14話 TODO:定番の話をこなしてみる
(そういえば、ユーリを仲間にしてから冒険者ギルドには何度も顔を出しているけど、よくある、「新入り如きが可愛い女を連れてるじゃねぇか。」とか、「俺達が可愛がってやるから、こっちに寄越せや。」とかの定番イベントは無かったなぁ。
いや、それ以前の話で、この街って治安良いよな。スラムっぽい所は無いし、騎士団が見回りしているのも、よく見るからかねぇ……?)
そんな事を考えつつ、ショースケは冒険者ギルドにてクエストボードに貼り出されている依頼を確認していた。
ちなみに、街近辺の採取依頼や、街中の雑用依頼などの依頼を規定回数―白から黄へランクアップするには、10回の依頼を達成する事―を達成させた事により、ランクは一つ上がっていた。現在確認しているのは黄ランクの依頼である。
話は変わるが、ここ、オーニキスの街は王都に近く、国内でも5本の指に入る程の大きな街である。そこまで大きい街となると、その大きさに見合う程度に、種族を問わず人が集まるものである。そして、それだけの人が集まれば、軋轢も生まれるし、暮らしの中でも光と闇が生まれやすいものだ。
しかし、オーニキスの街は、領主や貴族、それに騎士団が優秀な為か、国内でもトップレベルの治安の良さを誇っている。その為、この街に所属する冒険者の品や質も高いもので、進んでトラブルを起こすような者は滅多にいないのだ。
しかし、この街から一歩出てしまうと、そうでも無い者も多い。現に、偶々この街にやってきた流れの冒険者達が、丁度フラグを立ててしまったショースケに絡もうと近付いて来ていた。
「なぁ、兄ちゃん。随分可愛い女を連れてるじゃねぇか。手前じゃ勿体無いから、俺達が貰ってやるよ。」
「あっはっは、確かに勿体ねぇや。俺達が有意義に使ってやるぜぇ?」
可愛くグラマーな女性を引き連れているのが、黄ランクの依頼を確認しているような駆け出しであり、見た目も線が細いので、屈強な体付きの冒険者達から見れば、ひ弱そうな男にしか見えないのだろう。
下卑た絡み方をするような素行の悪い男達から見れば、それは恰好のエサとして見られてしまうのは仕方無いのかもしれない。彼らはこれまでと同様に、難癖を付けた上、最終的には暴力でどうにかしてしまおうと絡んできたのだろう。
「……。」
「なんだぁ? ビビッて声も出せ…」
「よしっ!」
「な……あぁん?」
ショースケは、絡んできた男達の声を無視し、クエストボードから依頼票を剥がしてユーリに話しかける。
「ユーリ、この依頼にしようか。この、白ランクの魔者数体の討伐依頼だったら、討伐経験の無いユーリでも……。」
「あ、あのぉ……ご主人様ぁ……。」
「ん?」
ユーリが狼狽えながら指差す方向に顔を向けると、先程声を掛けてきた男達が、額に青筋を立てつつ、「舐めやがって」とか「こいつ……」など、ブツブツ呟きながら、こちらを睨んでいた。
どうやらショースケは、依頼の事ばかり気にしていて、本人が期待していた定番のイベントで絡まれていた事に、全く気が付いていなかった。
「えーっと……何か用?」
「あぁっ!? ふざけんな、くそガキャーっ!!」
初めに絡んできた男が怒声を上げながら、殴りかかってくる。
しかし、ショースケは落ち着いて様子でユーリを下がらせ、自分に向かってくる拳に対して、半歩程度外に身体をずらし、左の掌を軽く添えて拳をかわす。
それと同時に相手の方に踏み込みながら、右手で相手の首を掴むと同時に足を払い、男の頭を思いっきり床に打ち付けた。
ドゴッ
「ぐぉっ!?」
殴りかかってきた男は、あっと言う間にショースケに返り討ちにあってしまい、白目を剥いて気絶してしまった。
「なぁっ!? ゴートの奴が一瞬でやられた、だと……?」
「定番キターっ! 声に出さなくても、フラグって立つもんだな。」
「ご主人様、凄いですぅ! ……ご主人様、「ふらぐ」って何ですかぁ?」
「あー、まぁ、気にすんな。」
両手を上げて心躍らせるショースケと、絡んできた相手を簡単に組み伏せるのを見て、尊敬の念を込めて目を輝かせるユーリ。
一方、仲間の一人が簡単にやられてしまった事に若干怯みはしたが、残った連中は、自分達よりもランクが下位の者に舐められるわけにはいかない、と、奮い立たたせてショースケに襲い掛かる。
「ゴートの奴が、油断しやがっただけだろ? 行くぞっ!!」
「あぁ! てめぇ! 俺達、青ランクの[深紅のき…」
ドボッ
「ばはっ!?」
ドゴッ
「あぐぅっ!」
脅し目的だろうか、自分達のランクとパーティ名を出しながら殴りかかってきた相手には、腹に足刀を入れて蹲る所に、顎へ掌底を入れて突き上げるのと同時に、足を払ってその場に打ち倒す。
「やりやがったなっ!」
ゴギンッ!
「がぎゃぁっ!?」
次に、後ろから肩を掴んで殴りかかろうとしたきた相手は、掴んで引っ張ろうとした力に抵抗せず、身体を相手に向けると同時に、ショースケは自分の腕を相手の腕を絡めるように巻き込んで掴んだ。
そして掴んでいる相手の肘に対して、腕が曲がる逆の方向から掌底を叩きこんで肘関節を外し、そのままの勢いで腰を払いあげて投げ飛ばした。
「このガキャぁ! 死にやが…」
ドッ
「ぶほっ!? ぐあっ! くそっ、うぅ……。」
ズダンッ!
「あぎゃぁっ!?」
最後に、長剣を抜いて斬り掛かってきた相手に対しては、斬りかかられる前に相手の懐へ入り込みながら肘を腹に入れ、首投げで先程投げ飛ばした相手の上に落とす。
止めに、剣を持っていた手を震脚で踏みつけ、剣を手放させた。
「うーん……青ランクパーティの実力って、こんなものなかねぇ? ……ん?」
絡んできた相手を一通り片付けた所で、肩の力を抜くと、「パン、パン、パン」と手を叩く音が後ろから聞こえてきた。振り返って見てみると、その正体は、拍手をしているエリナだった。
話は、少し前に戻る。
エリナは、受付のある広間とは別の部屋で資料を片付けていた。その資料というのは、前々から問題行動を起こしていた[深紅の牙]のメンバーに対する陳情書や、苦情などの報告書だった。そこへ丁度良く、ギルド所員から[深紅の牙]がギルドへ来た、という報告を受けたので、拘束するべく受付へ出てきた。
広間へ入ったその時、エリナが見た光景は、[深紅の牙]のメンバーがショースケに殴り掛かる所だった。
ショースケなら問題無いだろうという考えと同時に、多人数相手にどれだけ出来るか見てみたいと思い、見守る事にしたのだ。
「エリナさん。」
「見事だね、ショースケ。」
「……もしかして、俺、やりすぎちゃいました?」
「いや、こいつらの方が先に手を出してきたんだ、問題無いよ。それに、こいつら[深紅の牙]は、前から問題を起こしているんだ。こいつ等から話を聞くために、締め上げようと思っていたから丁度良かったよ。
さてと……副ギルド長の権限で皆に伝える! 今回の乱闘の件は不問だ! 騎士団には問題の冒険者パーティは捕縛し、ギルドが預かると伝令を出しなっ!
それと、講習師範の者を3人呼んできておくれ。[深紅の牙]のメンバーを懲罰室に連行するよ。」
「えっ!?」
受付や他の職員達に向かって指示を飛ばすエリナを見て、ショースケは驚いた。
講習の際に指導をするなど、只者では無いとは思ってはいたものの、自分の担当する受付嬢(?)の正体が、副ギルド長の地位に就く者だとは思いもしなかったからだ。
「はぁー。エリナさんって、偉い立場の方だったんですね? ……それにしても、何で、受付嬢をやってるんですか?」
「そりゃ決まってるじゃないか。このギルドの奥にある、自分の部屋に籠って仕事なんかしててごらんよ。見なきゃいけないものも、見えなくなってしまうだろう?」
「流石、副ギルドマスターですぅ。格好良いですぅ。」
「……ちなみに、本音は?」
「偉い立場の仕事は、つまらないんだよ。現場に近い方が楽しいじゃないか……例えば、ショースケみたな桁外れの新人なんかが、ポッと出てきたりするからねぇ。」
「あー、何と言うか……エリナさんらしいというか……。」
だからといって、受付嬢じゃなくても良いんじゃないか? と心の中で、そっと呟いたショースケだった。
「まぁお咎めも無いみたいですし……あ、そうだ、エリナさん! 俺達、この依頼を受けたいんですけど。」
「どれ……あぁ、アパタイトの村近辺で発生した魔者の討伐依頼だね。ショースケなら、問題無いだろうね。それじゃ、手続きをしておくよ。」
「はい。ちなみに、アパタイトの村へは、どうやって行けばいいんでしょう?」
「あぁ、アパタイトの村は、この街の南門から出て南へ行った所にあるよ。徒歩だったら、通りを南へ1日程度歩けば着くよ。」
「ふーん、結構遠いですね。もう一つ教えて欲しいんですけど、アパタイトの村には冒険者ギルドは無いんですか?」
「村になってしまうと、簡易的なものしか無くて……そうだねぇ、仮ギルドみたいなもんかねぇ? 近くの街のギルド員が村へ交代で出張して、依頼を受けたりする位しかしてないんだよ。冒険者自体は皆無だねぇ。」
「そうなんですか……じゃあ、出来れば急いだ方がいいですね。」
「この依頼は今日受けたばかりの物だし、出てきた魔者も低ランクだから、被害はまだ大きくないだろうけど、そうしてくれると助かるよ。」
「分かりました! それじゃ、準備を整え次第行ってきます!」
「あぁ、頼んだよ!」
「行くよ、ユーリ。」
「はいぃ、ご主人様ぁ。」
エリナに挨拶し、ショースケ達は冒険者ギルドを後にした。
そして、アパタイトの村へ旅立つ前に、片道で1日は掛かるという事だったので、食糧などを買い付ける為、エリナに教わった冒険者ギルド認定の商会に行く事にした。
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