プロローグ TODO:異世界に迷い込んでみる
初作品となります。
よろしくお願い致します。
4月10日(金曜日) PM 10:15
角の内ツインタワー
そこは、1階から6階まで商業施設が入っている30階建ての複合型のオフィスで、最近の都内ではよく見るビルである。
そのオフィスのとあるフロアでは、「カチャカチャカチャ」と小気味よい音が聞こえてくる。この時間まで残業しているのは疎らではあるが……。
「おっけー、とりあえず、こいつのデバッグ完了! 今日はこれで終わり、終わりー!」
「あ、お疲れ様です、先輩。私も丁度終わりましたー!」
「おぅ、お疲れさん――って、もう22時じゃねーか。明日は休みだし、さっさと帰ろうぜ。うし、今週末は溜まってたゲームを消化するぞー。」
「あはは……家に籠るのはいいですけど、たまには外に出ないと干からびちゃいますよ? あ、私、週末は予定空いてるから、ご飯とかご馳走してくれてもいいんですよ?」
「聞こえなーい。じゃ、お先にー。」
「あ! もう!!」
彼の名前は、田中 彰介。
27歳の男性で、職業は開発系のシステムエンジニアをやっている。容姿は中の上であり、体型は細見ではあるが、それなりに筋肉がついていて、結構しまっている、いわゆる細マッチョというやつである。
女性関係もそれなりにあった、普通のサラリーマンだ。
(女性関係って、1年前に振られたっつーの。仕事で忙しかったから、しばらく会えなかったら、他の男とよろしくされてたとか、情けない…)
とは、彰介の心の声であった。
で、リア充っぽく、いちゃこらとやっているように見えた相手は、会社の後輩の飯沼 由里、25歳。
幼馴染のようなものだったが、なぜか今では同じ部署で一緒に働いている。身長は160cm位で、出るところは出ていて、引っ込むところはしっかりと引っ込んでいる綺麗系の女性である。
男性陣からの人気は高いようだが、先程の会話の通り、発言がちょっと子供っぽく、見た目とのギャップが激しいのが玉に瑕の……ちょっとまぁ、残念な娘なのである。
彰介は適当な相槌を打って会社を出る事にした。
電車に乗り、自宅へ帰る。いつもの道、変わり映えのない毎日。
「毎日、毎日、デスクワークっていうのもしんどいよなぁ――」
彰介は、誰に話しかけるわけでもなく、ただ独りごつ。
「とりあえずコンビニでも寄って、メシを買うか……」
と、自宅近くのコンビニに入った。
「らっしゃっせー」
コンビニに入ると、若干気怠そうな店員の挨拶を受ける。こんな時間だから、しょうがないのかもしれない。
陳列されている商品棚を見ても、やはり時間的な問題か、商品は少なめようである。その中から、小さ目の焼飯弁当を手に取り、冷蔵棚からは発泡酒を取り出してレジに向かう。
「495円になりまーす。」
「えーっと――(細かいのが、200円しかないや)じゃ、1,000円で。」
「505円のお釣りになりまーす。ありやとやしたー。」
(来週の給料日まで、残金は――5万3千7百と、5円か。多少余裕があるから、貯金でもしておこうかなぁ……)
彰介は、なかなかの堅実化である。この若さで、貯金もそれなりにあるのだ。
(まぁ、使う機会が無いってだけだけどね……さてと、着いた、着いた!)
彰介は、都内にある6F建ての賃貸マンションで、1人暮らしをしている。
部屋の広さは、1LDKで、バス・トイレが別々となっているし、洗濯機も室内に置くスペースが設けられている。それでいて、家賃は5万円という優良物件である。
彰介は、階段で2階へ上がり、自宅前で鍵を取り出した。
4月10日(金曜日) PM 11:59
ピッ、ポーン……
ガチャ
「ただいまーっと――」
いつもの癖で、誰もいない自分の部屋に向かって挨拶をする。返事が返ってくるわけでもないのに、だ……。
「いらっしゃいませーっ!!」
(……………へ? いらっしゃいませ?)
返ってくるはずだった沈黙は、女性の明るい掛け声によってかき消された。
声の返ってきた方を見てみると、髪形をポニーテールにした、かわいいお姉さんが視界に入った。
その女性は、なかなか良いスタイルをしている。恰好は白いシャツに七分丈のデニム地っぽいパンツ姿であり、更にかわいいエプロンを着けて、忙しそうに食事を運んでいる。
ただ、今まで見てきた現実と違う箇所があった。
(ふっかふかの猫耳と尻尾がついとる……)
あくまで、彰介の見た目の感想であって、実際触ったわけではない。
他に気付いたのは、この場所は結構な広さで、いくつかの丸いテーブルとカウンターテーブルが置いてある。
カウンターテーブルの奥には、また結構広めキッチンがあるようだ。
そして、いかつい野郎共がカウンターテーブルとテーブルを囲み、食事や酒を楽しんでいた。格好は今まで見慣れてきたスーツ姿というわけでなく、頑丈そうな皮の鎧に身体を包んだ者、鉄でできたような鎧を身にまとっている者など様々である。
そして、どうにも気になってしまうのは、ムサい男達の中にも猫耳やら犬耳、果てはウサギ耳のおっさんがいるのは、どういう事だろうか?
(俺、自分の家に帰ってきたはずなんですけど? 一体、ここはどこなんだろうか? それにしても、ウサミミのマッチョのおっさんって、一体誰が得するんだろう……?)
それにしても、ここは一体どこなのだろうか? 自宅の扉を開けただけなのに、なぜこのような光景が見えるのだろうか?
普段通りであれば、狭い玄関を上がると、8畳程度のLDKがあって、引き戸を開けると6畳程度のベッドルームがあるはずである。
しかし、そんなものは今は一切、見る影もなかった。
(っていうか、この光景はゲームでしか見たこと無いぞ。どう見てもファンタジーなRPGゲームの酒場でしかねーよ。)
「お客さん、そんな所で突っ立ってると邪魔だよー!」
「あ、あぁ、悪い……」
そばを通ったウェイトレスを避けようとして、彰介は2、3歩程、後退すると、「ジャラッ」という音が聞こえた。
(はぃ? ジャラ?)
自分の姿を見てみると、それは見慣れない姿だった。朝は、会社に行くためにスーツ姿で出かけ、そして帰ってきたはずだったのに、何故か上半身は長袖のインナーの上に鎖帷子を身に着けている。
そしてパンツは、丈夫そうな革製のパンツとブーツだった。
「え?」
「え? ……何これ?」
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やっと見つけた。
本当に……本当にとても長い時間、君を待っていたんだ。
- ようこそ、異世界へ -
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内容を修正しました。
(2015年4月20日修正)
大学からの後輩で、なぜか同じ部署で一緒に働いている。
→幼馴染のようなものだったが、なぜか今では同じ部署で一緒に働いている。
(2015年5月11日修正)
章介→彰介