1話 TODO:現状把握をしてみる
(これって夢、だよな? だって、自分の家に帰ってきたら、そこは異世界でしたーっとか、それってゲームやファンタジーな小説の話だろうよ……)
彰介は落ち着こうとして、1つ深呼吸をしてみた。
実は夢でしたと、いうオチを期待して、再度周りを見てみるが、特に何も景色は変わらなかった。次に、自分の頬を抓ってみるが、痛みを感じるだけで何も変わらない。
(やっぱり現実なのかよ――あー、待てよ!? もしかしたら外に出れば戻れるんじゃ?)
彰介はハッと思いつき、かなり重厚な木の扉を開けて、外を見てみる。
だがしかし、視界に入ってくる景色は、木造やレンガなどで出来た中世ヨーロッパで見るような建物や、土を踏み固めただけのような道。
そして何よりも、帰ってきた時間は夜中だったはずなのに、眩しいくらいの太陽の光が、そこら中を照らしているのだった。
(あー、入り口で世界が変わるって事は無いか。 あ、馬車もいるわ。ファンタジーだなぁ――って、あれ馬じゃねぇな。見た目は馬っぽいけど、かなり太い足が八本もあるじゃねぇか……。)
彰介は、「パタン」と、そっと扉を閉めた。
そして、深い溜息をつき、項垂れた状態で頭を振った。
(よし、何でか知らないが異世界に迷い込んでしまったという事は理解した。現実逃避をするのもやめるとしよう。まぁ、俺だって健全な男子だから、冒険とか、未知なる怪物と戦うっていうのも憧れていたしなー。
でも、ゲームみたいに、『俺様無双!』みたいな感じでは暴れる事なんて、出来ないだろうしなー。何てったって、『力が漲ってくるぜ!』とか、『何だ? この能力は?』とか、『おぉ、これが魔力か!』みたいな気配すら感じないし…)
まぁ、本当に健全な男子が皆、怪物と戦いたがっているかどうかは別として、ヒーローなどには憧れる者は多いだろう。若干、残念な考えを頭の中で撒き散らしているようだが、彰介は、これが現実なのだという事を認識して諦めたようだ。
といった所で、「ぐぅ」と彰介の腹の虫が鳴りだした。
(あー、そういえば、昼から何も食ってなかったっけか。よし、あれこれ考えるのは後にしよう。とりあえず、腹が減った!)
とりあえず酒場内に戻った彰介は、辺りを見回し、カウンターが比較的空いているようなので、カウンターテーブルに座る事にした。
(今まで見た景色やら雰囲気から予想すると、どうも時代的にはファンタジー映画で見るような、中世ヨーロッパ位な感じなんだよなー。
やっぱりもう、白いご飯とか食えないのかなぁ…こんな事になると分かってたら、この世界に来る前に牛丼とチャーハン一杯食っとけば良かったなぁ…。)
「あ、お姉さーん! お願いしまーす!」
「はーい! ご注文はお決まりですかー?」
「えっと、食事を頼みたいんですけど…」
「はい! えっと、今すぐに出せる食事だとぉ…日替わりのパスタか、定食のAセットか、Bセットになりますね。」
(えっ!? パスタ? この世界にはパスタがあるのか! でも定食っていうのも何なのか気になる所だ。でもパスタって言っても、名前だけが同じで、元の世界と同じものやつじゃなかったらショックだしなぁ……。
とりあえず、この世界の定食がどんなもんか知りたいし、定食頼んでみるとしようかね。)
「じゃぁ、定食のAでお願いします。」
「はーい、ありがとうございまーす! 100オロになりまーす!」
と言って、右手の平を上にして、こちら差し出してしてくるウェイトレス。どうやら、先払いで金を寄越せという事なのだろう。
彰介は当然知らない事であるが、実はこの世界では当たり前の事なのである。レジや会計場所があるわけでは無いうえ、更には日本のように治安が良いというわけでないので、皆が行儀よく支払いを済ませるわけではないのだ。
(あぁ、先払いなのか、この店は……!? ちょっと待て! 俺、元の世界の金しか持ってないぞ!? ――いやいやいや、そういえば俺は、急に異世界に来たうえ、格好まで変わっているんだ。この流れで行くと……)
彰介は、自分の身体を弄ってみる。
すると、腰の当たりのベルトに、皮で出来た袋が結ばれている事に気付いた。
(おし、あったあった。 んじゃ、この中に金が入ってるとかいうご都合主義ってやつですかね――)
皮袋の紐を解き、中を開けてみると、硬貨らしきものが入っていた。
(よーしよし! ありがとう、ご都合主義! えっと、財布の中は――クレジットカード位の大きさの金の板が…5枚と金貨が3枚、銀貨が7枚と…何だこれ? 鉄の硬貨かな? それが5枚って所か。って金はあったけど、価値が分かんねーよっ!?)
そしてため息を一つ。
(――とりあえず100オロっていっても、食事の一食分だ。小説とかの定番でいけばだ、金貨1枚出しときゃ何とかなるはずだ。よし、それで行ってみる事にしよう!!)
彰介は、袋の中から金貨を1枚出して、ウェイトレスさんに手渡す。
「すいません、これで足りますか?」
彰介から手渡された物をウェイトレスは確認すると、びっくりした顔ではあるが、何度も頷いた。
「お客さん、金貨でお支払いなんて儲かっているんですねぇ! 見た目からすると、冒険者の方ですかぁ?」
「(あちゃー、多すぎたかぁ――まぁ、足りてるんであれば問題ないか。)いや、かなり田舎から出てきたものだから、お金の感覚が……(そうだ! この娘に金の価値を聞いてみる事にしよう。)そうだ! お釣りは全部、君にあげるよ。」
「えええぇっ!? お釣りって銀貨が9枚でしゅよっ!!」
「(あ、噛んだ。かわえぇ。)まぁまぁ、落ち着いてよ。その代わり、ちょっとだけ時間を貰えないかな? この街の事とか教えて欲しいんだけど……。」
「わ、分かりました! そういう事なら……あ、ちょっと店長に聞いてくるので、待っててください!」
猫耳のウェイトレスさんは、ダッシュでキッチンに向かっていった。どうやら、店長さんに許可を貰いに行ったようだ。
……少し待つと、許可は貰えたようで、ニコニコしながらダッシュで戻ってきた。
「お待たせしましたーっ! とりあえず、何からお話しましょう?」
「えっと、お金……の前に、俺の名前は、彰介って言います。お姉さんの名前は何ていうんですか?」
「はい、私はマイマイっていいます! ショースケさん、よろしくお願いしますね。」
やはり、和名は馴染まないようで、若干変なイントネーションになってしまうようだ。
「(まぁ、名前はいいや)でさ、この街とか、国のお金の大体の価値とかを教えてくれないかな。例えばここら辺の宿の値段とか、お金の種類とかも教えてくれると嬉しいんだけど……。」
「はい、いいですよー……それにしても、ショースケさんって、一体どこから来たんですか? お金の種類って……」
「いや、まぁ……あの、かなり山奥で修行してたもんだから、世間に疎くてね……」
「へぇー、大変だったんですね。」
理由としては、かなり無理矢理ではあったが、何とか納得してくれたようだった。ショースケは、とりあえず話を進める事にした。
「で、俺はこんな感じでお金を持っているんだけど……」
ショースケは話しながら、持っている袋の中身をマイマイに見せる事にした。
「うわぁ、結構お金をお持ちなんですね! えーっと、これが……。」
マイマイから教えてもらった内容を纏めてみると、このような内容だった。
・お金の価値は、このようになっている。
1オロ → 鉄貨1枚
10オロ → 銅貨1枚
100オロ → 銀貨1枚
1,000オロ → 金貨1枚
10,000オロ → 金板1枚
1,000,000オロ → 白金板1枚
・ここら辺の食事だと、軽食で50オロ程度、普通の食事だと100オロ程度。
・焼き鳥みたいなものだと、1本、10オロ程度。
・普通ランクの宿だと、1泊で700オロから、1,000オロ程度らしい。
「――こんな感じですが、どうでしょう?」
「うん、ありがとう。とても助かるよ。」
「どういたしまして……あ、丁度定食が出来上がったようです。お持ちしますので、お待ちくださいね。」
と言って、マイマイさんはキッチンに戻り、定食を持ってきてくれた。
出された定食を見てみると、それはどう見ても、トンカツ定食にしか見えないものだった。定食の内容は、白いご飯に、海草のスープ。そしてメーンが、豚肉であろう肉のカツレツと、キャベツだろうと思われる野菜の千切りだった。
(どうやら、食文化は俺がいた世界とあまり変わらないのかな? まさか、ご飯とトンカツに出会えるとは思わなかったなぁ。それじゃ……。)
「美味しそー……ねぇ、マイマイさん。マヨネーズって無いんですか?」
「え? ま、まよ? まよねーずですか? あのー……それって何ですか?」
「あ、ごめん、何でもないよ! 気にしないで。」
「は、はぁ……。」
どうやら、食事事情は似ているようだが、若干ではあるが異なる所があるようだった。似たような感じで、マイマイに確認してみたが、どうやらこの世界には、マヨネーズ、醤油、味噌、山葵は存在しない事が分かった。
(とりあえず、いただきますか……ハフッ、こりゃ旨い! カツ自体も結構厚めだし、ウスターソースも合うなぁー。まさか、異世界に来て、ご飯が食えるなんて思ってもみなかったし……おっ、スープも旨いわぁー。だけど、この海草は何だろう? 若布っぽいんだけど、やっぱこの世界だと違うのかなぁ?)
ショースケは、空腹もあったが、元の世界とあまり変わらない料理に感動しつつ、美味しい料理に舌鼓を打ち、綺麗に平らげてしまった。
「とても美味しそうに食べてましたね。お気に召してくれました?」
「えぇ、とても美味しかったです。他の料理も気になりますから、また来ますよ。」
「ありがとうございまーす! ぜひお待ちしてますねっ!」
本当にうれしいようで、マイマイは尻尾をブンブン振り、そう答えた。
「そういえば、さっき冒険者って言ってたけど、この街には冒険者って多いのかな?」
「そうですねぇー、やっぱり冒険者の方は多いですねぇー。その沢山の冒険者さんのお蔭で、武器、防具、薬、治療院、酒場、宿のお店もやっていけるって感じですかねぇー。」
「なるほどね……(そうだよな。仕事して金を稼がないと、この世界でも生きていけないもんな……やっぱりここは、定番通り、冒険者をやるしかないっしょ!) ねぇ、俺も冒険者をやろうと思って、この街に来たんだけど、どこに行けばいいのかな?」
「あぁ、そうだったんですね。冒険者としてお仕事をするんでしたら、冒険者ギルドで登録をする必要がありますよ。」
「その冒険者ギルドって、どこにあるの?」
「お店を出て左にまっすぐ進むと、大きな建物が見えます。そこが冒険者ギルドになりますよ。」
「そうなんだ、色々とありがとう。それじゃ、ご馳走様でした。」
「ありがとうございましたぁー! またお待ちしてまーす!」
マイマイに見送られ、ショースケは店を出るのだった。
間違いの修正(2015/09/02)
まさか、ご飯としょうが焼き → まさか、ご飯とトンカツ