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7

前の話

『補助〈ダッシュ〉』→『特殊〈ダッシュ〉』に変更しました


 何度も言うが、全長2mをゆうに超えるクロカゼ伍長は、全身これ筋肉。ツナギで身体のラインを隠しているとは言っても、胸筋の厚さ、上腕二頭筋、襟元から視線を惹きつける首筋は、アフロディーテも裸足で逃げ出す美しさだ。歩くだけで筋肉が擦れ、ギュ、ギュと耳当たりのよい音を作り出す。


 そんなクロカゼ伍長の筋肉を、贅沢にも俺は一つのことに使っていた。

 モストマスキュラーにも似たポージングで街を小走りしている俺の姿は、ひどく威圧感を放っていたかもしれない。実際に目の前でログアウトしたプレイヤーも何人かいた。


 だが、この筋肉で、俺は卵を温めるんだ!!



 まず悲しかったのが、卵専用リュックが背負えないこと。抱っこするようにしても、小さなリュック付きでは、この格好が限界だった。だったら普通に持てばいいのに――だが、腕に抱えていて熱は伝わるのだろうか、滑って落とす可能性は、などと考えてしまって、結果、泣く子もだまる筋肉男が、日中の街に現れることになった。

 

 とりあえず、この格好ではフィールドにも出られないので、アパートに戻り対策を練ることにしたのだが……これはなんというか……。


 ベッドの上にあるダイヤ型の木版が、真っ赤になっていた。核を取り込んだ影響なのは間違いない。

 くそ、やることだけが増えていく。嬉しい悲鳴である。やはり、なんかいいな。人と違うことをするというのは。優越感がな。エフフ。


 だけど、今日からベッドは卵の休憩所にしたいので、部屋の配置を変えることにしよう。立ったままログアウトして、卵が割れていたらシャレにならないからな。

 リュックごと卵をクローゼットに置いてから、赤い板をベッドに立てかけ、持ち上げる。どことなく暖かくなっているのは、たぶん〈火属性〉が加わったからじゃないだろうか。だってさ、はは、ベッド燃えてるし。


「うわあああああああ!!!!」


 板を放り投げ、ベッドにダイビングしてバタバタ暴れる。幸いゲームだ。火はさほど熱くない。この身体アバターにして良かった。面積が大きいので、すぐ鎮火に成功する。

 

ベッドには焦げ穴。卵を入れるにはちょうど良さそうである。切ない悲鳴である。

 ここセーフティーエリアとかじゃねぇのかよ! 工房でカマドに頭突っ込んだら死んじゃうねこの感じ!


 床に転がる赤い板を見る。正真正銘レアアイテムだろうが、これは扱いに困るな。

 『持ち上げるために、角をベッドに刺して立てかけた』直後の発火。ベッドが燃えたのは、確実にコレが原因だ。正直ただの危険物である。

 まぁ、この序盤で角が危険だとわかったのは良かったかもしれない。というか、立てっぱなしにしないで良かった……。


 ベッドの穴にリュックごと卵を突っ込み、一度ログアウトする。

 なんかドッと疲れた……。





 自室に意識が戻ると、俺はすぐさまベッドを確認した。良かった。夢じゃないけど良かった。

 あー、安心したらお腹すいた……。いま午後2時半か。チュートリアルにしては長いなーとは思いつつ、案外サクサク進むなと関心していた。

 『セカンドライフ』を外して、一階に向かう。家族は一見のんびりしていた。


「あんちょくー、あんちょくー」


 安直なのはあんたの頭だよパパ。保温されているライスをタッパーに移し替え、冷蔵庫の横に置く。

 コイツらトイレ行きたくなったらどうするんだろうなー。まさか上級者じゃないよな? と不安になる。ペットボトルもオムツも周囲にないことを確認して、俺は一度トイレに向かう。

 蛇足になるが、〈Dragon obey Licence Online〉にはトイレもお風呂も、シャワーすらない。正確には、『セカンドライフ』を利用するゲーム全体、である。なんでも、そういう『事故』が何度かあったらしい。

 安直なパパの下の世話など、ボケてからで充分だと考えながら、二階に向かう。

 しかし新鮮だな。勉強机に座らず、ベッドに寝転がるというのは。今日だけで100番は落としているというのに――やめよう。ゲームができなくなる。


(フルダイブ)


 負の思考を断ち切り、〈クロカゼ伍長〉に立ち返る。

 ベッドの惨事を視線に入れながら、もう一度状況を確認する。

 おお! 増えてる増えてる!


ライセンス

〈ボディービルダー〉


スキル

補助

〈マッスル〉……ポージングより効果が変わる。見せる人数によって向上する。


特殊

〈調合Lv1〉〈調理Lv1〉〈孵化〉〈ダッシュLv12〉

〈鉄加工Lv1〉〈革加工Lv1〉〈骨加工Lv1〉〈石加工Lv1〉



 ……ライセンスが増えていた。それに付属するスキルも増えていた。

 心当たりは、まぁポージングしたままで、大観衆の視線を独り占めだったからな。それが取得条件であってもおかしくは……ないのか? それより、ライセンス見返すごとにこれが目に入ると思うと、億劫な気分になる。


 『特殊スキル』が増えていたが、これは〈クロカゼ伍長〉の身体に付随するスキルということだろう。自動発動ということであれば補助スキルも同じようなものだが、補助スキルは装備付与できるので、そこら辺の違いなのだろうか。

 

 しかし、いま一番ほしいスキルが〈鑑定〉なのだが、次に行く探索ギルドで会得できるのだろうか……。そう考えてネットを利用する。

 あ、あった。


 〈鑑定〉スキルは、〈セントラルライセンス〉の旅道具屋で『アイテム辞典』を購入しましょう。同時に、ライセンス〈初級鑑定士〉も習得できます。


 ……おれぇ、このゲーム向いてないのかもしれないなぁ……。

 周囲に怯えられながら、俺は道具屋へ向かっていた。






 街にはプレイヤーが作った道具屋もあり、そこにはNPCの店では手に入らないものも多くあるという。

 旅道具屋で『アイテム辞典』を購入したあと、俺はプレイヤーの店にやってきていた。

 亭主に嫌な顔をされながら、グローブとリュックを購入する。最初の街だからか、キ○トの露天が異常に高値なのか、存外リーズナブルだった。


 リュックに卵を入れて持ち歩くと、さきほどまであった周囲の視線はなくなっていた。なんだったんだよ……。


 売っていなかった脚甲を鉄一個で作れないだろうかと検索していると、噴水のところにキラキラと消えていく門が見えた。ネコミミの少年がキョロキョロしている。うん、なんかいいなぁこういうの。


 だが、まだ誰かの育成を手伝えるほどの余裕はないので、声を掛けることはやめておいた。それにまずは新しい武器を買わないと。

 戦闘ギルドの近くで、武器を売っていた男性プレイヤーに話しかける。


「盾がほしいんだけど、オススメあるかな?」

「ありますよー。このレザーバックラーは、向かいのNPCの店より品質がよくて、ちょっと安いよ。初心者? 剣より棍棒のほうが楽に狩れるよ」


 品質、とな。

 また新しい単語が……。いや、ネット検索で何回か見たことあるけどさ。スキルのレベルが高い状態でなにか作成すると、品質に多少の変化が起こる。具体的には耐久値の向上や切れ味の増加などがあげられる。加工レベル1の俺がレザーバックラーを作っても、アイアンシールドより、重くて脆い残念な盾の品質になってしまう。


「ラージシールドってある?」

「ん、あるけど〈盾使い〉ある? ないとすごく重いからね? あと品質は良くないよ」

「安くなりますー?」


 練習に作っただけだからねー。と亭主が奥から大きめの盾を持ってきてくれた。つけてみると、すごいちょうどいいサイズだ。この身体で持つと、普通の盾のサイズのようだから面白い。


「あははーおっきいねー。2000ケニーにしておくよ」


 やっす!

 礼を言って、ありがたく受け取る。

 さきほど言っていた棍棒も見せてもらった。


「これが鉄の棍棒。まぁただの棒だけど、その分耐久値がすごぶる高いです。鈍器のスキルだけど、鈍器スキルはないよね? 剣スキル育てる?」

「剣スキルはどうでもいいかなー」

「ダメだよー。剣スキルも育ててないと、〈騎士〉とれないよ?」

「マジっすか!」

「〈騎士〉は、剣と槍と弓と乗馬と、あとなんだっけ、わすれたけど、そこらへんは育てておかないと」


 マジか。でもこのゲームでは、〈騎士〉のライセンスは必須項目だからな……。


「あ、じゃあ槍あります?」


 盾に隠れて、槍をスっと……。やだカッコイイ!

 亭主はポリポリと頭を書いた。


「昨日4人家族に買い占められちゃってねー。いま素材不足でさ」

「へぇー」

「ここ、一応防具屋でもあるんだけどねー。全部なくなっちゃった。ありがたい家族だったよ」


 俺はすこぶる残念だけどね。

 しかし、4人家族か……。うん……。たぶんそうだろうなー。

 いや、亭主も喜んでいることなので、特別文句を言うようなことでもないけどさ。


 結局、もう一つ盾を購入。俺は礼を言って店を出た。

 その目の前を、キョロキョロと周囲を見ながら、戦闘ギルドに向かっていくネコミミ少年。――あ、それはまずいよ?


「な、なぁキミ」


 俺の声に振り返った少年は、赤茶の体毛。ネコミミはピョコピョコと動き、周囲の音に反応している。正直可愛いです。犬派のボクもその耳をハムハムしたくなります。

 たぶん、さっきの新規プレイヤーだ。

 つぶらな瞳がその証だな。


「あ、ボクですか?」

「いまから戦闘ギルドに?」

「はい! 戦いがすごいって聞いていたので、行ってみたいんです!」


 うん。俺もそう思う。


「いいか。悪いこと言わないから、戦闘ギルド行く前に、歩行ギルド行って〈ダッシュ〉ってスキルを〈瞬足〉まで育てることだ。二回受ければ、たぶん〈ダッシュ〉が〈瞬足〉に変化するから」

「そうなんですか?」

「うん。あと、早めに育成ギルドに行って、卵をもらってくるといい。間違っても〈調理〉しちゃダメだよ。それが終わったら戦闘ギルドに行くといい。で、一つでもライセンス覚えたら、急いで街に戻ること」


 少年はキョトンとしていた。まぁ俺だってそんなこと言われたら眉の一つもしかめてしまう。だが、少年は素直だった。


「卵ですか?」


 俺が頷くと、少年の耳がピコピコ動く。


「なんでです?」

「モンスターの卵も、調理材料の一つなんだけど、育成ギルドでもらえる卵は、ものすごーく稀に、『ドラゴン』の卵があるんだよ」


 〈Dragon obey Licence Online〉

 その名の通り、ドラゴンライセンス。つまり、竜を扱うための免許の取得が、このゲームの目的なのである。

 だが、βのときにはドラゴン種の卵は、フィールドのどこにも確認されることはなかった。そんな中、βテスター9999人の羨望を集める人物がいた。


 名前はpoipo。その適当に名前つけた感のプレイヤーの傍らに、βが配信されて5日目にはドラゴンがいたのだ。


 ピヨピヨ浮かぶドラゴンを見たβ陣は思ったそうだ。なんだよ、レアじゃねぇじゃん――と。


 それが間違いであることは、俺の口ぶりでわかっていただけると思う。

 ドラゴンの卵なんてなかったんや。


 いままで育成可能のドラゴンの発見件数は1件。

 プレイヤー名poipo

 ドラゴン名poipo Jr.

 ただコレだけである。


 無論、何人ものプレイヤーが卵を探し回った。野生のドラゴンを使役しようと奮闘した。

 だが、どうにもならなかった。


 ドラゴンを持たぬプレイヤーを糠喜びさせたのが『夫婦ドラゴンの討伐』クエストである。〈騎士〉〈準騎士〉しか受注できず、報酬金は法外だったが、報酬品は不明。〈Dragon obey Licence Online〉の土地の多くを支配する国王からの直接依頼だった。

 我先にと向かったプレイヤーは、早々とドラゴンブレスの洗礼を受けた。


 難易度は、当時最高クラス。おそらく、集団戦のボスとして設定されていたのだろう。

 それに気づいたβテスターたちは連絡を取り合い、1000人近い〈騎士〉と〈準騎士〉が集結。その結果、どうにか『夫婦ドラゴンの討伐』をクリアしたのである。


 彼らは報酬品として〈ドラゴンスレイヤー〉のライセンスを取得した。だが、ドラゴンの卵はなかった。

 なるほど、ドラゴンの免許が〈ドラゴンスレイヤー〉か。などと納得するのは極一部。その多くは、諦めることはない。なぜなら、β開始半年後poipoの傍らには、3パーティーがよってかって、やっと倒せるフィールドボスを、単体で倒せる〈ブルードラゴン〉がいたのだから。

 しかもそれが可愛いんだからどうしようもない。


 オーク種のpoipoに頬ずりする、巨大なブルードラゴンの画像を見せながら、俺はネコミミ少年に必死に訴えていた。


「は、はぁ……」

「とにかく、必要なのは運。いいか、キミはただの〈亜人〉だから〈騎士〉も目指せる。そうすれば、公式が黙秘し続けている〈竜騎士〉にもなれるんだよ!」

「は、はい……」


 poipoは〈亜人・オーク〉。

この〈亜人・○○〉が厄介で、〈騎士〉の夢を、公式から封じられているのだ。


「出だしの説明で、これくらいは教えて置いてほしいんだけどね! まぁ、とにかく頑張ってよ!」


 少年はコクコクと頷く。理解していただいてなによりだ。


「あの、じゃあまず、どのギルドから行けばいいんですか?」

「んー……俺はいまから探索ギルド行くけど、一緒にくる?」

「はい!」


 少年は、ものすごく可愛い顔で頷いた。


お気に入り件数が増えていく!ポイントが貯まっていく!

がんばります!

ありがとうございます(´Д⊂ヽ


変更したのは設定を合わせるためです……

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