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「〈クロカゼ伍長〉の旅は、こうして始まった――!!」


 と格好よく言ってみたものの、よくよく考えたら所持金ゼロで、工房も買えやしない。服高すぎるだろ。


 とりあえずスキルを弄る。

 思い出すのは、バーサークボア戦で、当たらなかったと思った一撃が当たったことだ。

 ネットで〈防御範囲〉を検索する。


 〈防御範囲〉……盾の防御範囲が広がる。高レベルほど広範囲。


 とだけある。

 特別増えたスキルもないので、あのときのブレはこのスキルの影響だと思っていいだろう。だが、このスキル効果はあくまで『防御範囲の拡大』である。攻撃スキルまで拡大するのだろうかと悩んでしまうが――やっぱりスキルは増えていない。せいぜい〈防御範囲〉と〈無手威力〉のレベルが上がっただけだ。


 ネットで検索しても、特別そういった表記はない。

たしかにブレで救われはしたが、原因がわからないので報告しておこうかな。


『防御範囲ってスキルで、攻撃スキルの当たり判定も広がったっぽい

 確証なし』

『あぁ、それバグ

 よく見つけたねー』


 ママっ! ネタバレありがとう!


『8月入ったらさり気なく修正入るから

 今のうちに盾の防御スキル強化しておきな』

『ありがとー』


 別に俺が覚醒したわけでも、スキルの抜け穴見つけたわけでもないことに落胆はしたが、まぁ充分だ。

 開発スタッフが身内にいるだけで力強いなぁー、と、ようやっと気づいた。全然役に立ってなかったからなあんた!


 午後5時前だ。あと1時間強で50000k稼ぐ方法かー。ソロでどこまで行けるのかはわからないが、とりあえず隣の街に行ってみようか。


 街を出て、街道を歩き始める。


 うわー……綺麗すぎて涙出そう。

 夕日に照らされた草原は、黄金色で染まっている。眩しすぎて目が焼けそうだ。風も心地よくて、このまま草原に横になったら、寝てしまいそうだ。

 正直、こんなゲームを作った1人が身内にいると思うと、鼻が高いような気がする。

 気がするだけだが。


 街道を少し離れ、草原を歩き出す。

 さきほど〈防御範囲〉のスキルを検索して気づいたのだが、〈防御〉というスキルがあるようだ。

 会得条件は防御を10回すること。


 俺は本当にっ……。ウォーターベアーとなにをしていたんだろう。〈盾威力〉上げたくて殴り続けていた記憶しかない。残念な盾使いだよ本当にもう。


『〈防御Lv1〉スキルを会得しました』


 スライムの攻撃をタイミングよく弾きながら、そんな表示を眺める。

 レベル上げにはちょうどいいかな? そう思いながらスライムを20匹くらい引きつけて、ただただ〈防御〉を繰り返す。両手に装備した盾で、スキルの成長率も2倍だった。


『〈防御Lv2〉に――』『〈Lv3〉に――』『〈4〉に――』


 ハマりそうだ。

 こうポンポン上がっていかれると、すごく楽しい。でも、スライムの数が多くなってきたので、間引くことにする。


「〈防御範囲〉〈スタンアタック〉」


 両腕を振ると、風船が破裂するように周囲のスライムが、何匹か消えていく。核も落ちているが、拾う暇はなさそうだ。

 間引きを何度か繰り返し、もう一度〈防御〉を上げていく。


 ラージシールドが凹み始めたころ、修理する金も工房もないんだと思い出し、棍棒でスライムを一掃した。

 だが、スライムの核程度じゃたいした金にはならないだろうなー。


『核〈?????〉品質1』


 これだもんなー。〈スライム〉だろ? わかってるよ……。

 

 〈上位鑑定士〉に関して調べたが、一週間でどうにかなるものじゃなさそうだ。

 アイテム図鑑・初級・下級・中級・上級の全ページを確認しなければならないようだ。なおかつ、ライセンス〈モンスター博士〉も必要らしい。

 〈上位鑑定士〉のライセンスを獲得すると、アイテム図鑑にも載っていないような〈?????〉を命名することもできるという。そうすると自動更新で、〈Dragon obey Licence Online〉最大の街の図書館で読める、真アイテム図鑑に自分が命名したアイテムが載るそうだ。


 つまるところ、〈上位鑑定士〉になったところで、あの赤い板に名前をつけられるだけ、ということがわかった。


 いや、そういう職業に憧れる気持ちはわかるよ。なんでも一万種類以上は名称不明のままらしいし。〈どすこい印の元気太郎〉みたいな回復アイテム作りたいもの。でも、いまの俺にその余裕がない。

 β版でも20人といなかった職業には、それほどそそられなかった。


 木の板に関しては一度置いておこう。いや、何度も置きすぎてもうどうでも良くなりつつあるんだけどさ。

 ネットに頼りながらゲームしていると、サクサク進めたほうが楽しめるんじゃないか、と思ってしまう。

 〈Dragon obey Licence Online〉のやり込み要素が多すぎるんだよ。1年も前からハマり続けている家族たちを想いながら、頭を抱えそうになる。



 ラージシールドを背負い、棍棒でモンスターを倒していく。

 ――と、街道にアイコンが光っている。

 草原から出て女性NPCに近づいた。〈人間〉かな? 肌の色がよくわからない。まぁNPCだからあまり関係ないけどさ。


 NPCは手についた土を弄ったり、草原の草をちぎったりと、実に人間らしい動きをしている。なんだろうなーと覗くと、彼女は俺の顔を凝視して


「こ、こ、こ、こ、こ、こ」

「!!?」


 こえぇよ! え!? なにイベント!? こえぇよ!

 逃げ出したくなるが、もしこれがイベントだとすると、ここで離れるのは得策じゃない! 我慢して俺!


 瞬きもせずに、彼女は背負っていたリュックに手を入れた。ゴソゴソと探っている。これでチギれた腕とか、目玉とか出てきたら、俺は『セカンドライフ』を叩き壊す覚悟もできた。

 ゴゾ――っと出てきたのは、緑の液体が入ったビン。


「配給分のポーションです。頑張ってくださいね!」


 ……………? え、なに、これ……。イベント?

 声はすごく笑っているのに表情がともなっていないため、正直なに言われたのか理解できなかった。


「えっと、キミNPCだよね? アイコンあるし」


 問うと、彼女の手からポーションが落ちてしまう。

 割れたビンの消滅エフェクトと、彼女の顔を交互に見る。

 

 え、なにこれ怖い。

 周囲を見ても、とくになにか起こったわけじゃないようだし。


 一歩だけ近づくと、彼女は二歩、三歩と下がっていってしまう。

 完全に変態です誰か助けてくださいっ! 俺をっ!!


「あ、あの――」


 彼女はスカートを翻し、草原をすごい勢いで走り出してしまった。

 すくなくとも〈ダッシュ〉じゃ追いつけないだろう。

 NPCにアバターの見た目を選り好みする機能があるとは思えない。俺が気持ち悪かったとか、俺の話し方が気持ち悪かったとかでも、きっと、たぶん、そう思わなければ、俺は受験生に戻りそうだ。


「なんだったんだ……?」






 日が沈んだころ、ようやく隣の街にたどり着いた。

 無表情のNPCの情報は、結局ネットにはあがらなかった。だが、核心に迫る記事が一つ。


『ポーション配給用NPCが逃亡、深刻なバグか、企業テロの可能性』


 それに関係あるだろう緊急メンテが、今日の夜中から朝方にかけて組み込まれていた。

 しかし、NPCが逃亡……。なんのこっちゃと思わなくもないが、俺が街道で見たのは間違いなくそのNPCだ。「配給用のポーションです。頑張ってください!」と言われたのは記憶に新しい。


 いやー、怖かったー。



 街灯に明かりがついている町並みは昨日、相川さんと待ち合わせている間に〈セントラルライセンス〉でも見たが、この街のほうが遥かに幻想的だった。

 前の街が石畳の埃っぽい街だったことに対し、この街には川が流れている。船で行き来もできるそうだ。

 その川に街灯が反射して、いたるところの壁に水面を映し出している。

 これは綺麗というよりも、センスが良いな。


 だが、だがわかっていないな運営よ。

 チラリと、周りを見渡す。何人かのカップルらしきプレイヤーが、川に足を入れてイチャイチャしていた……。

いいもん。俺にはミクリちゃんがいるし。


 〈セントラルライセンス〉にもあったボロアパートを見つける。

 これが、相川さんの言っていた「〈Dragon obey Licence Online〉の面白いとこ」だ。


 ボロアパートのドアを開けると、そこには見慣れたくない赤い板と、焦げたベッド。

 つまり、この自室は〈Dragon obey Licence Online〉全共通なのだ。どの街にいても自分の部屋に行けるという、ずいぶん楽な仕様になっているのである。


 部屋に入り一息つこう。

 あー……遊んだー……!


 こんなに遊んだのはいつ以来だろうか。高校1年ではすでに志望校を決めていたし、それに向けて準備もしなければいけなかった。友人との付き合いも、徐々に少なくなっていった。それもこれも勉強のためだ。


 恋人を作らずケータイゲームでハーレムを作ることで自分を慰めたのも勉強のため。

 友人に恋人ができたと知ってメアドもLINEも消したのも勉強のため。

 好きな子に彼氏がいたと知って同じ志望校から二段階難易度を上げたのも勉強のため。


 全部全部、勉強するための人生だった。

 それがどうだ。

 朝目を覚まし、勉強もそこそこにゲームを開始。昼頃は森を彷徨い、夕方にはバグを使ってスキル上げ。


 計画性のけの字もない一日だ。

 だが、まぁ、楽しかったな……。



 ログアウトして、一階に戻る。

 あぁ、こんなセンチメンタルな気持ちだというのに、家族の顔にはイカの塩辛が乗っていた。あんたらトイレ行かないの?


評価がっ!お気に入りがっ!

いつのまにか100pt超えてて、涙で前が見えません

しかも高評価……マジ感謝です!



あと、設定が全体的に二番煎じすぎてハゲそうです……

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