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 森を徘徊すること20分。疲れはしないが、ドロップしたアイテムで腰に下げた道具袋は重くなるし、ガタガタという盾の耐久値が気になってくるし、決して余裕はない。


 いったんモロモロを整理しようと、川を見つけたので岩場に腰掛ける。

初心者卒業で20分、森徘徊で20分。合計40分か。

 〈スキル〉を確認する。


 〈シールドバッシュ〉〈盾威力Lv7〉〈被衝撃軽減〉〈被ダメージ軽減〉

 〈自動防御Lv1〉


 こんなもんだ。なんかなぁ。防御力アップとか盾範囲アップとかおぼえてもおかしくないのに……。ちなみにライセンスは確認しなくてもわかる。一向に変化なしだ。〈盾威力〉と〈自動防御〉は武器付与化して、残りは思考に設定してある。


 わかったことと言えば、〈シールドバッシュ〉以外、とくべつ疲労感を覚えるスキルはない、ということだろうか。あ、あと剣より強い。とくにこの森のモンスターは柔らかいので、剣より打撃が有効なようだ。

 

 荷物は、モンスターの核だという、石のようなものが多い。これを街で換金するようだが、ゴチャゴチャしていて捨てていいかなーと思う。とりあえず、5個とって、地面に埋めてみた。


 川に入ってパチャパチャと


「やめてよー!」

「まてまてー!」

「あはははー!」


 と遊ぶ筋肉ムッキムキの漢が1人。

 1分も経たないうちに恥ずかしくなった。森が綺麗だから! 空気が新鮮だったから! 川が冷たかったから! と言い訳しても、この羞恥の心はなくなってくれない。剣の鞘をさっきの地面に突き刺して、一度その場を離れる。

 迷子にだけは絶対ならないように気を付けよう。



 10分ほどモンスターを狩りながら、森をさ迷う。あ、彷徨う。

 その結果、俺は一際デカイ、おそらく森で一番デカい巨木を見上げていた。

 いやいや、どこだよここ。葉っぱの音リアルすぎて、川の音聞こえてこねぇよ。来年大学受験するのに迷子だよ。え、嘘だろ、ログアウトしようかな。


 だが、フィールドでログアウトしても、何者かにキルされるまではその場にリスポンするはずだ。そして何者かにキルされると、道具袋と所持金をその場に放置することになるらしい。

 絶対にいやだね!!


 フルダイブをやめてネット接続もしたが、森から抜け出す情報は、ほぼ上がっていなかった。

 その少ない記事を俺なりにまとめ、ここに明記したいと思う。


『この森は運営の罠。5つのギルド中、最初に行きたくなる戦闘ギルドだが、ギルドを回る順番として、戦闘ギルドは最後にしなければならない。なぜなら、ハゲッサはプレイヤーが〈戦闘〉ライセンス以外のライセンスを取得した時点で、街に帰ってしまうからだ。無限に回復アイテムをくれるボアッサだが、その帰り路は異常に早い。歩行ギルドで充分なスキルを会得していないと、ニゲッサに追いつくことは不可能であると断言しておく。そのため、森の中で置いていかれるプレイヤーが続出。モンスターも多いため、最初にもらった武器の耐久値はなくなり、無手で森から出てくるプレイヤーもいるし、β版では諦めて死に戻りするプレイヤーが続出した。プレイヤーが落としたと思われるドロップ品が落とされているものの、しょせん初期の落し物だ。わざわざ拾いに行くのは、かさばるだけなのでオススメできない』


 ボアッサー!!!!!

 回復アイテムもくれてないし、置いていくし、なんなのお前! なんなのハゲ!


 結局、森は罠という赤文字サイトしかなくて、地図はおろか巨木のことも書いていない。ボアッサの悪口は俺も書き込んでおいた。

地理が知りたいので巨木のから見下ろそうとしたが、これを登るにはスキルが必要になるのだろう。一応登ってみたが、ツルツルと滑る。木登りは得意なほうだが、いかんせんでか過ぎる。

 モンスターの核を使って傷をつけてみたが、硬すぎて話にならない。スキルを使わない場合には、おそらく攻撃力の高い武器が必要になる。


 悔しいのう、悔しいのう。

 巨木から離れて歩き始めて10分。道具袋が4つになった。めぼしいアイテムはないのが、これまた哀愁を誘う。


「ん?」


 あ、川の音聞こえたぞ?

 正確にはぴちゃぴちゃという音だが。だれか水浴びでもしているのだろうか!

 くっそー、主人公補正ってすげぇなどんな女の子が全裸で水浴びしているんだろう。いや、何人かな? エフフ!


「すみませーん! 自分迷子なんですよー!」


 さも、さも偶然であるかを装って、3頭の熊と遭遇した。





「おおおおおおお!!!! 〈シールドバッシュ〉〈シールドバッシュ〉〈シールドバッシュ〉ウウウウウウウウウウウ!!!!!!」





ライセンス

〈盾使い〉〈剣士〉〈モンク〉〈孤高の人〉


スキル

盾 

〈シールドバッシュ〉〈盾威力Lv11〉〈自動防御Lv5〉

〈防御範囲Lv4〉〈盾カウンターLv1〉〈スタンアタック〉


剣 

〈一刀両断〉〈剣威力Lv4〉〈チャージスラッシュ〉〈五月雨〉

〈剣カウンターLv2〉


無手

〈拳カウンターLv15〉→〈クロスカウンターLv1〉〈一点突破〉

〈ラッシュ〉〈鉄拳〉

〈無手威力Lv35(グローブあるいは脚甲がないため付与できません)〉


補助

〈被衝撃軽減Lv2〉……受ける衝撃を軽減する。高レベルほど効果が上がる。

〈被ダメージ軽減Lv2〉……受けるダメージを軽減する。高レベルほど効果があがる。

〈鷲の目〉……遠くを視覚化できる。

〈深呼吸〉……息を吐き続けている限り、攻撃力が上がる。

〈森の人〉……森フィールドで、隠密行動が可能。第六感が発動しやすくなる。

〈クライミング〉……多少の出っ張りがあれば壁移動できるようになる。

〈猪突猛進〉……ソロで戦う場合、攻撃力が上がる

〈アクティベーション〉……身体を活性化させ、攻撃・防御を高める。

〈跳躍力Lv7〉……いわずもがな





 もう、森で生きようかな。

 水色の熊。ウォーターベアーと名づけた熊のドロップアイテムを拾いながら、そんなことを考える。逃げながら、戦いながら、俺は一回り成長していた。

 あれから4頭増えたウォーターベアーとも戦うことになり、深追いして奴らの集落に迷い込み、盾と剣を失ってしまったが、得るものはあった。俺はなにかに目覚めそうである。


 ちなみに10時だ。

 人生でもなにかを失いそうだ。


 川に戻って、鞘を見つける。こんなんでも鈍器になるだろうと腰に巻き直し、その下を掘り返す。


「やっぱりか」


 モンスターの核は、5つとも健在だ。誰かに取られるという可能性はあるものの、雨ざらしにしちゃって耐久値が無くなる、ってことがなければ半永久的にフィールドに存在できるらしい。あとでネットを見てみよう。


 ネットの情報は、βは軽く見ていた。財宝探索イベントがあるようで、財宝の耐久値が無限設定されているのか、それもとも特殊な場所にあるのか、とネットと両親は騒いでいた。そういう設定に興味を向けるのがゲーマーの証拠でもあるが、俺にもその血筋はしっかり引き継いでいるらしい。


 まぁ、とりあえず森を出よう。5つの核を6つになった道具袋に入れ、〈森の人〉でその場を離れる。

 〈森の人〉……森フィールドで、隠密行動が可能。第六感が発動しやすくなる。

 シックスセンスってのはいまいち理解できないが、ネットを見る限り便利らしい。敵を発見しやすくなったり、先制攻撃を察知したり。まぁ、この森でそんな敵はいないかもしれないが。補足するが、シックスセンスはスキルではく、隠しステータスのようだ。だが、シックスセンスを利用したライセンスもあるようで、いまは解明が急がれている。



 さて、と。

 この森ではもう慣れたことだ。

 迷ったぜ。



 〈クライミング〉で木登りができることがわかったので(正確には木登りしていたら会得したスキル)あの巨木を目指したのだが、綺麗に迷ったな。〈森の人〉も〈クライミング〉も初期スキル〈戦闘〉からの派生じゃないのだから、〈地形理解〉とか〈スピードアップ〉とかが欲しい。歩行ギルドに早く行こう……。


 方向は合っていると思うんだけどなー。

 と、またかウォーターベアー。〈鷲の目〉で見る限り、まだ小さい。そしてなんか、色が、赤だな。ウォーターベアーじゃない。レアか強敵か。お前近場に親ベアーがいないことから、狩りやすいと判断する。〈森の人〉会得した俺の敵ではない。息を大きく吸いながら、ウォーターベアーの背に張り付き、〈深呼吸〉して思考入力――〈鉄拳〉〈ラッシュ〉


 両拳に心地よい振動と、そして倒れながら消滅していく赤いウォーターベアー。

 ……目覚めちゃったよ! 森の人だよ本当に! 街に帰ったら絶対グローブ買おう!

 とはいえ、さっきネットで調べたところ、最初の方では森は珍しいらしい。この『運営の罠の森』くらいのようだ。ここを出るとこの戦法が通用しないと思うと切なくなる。

そしてもう一つ悲しいことに、森は全体的に不評だった。伐採しても木材が採れるわけじゃなく、三つほど進んだ街の近くの巨木をぶった切ったが、とくにイベントは起こらなかたという。消滅したようだし。


 ちなみに、赤いウォーターベアーのドロップアイテムは、大きめの真っ赤な核だった。これがレアかどうかは素人目に判断できない。ウォーターベアーは水色の核だったし。まぁ、レア度は高いだろうが……。まぁあとでパパンに聞いていみよう。


 またも10分ほど彷徨っただろうか、ようやっと巨木にたどり着いた。――ん?

 さっきはなかった、大きな大きな爪痕。え、なにこれ怖い。

 

 斜めに振り下ろされただろう爪痕は、クロスを描いていた。爪の数は4つ。でも、ウォーターベアーじゃない。アイツらの大きさは〈クロカゼ伍長〉よりややデカいくらいだ。だが、この爪痕の主のデカさはおかしい。ビル4階部まで届く高さだろう。最低でも、ウォーターベアーの三倍。森の主と言われても頷ける。

 俺はもう十二分に初心者の域ではないと思う。それでもこの大きさ、そしてこの巨木に深々と傷を残す攻撃力――下手すれば集団戦のボスのような相手に勝てるわけがない。なんでそんなヤツが、始まりの街から徒歩5分のところにいるんだよ!


 思いつくのは、俺がウォーターベアーを倒しすぎたせいで、イベントが発生した、というところだろうか。

 理由がそれっぽすぎて、悲しくなった。

 たしかに初心者が相手するには強敵すぎるし、かといって中級者が相手するには動きが一定すぎるし、耐久はないしと、ギルドで覚えたスキルを駆使すれば弱敵のように思えるだろう。ネットの評判もある。あんな熊を好き好んで絶滅させようと思うのは俺くらいだったのかもしれないな。


 なにが条件かはわからないが、とりあえず変化があったという証拠の写真だけ撮って、あとで両親にでも聞いてみよう。あ、そういえばちゃんと出かけたのかな?


 巨木を登り始めたが幸か不幸か、爪痕のおかげで〈クライミング〉を使わなくてもある程度登れるようだ。


「おぉん?」


 爪痕の中心部。ダイヤのように残る樹の皮の部分(部分と言っても、タタミ一畳分くらいはあるのだが)で、気づいたことがある。

 風が吹いてくる。

 なんだろう、レアの予感。レアドロップが俺を呼んでいる!


 〈鉄拳〉で岩のように(鉄じゃねえよ)硬くなった拳をぶつける。おお、動く。やっぱり中は空洞だ。10回も殴ると、ダイヤの部分が綺麗に抜けた。凹み一つ作れなかったことに、爪痕を見ながら薄ら寒い気持ちになる。


ひゅ~~~~~~~バダーン


 と……。まぁ底に当たった気配。空洞というか、真っ暗闇の大木の中を覗き込む。

 よし、あと回しにしよう。

 傷を超えて、木を登りきる。やっぱり森の中心か。しかし、馬鹿デカい化物は存在していないし……この時間は動かないのかな?


 ネット同様、この巨木にも他にめぼしいところはないようだ。枝を折ってもアイテムにはならずに消えていく。葉っぱも同様。


 やっぱりあの穴に行かなきゃダメかー。なんせネットにも上がっていないイベントである。独り占めしてこそのゲーマーだろう。周囲を警戒しながら穴の中に入る。どうせ下には行かないといけないので、とりあえず上から攻めるか。


 〈クライミング〉のスキルを獲得して本当に良かった。スキルがなければ、暗闇を真っ逆さまだ。現実世界の俺がガタンってなること確実である。それに俺は曲がりなりにも受験生――落ちるわけには行かないんだよ!

 念のためにと、写真を撮って画像を展開するが、真っ暗だった。

 上に行って念入りにペタペタと触るが、特別引っかかる感触はない。しかし、ここまで精巧な作りの隠しステージが、イベント無しとは考えづらいな。

 スルスルと下へ降りていく。壁を綺麗にチェックしたわけじゃないので、下へはすぐ着いた。


 ――おお、イベント発生してました!


 さっきまで真っ暗だったのに、地面に足をつけた瞬間、木の内部が淡い緑色に輝き出す。これはレアアイテムの予感ですよ! しかも結構広いな。

 しかも、現在俺以外知らないイベント。正直勉強なんてどうでもよくなりました。

 

 一等明るい部分がダイヤ型の木の板で隠されている。もしかして、この落ちた位置も演出の一つなのだろうか。

 そんなこと考えながら、菱形の板を退かす。――何もない。

 おやおやおかしいなぁ。

 ちらっと、退かした木の板を見ると、やっぱりそこが光っていた。おやおや、嘘だろ?


 チャララーンララーン


 クロカゼ伍長は、神木の板を手に入れた。


「ウワァァァァァァヽ(`Д´)ノァァァァァァン!」





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