理由が分からん。」
「ですよねぇ……。」
「……悪いな。情報も少ないのに直ぐ考え込むのは、俺の悪い癖かもしれんな。とりあえず、村の入口付近まで行ってみよう。」
「はいぃ。」
(この村には、この子達の家族がいるというのに、失言だったな……気を付けないと。)
ショースケは心の中で独り言ちつつ、ユーリと一緒にギルとカイを背負ったまま、村へと近付いた。すると、ショースケは魔者の気配と共に、離れた場所ではあるが人の気配も感じた。
そして、人の気配を感じた場所を見てみると、どうして村の家々に火がつけられのか、という考えは、ストンと腑に落ちるように納得できた。
「ご主人様ぁ、人の気配を村の東の方に感じますぅ。」
「……あぁ、俺も感じたよ。成程ね。村の人が逃げたのは、風上の方角だったんだな。それで、魔者達への牽制のために、村の人達が火を放ったみたいだ。
良かったな、ギル、カイ。村の人達は、まだ無事みたいだ。」
「ん。」
「うん! でも、急ごうよ! 風の向きが変わったら、皆が……。」
「そうだな。じゃ、ギル、また背中に乗ってくれ。急ぐぞっ!」
「うん!」
ユーリの案内の元、村人達が隠れていると思われる場所へ向かった。
「あっ! 居ましたぁっ!」
「良かったぁ……みんなぁっ!!」
ギルは、ショースケの背中から大きく手を振り、自分達が無事だった事をアピールする。
「あっ!? あれは……。」
「ギルとカイじゃないかっ!」
「無事だったのね……。」
「おおぉーぃっ!! ギルぅっ! カイぃっ!」
「あっ!? 叔父さんだっ!!」
1人の犬獣人が前に出てきて、手を振りながら、ギルとカイの名前を大声で呼んでいる。どうやら、2人の反応からして、身内の者のようだ。
ショースケとユーリは急ぎ、村人達の元へと辿り着いた。
「「叔父さんっ!!」」
「ギル! カイ! 無事だったのか。」
「うん! このショースケにぃちゃん達に助けてもらったんだ! すっごく強いんだよっ!」
そう言って、ギルはショースケとユーリを村長に紹介した。
「おぉ、そうでしたか。それはそれは、ありがとうございました。
私は、このクロサイト村の村長のザーラと申します。そして、ここに居る、ギルとカイの叔父にあたる者です。」
「ご丁寧にありがとうございます。私は、オーニキスの街から派遣された冒険者のショースケです。」
「同じくぅ、冒険者のユーリですぅ。」
自己紹介をしつつ、ショースケとユーリは、ザーラと握手をする。
そこへ、ギルが割り込んできた。
「ねぇ、叔父さんっ! お父さんは!? お父さんは、どこ?」
その問いに対して、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ、申し訳なさそうにギルに答えた。
「……すまん。ギル、カイ。
ロスは……ロスの奴は、村の者を守るために戦っている時に……。」
「そう……。」
「……父さん……。」
「ギル、カイ……。」
ギルとカイの2人は、静かに涙を浮かべた。
それでも、多少は覚悟していたのか、子供らしく泣き叫ぶ事も無く、唯々、静かに涙を流すだけだった……。
「この子達の親父は、自警団のリーダーをやっていてな、村を守るために先頭に立って戦い続けていたんだ。だが、逃げ遅れていた母子が居てな、その母子を逃がすために単身で魔者の群れの中に飛び込んでいったそうだ……。」
「その母子は?」
「あぁ、無事に逃げる事が出来たそうだ。」
「そうですか……。」
ショースケは、ギルとカイの2人を抱きかかえる。そんなショースケに対して、2人は、自分達の泣き顔を見せないように顔を押し付けながら抱き付いてきた。
そして、2人に言い聞かせるように話し掛けた。
「なぁ、ギル、カイ。
お前達のお父さんって、本当に凄かったんだな。ちょっとした冒険者じゃあ、魔者の群れの中になんて飛び込む事なんて出来ないぞ? しかも、母子の命を守ったんだ。」
「兄ちゃん……。」
「……でも、それで、自分の命を……。」
「そうだな。それでも、お前達の親父さんは、自分なら助けられると思った命を見て、それを見捨てる事が出来なかったんだろうな。だから、お前達は悲しいと思いながらも、誇らしく思っているんじゃないか?」
「……ん。」
「……ひぐっ、うん。村の皆を守るのが……俺の仕事だ、って……言ってた。」
泣きながらも、2人は笑顔を浮かべようと頑張る。
(うん。この子達は強い。
この年で、ここまで納得できているってのも、種族的なものなんだろうか? いや、この世界は、俺達の世界とは違うんだ。危険な状況が溢れすぎているからこそ、か……。)
「あのぉ、村長さん。それにしてもぉ、何で、町の人間が助けに来ないんでしょうかぁ?」
「うむ……助けを求めに、数名の足の速い者を向かわせたんだが、助けは来なかった……それどころか、助けを求めに向かった者さえも、戻ってきておらんのだ。」
「それは……魔者にやられた可能性は無いのか?」
「あぁ。確かに、その可能性は無いとは言えない、が……町の方角は、魔者が大量に現れた大森林とは、反対の方角なんだ。
それに、3人一組のメンバーを3組送っているんだ。多少の魔者に襲われた程度であれば、全滅という事は無いはずだが……。」
「それならぁ、町には無事に着いていそうですねぇ。」
「あぁ。そして、町で何かあった、という事もな。」
村長のザーラがそう言うと、ギルやカイ、それにこの話を聞いていた村人達も、皆、表情を曇らせ、黙りこんでしまった。
「……確かに、町も心配なのは分かるが、それよりも、この村の問題解決の方が先決だろう?」
「あぁ、その通りだ。」
「ところで、村に入る前から気になっていたんだが……この火事はどうしたんだ? それに、今、この場所は風上だから大丈夫かもしれないが、このままここに居て平気なのか?」
「あぁ……火事については、ショースケさんならお気づきなんじゃないですか?」
「まぁ、何となく、ね……魔者避け、って所なんじゃないか?」
「はい、その通りです。家を燃やす事によって炎の壁を作り出し、魔者がこれ以上、寄ってこれないようにしています。」
「ほえぇ、そうだったんですねぇ……それじゃぁ、風向きはどうなんですかぁ?」
「風向きに関しては、風向調整の魔石道具があって、それを使って、この場所が風上となるように調整しているから、大丈夫なんだ。
ただ、魔石が、あと1日か2日程度しか持たないだろうから、それまでは大丈夫、としか言えないがな……。」
そう言って、家の外を見てみると、なかなかに巨大な扇風機が置いてあった。
どうやら、この道具を使って、自然の風向きを調整しているようだ。
「そうか。それなら、後は俺達に任せてもらおうか。
とりあえず、ここに来るまでの魔者が駆除してきたから、後は、大森林とやらの魔者を片付ければ何とかなるかな……。」
「あんたら2人だけでか!?」
「そうだよっ! ショースケ兄ちゃん達って、凄い強いんだよっ!」
「ん。襲い掛かって来たと思ったら、大抵一撃で終わり。」
「それにね、兄ちゃん達って、黒ランクの冒険者なんだって!」
「何っ!? そっ、それは本当かっ!?」
「「ん。」」
ギルとカイの2人が同時に……何故か、自慢気に頷いた。
「そいつは、凄いな……それなら、あんた達に魔者退治を頼む事は出来ないだろうか?」
「元々、北の大森林の魔者の発生の調査の依頼でここまで来たんだ。俺達が原因を調べてくるよ。」
「そうか、それなら助かるよ。
確かに、魔者の奴等は村の北の入口の方から、急にワラワラと現れたんだ。そんな事は今まで一度も無かったから、北の大森林辺りに何か原因があるんだろうとは思っていたんだが、村の男衆だけじゃ、ここで家に火を付けたりして、何とか食い止めるだけで精一杯だったんだ。
……まぁ、それでも、何人かはやられちまったがな……。」
「そうですか……。」
「……いや、そんな事は言ってられないよな。
人任せになってしまって申し訳ないが、後は頼む。やられちまった奴等の分も。」
「えぇ。それじゃ、行ってきます。」
いつもお読みいただき、ありがとうございます。




