17話 TODO:生きる為に足掻いてみる
肘上の辺りから斬られた左腕の方は、ユーリが必死に傷口にポーションを振り掛けてくれたお蔭で、血は止まっていた。
腹を殴られた時のダメージについても、ポーションを飲んだ事によって、痛みは無くなっている。
「大丈夫ですかぁ、ご主人様ぁ?」
「あぁ、何とかな……。」
残った右手だけで、脇差を構えるショースケ。
そして、統率者からユーリを庇うように、立ち塞がる。
(ん? 由里、なのか? ……いや、ユーリだっけか。あれ? どっちだ? いや、ここはどこだっけ……。)
腕を斬られ、殴られて血を吐いた事により、結構な血を失っている。その所為か、異世界に来て、魔者と戦っているというのに、意識を集中できていない。それに、ユーリを見ても由里の姿が被ってしまうなど、意識も混濁していた。
ジャリッ
もうショースケ達には、何も出来ないと思っているのだろうか。統率者は、大剣を肩に担ぎ、あざ笑うかのような表情を浮かべ、ゆっくりと歩み寄ってくる。
「……俺は、出会った時から、こいつは……こいつだけは、守ってやろうって思ったんだ。こんな所で……こんな所で、死んでたまるかっ!!」
「ご主人様ぁ……。」
ふらつきながらも、歩み寄る統率者に向かっていくショースケ。握る脇差に力を籠め、統率者に相対し気合を入れる。
――ソノネガイ、カナエヨウ――
「えっ?」
頭に直接響いてきたとしか表現できないような声に、一瞬気が逸れてしまう。統率者は、そこを見逃さずに襲い掛かろうとした瞬間、失われたはずの左腕の部分から、眩しいくらいの光が発した。
「うっ!?」
「きゃあっ!?」
輝きは徐々に収まり、その光がショースケの腕を模ると、光は収まっていく。そこに残されたのは、ショースケの左手だった。
驚くべきは、斬られる前と全く同じ状態に戻っている事だった。
「……これは?」
「ご主人様の腕が……戻った?」
(俺の左手が戻った……のか? 確かに違和感は無いが、さっきよりも力が漲っている。これなら、この場を切り抜けられるかもしれない。)
「ガアアァッ!」
「チッ。」
不意に迫る統率者の横薙ぎの一撃は、ショースケは左の手甲だけで、難なく受け止めてしまった。先程までのショースケであれば、この一撃は両手でも受け止めきれずに吹き飛んでいただろう。
「ギィッ!?」
「ん? そんなもんだったっけか、お前?」
「グアアアァァァッ!!」
先程まで嬲るだけの存在だったはずの人間が、自分の一撃を簡単に受け止め、挑発しているのだ。言葉は通じていなくとも、ショースケの嘲笑混じりの挑発を受け、激昂するのも無理は無かった。
吠える様な大声と共に、大剣を振り回す。人間が振り回すにはとても難しいような大剣を難なく片手で振り回す
しかしショースケは、その迫り来る大剣を脇差で受け流し、手甲で受け止める。
とはいえ、大剣の振り、その合間に繰り出される打撃は素早く、隙は無い。統率者の攻撃を何なく対応できているとはいえ、防戦一方であった。
「……っ、の! いい加減にしろっ!」
「ゴアァッ!?」
大振りの一撃を受け流した所で、前蹴りを統率者の腹に入れて距離を離す。
統率者は吹き飛ばされるが、数メートル離れた所で、何とか踏みとどまった。しかし、攻めあぐねてしまったのか、大剣を構え動きが止まる。
「ググッ……。」
「どうやら、あの声のお蔭か分からんけど、俺のステータスが上がってるみたいだな。後は……こいつが脇差じゃなくて、太刀程度のリーチがあればなぁ……。」
そう言って、自分が持つ得物を見てみると、美しい銀光を放っていた刀身は、真っ黒に染まり、70cm程度まで伸び、その刀身は黒いままであったが、美しい光を放っていた。
「……マジか。まぁ、ここまでお膳立てしてもらったんだ。さっき良いようにやられた分、しっかり返してやろうじゃないか。」
ショースケの得物の脇差が、太刀程度にリーチは伸びたとはいえ、統率者が操る両手剣と比べてしまうと、長さ、質量共にまだ負けていた。
しかし、そんな事は些末な事とばかりに、ショースケは静かに正眼に構えていた。
(ふーっ……肩の力を抜け、柔らかく、全ての動きに対応できるように。そして、足先に、指先に力を籠めろ、相手の対応よりも速く動けるように。)
地球での剣術道場で習った事を思い出し、気を巡らせるように意識を持っていった。すると、両手、両足が仄かに光に包まれていく。
この世界には、気とは異なり、魔力という目にも見える形で具現化する力が実在する。ショースケは無意識の内に、気と同様に魔力を体中に巡らせ、力を籠めたい部分を視覚で確認できる程の魔力で覆い、爆発力を高めていたのだった。
統率者はショースケの雰囲気が変わったのを見計らい、八相に構えた状態から、ショースケの間合いの外から袈裟掛けに斬り掛かってきた。
「ガアアアァッ!!」
「ふんっ、でけぇ大剣の方が有利だと思ってんじゃねぇぞ!」
切り落とし――相手から切り掛かる太刀に対して、その起こりを見抜き、少しもそれにこだわらず、己からも進んで打ちだす。そして、相手の太刀を切り落とし外して己を守り、その一拍子の勢いでそのまま相手を真っ二つに切る。
ショースケは説明の通り、一歩踏み込みながら刀を上段に振り上げ、素早く振り落とし、統率者の大剣のを滑らせるように切り落しながら切っ先を逸らし、大剣を持っていた両手を切り落した。
「ゴアアァァァァッ!?」
「消えろっ! この、ボケがぁっ!!」
統率者が自らの手を切り落された事に驚愕する隙を逃さず、ショースケは刀を振った。首を横薙ぎ、肩から袈裟切り、そこからの返す刀で脇腹へ向けて逆袈裟、そして止めに、脳天から唐竹割りに斬り付けた。
目にもとまらぬ速さで、縦横無尽に刀を振るったショースケ。その剣閃すら追えなかった統率者は、何が起こったか理解する前に刀が通り抜けた場所に筋が入り、身体はバラバラと崩れ落ちた。
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ユーリは驚愕していた。
つい先程まで、あの統率者と名付けた魔者に軽くあしらわれていた。このままでは、二人とも殺されてしまう、と半ば諦めのようなものまで感じていた。
しかし、片腕を失い、勝てそうにもない相手を前にしても決して諦めず、自分を守ろうとするショースケを見て、「自分の命などどうなっても良いから、この人を守りたい」と思い、矢を番え、ショースケの前に出ようとしたその時、声が頭に響いてきた。
――ソノオモイ、トドケヨウ――
「え?」
確かに声が聞こえたのだ。
しかし、それは一瞬の事で、その声が掻き消えた後、ユーリの思い人は、眩いばかりの光に包まれ、失われたはずの左腕が戻っていた。
そればかりか、先程よりも鋭く、そして激しく襲い掛かる統率者の斬撃さえも、軽くいなしてしまったばかりか、あっと言う間に倒してしまったのだ。
兎獣人族であるユーリは、動体視力は人間族に比べると、とても優れたものである。人間族では目で追えないような動きをする虫や動物でさえ、追いかけ、狩る事ができる種族である。
しかし、ショースケが統率者に向けて最後に見せた攻撃は、兎獣人族であるユーリですら、4回も斬ったという剣閃、いやショースケの動きですら、目で追う事が出来ない程の速さだった。
「ふわあぁぁ……凄いですぅ、ご主人様ぁ……。」
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最後の魔者――統率者が崩れ落ちるのと共に、歓声が聞こえた。ここら一帯に現れた魔者が、全て片付けられた事を知り、村人達が喜んでいるのだろう。見張りに立っていた若い男達は、バリケードの柵を片付け始めていた。
「……そういえば、ここって畑だったっけか。かなり荒らしちまったなぁ……。」
「そうですねぇ。でも、荒らさないで戦うなって、無理ですよぉ。」
「だよなぁ……。」
畑一帯を見渡すと、見事に踏み荒らされていた。特にショースケと統率者が争っていた場所は酷く、抉れている箇所もあった。
魔者達が落としていった魔石を拾い上げながら、ショースケ達は溜息をついた。
「まぁ、無事……かどうかは分からないけど、倒す事が出来たな。それにしても、今回は本当にやばかったな。それに、酷く疲れたよ。
ユーリ、さっさと街に帰って、ゆっくりしようか。」
「はいぃ、ご主人様ぁ。」
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
ネタがつまり気味です……週1回のペースに落ちてしまうかもしれませんが、変わらず、お読みいただければと思います。
よろしくお願いしますm(_ _)m




