9話 TODO:元の世界に戻ってみる
奴隷のユーリを仲間にしてから、出来る限り簡単な依頼をこなしつつ、ショースケもこの世界の生活に大分慣れてきたようだった。
いつもの様に支度を終え、冒険者ギルドへ出かける前に、一階へ朝食を食べに行こうとした所だった。
「よし、じゃあ今日も頑張ってお仕事しようか! ユーリ、行くよ!」
「はい、ご主人様ぁ。」
勢い良く部屋の扉を開けると、コンクリートで出来た廊下に出た。
「え?」
「え? って、これ、何か既視感を感じるぞ……。」
辺りを見回すと、そこはショースケにとっては少し前まで見慣れていた景色が視界に入った。
「……ん、ここは? …………あれだ。俺の住んでるマンションだ、ここ。
えっ? 元の世界に戻ってきた、だと?」
不思議に思うのも無理は無かった。何せ、もう元の世界には戻る事なんて出来ないだろうと思っていたのに、さらりと戻ってきてしまったのだ。
ここは間違いなく、現実世界で自分が借りている賃貸マンションの部屋の前である。丁度、扉から出たような感じだった。
「あらら、本当に戻ってきたみたいだなぁ……。」
次に、自分の姿を見てみると、これも現実世界で着慣れていたお気に入りのダークグレーのスーツ姿だった。そして、自分の身体を弄ってみると、胸ポケットに使い慣れていたスマホがあった。
「スーツにスマホね、現実だわぁ……あぁーっ!? 魔法も飛び交う世界だっていうのに、俺、魔法使ってないじゃん! うわぁー、魔法使ってみたかったなぁー。」
そんな事を呟きつつ、彰介はスマホを取り出して電源を入れた。
「今日の日付って……。」
スマホの画面を表示して、今日の日付と時間を確認してみた。
「4月13日、月曜日か。そして……時間はご丁寧に、出勤前の8時、と。」
彰介が異世界に迷い込んだのは、丁度、4月11日の土曜日となった瞬間だったはずである。どうやら、異世界に行っていた間、2日間の時間が過ぎていたようだ。
「……あれ? っていう事は、週末だけ異世界に迷い込んだって事か。
お? でも…え? あっちでは、4日は過ごしたはずなんだけど、計算合わなくね? あー、もぅ訳分からんなぁ……。」
異世界に行っていたのは夢だったのだろうか? と思いつつ、利き腕を触ってみると、あちらの世界で貰ったギルドバングルが、ガッチリと腕にはまっていた。
「ってあれっ!? 服装はしっかり変わってるのに、何でギルドバングルだけあんの? そういえば、ユーリはどうなったんだ!?」
「やっほー。」
「うわっ!?」
実は、ユーリも一緒にこちらの世界に来てしまったのではないか? と、確認しようとして振り返ってみると、そこには見た目が10代前半位の少年…いや、少女とも思える中世的な顔立ちの人物が、右手を上げて立っていた。
「あー、びっくりした……って、誰?」
「えーっとねー。僕、これでも神やってまーす。」
「…………は?」
声のトーンと喋り方からすると、どうやら少年のようである。しかし、その少年は、「神」と名乗る者だった。
特に神々しさみたいなものは感じないが、異世界に迷い込んだ事といい、急に現実世界に戻ってきた事を考えると、「この流れから神登場、か……ありだな」と一人納得する彰介だった。
「えーっと、その神様が、一体何の御用で……?」
「お? 理解が早くて助かるよー。あぁ、言葉遣いとか正さなくていいよー。フランクにいこうよー。」
「は、はぁ……(軽っ! 神様、ノリ軽っ!!!)」
「えぇー? そんな事無いけどなー。気楽に話したいだけだよー。」
「って、聞こえてるしっ! 頭の中で考えた事も筒抜けですかっ!?」
「うん。そりゃ、神だもん。」
「……ですよねー。」
フランクな態度の神様に戸惑いつつ、話を進めていく。
「って、すみません神様! 俺、会社に行かないと! 遅刻しちゃ……。」
「それは心配いらないよー。今、時間止めてるしー。動いてるのは、僕と彰介君だけだよー。」
「おおっ、時間停止っすか……流石、神様。」
「でしょー? とりあえず、話を進めるねー。」
「あ、すみません。お願いします。」
そして神は、話の続きと言って、更に切り出してきた。
「急に異世界に送り込まれて、戸惑っちゃったでしょー?」
「あ、やっぱりそういう事なんですか!? そりゃもう必死でした……でも、何で今頃になって登場なんですか?」
「ホントにごめんねー、神っていっても色々あってさー。ちょっと、他の異世界の魔王をボコるのに時間が掛かっちゃった。」
「魔王をボコるって……。」
「僕ってさー、神様の中でも、偉い方の立場なのね。だからさー、部下っていうかー、ちょっと力が足りない神が管理している世界で、問題が起きたりするとねー、僕が出ないと駄目だったりするんだよねー。」
「はぁ……あれ? 魔王といえば、よくある話だと、勇者が出てきて戦うものじゃないんですか? 神様が出ちゃって良いんですか?」
彰介の言う通り、ヒロイックサーガであれば、魔王に対するのは人類の希望、勇者とその仲間達というのが相場が決まっているものであるが……。
「それがねー、その出てきちゃった魔王が「勇者と魔王の理」から外れちゃっててね、勇者も誕生したんだけど、村ごと消し飛ばしやがってさー。
本来の理の中であれば、魔王は勇者が対等に戦えるまで手を出す事は出来ないんだけどね、偶々理から外れたのを良い事に、サクッとやりやがってあの野郎……。」
「おぉ……それは、大変でしたね。」
「そうなんだよー、聞いてくれるー? それでさー……。」
そう言って、神様の愚痴に付き合うこと、数十分。
神様といっても大変なんだなー、と思いつつも、彰介はとりあえず、何で自分と話す為に態々現れたのかを聞いてみる事にした。
「でねー……。」
「あのー、すみません。神様が、ほんっとぉー……に、大変なのは色々と分かったんですけど、何で俺と話をするのに態々お越しになったんでしょう?」
とりあえず、下手に出た彰介だった。
「あー、そうだったねー、ごめんごめん。つい、愚痴っちゃったよー。いやー、気持ち良く愚痴っちゃって、ごめんねー。彰介君って、聞き上手だよねー。」
「いやー、そうでもないと思いますけど……。」
「で、本題だったよねー。そうそう、僕が君の前に現れたのは、なぜ異世界に行く事になったのか、という事を説明しに来たんだよねー。
本当はさー、あっちの世界に迷い込んで、何も分からなくて困った所に、颯爽と現れるつもりだったんだけどねー。あいつがしっかり、仕事しないからさぁー……。
あ、ごめん。また愚痴っちゃうところだった。それでねー、彰介君が困ってる所を見なが…んんっ! じゃなくて、色々と困ってるだろうからと思って、説明するつもりだったんだよー。」
どうやら、本来であれば異世界に迷い込んだ時に、颯爽と現れて、色々とパニックになっている所を、面白おかしく弄くりながら説明するつもりだったらしい。
この神様は、相当いい性格をしていると感じたが、なるべく頭の中でも、考えないように頑張る彰介だった。
「とりあえずねー、まずは、何で彰介君が異世界に迷い込んでしまったか、っていう所から始めようかなー。
でも、丁度いいから、次回説明するねー。」
「次回って何ですかっ!?」
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