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 相川さんはログアウトするということで、退出する。客人も一緒にログアウトしてしまう仕様らしい。

 アパートを出ると、まぁなんてことはない普通のアパートだった。ものは試しと他の部屋を開けるが、誰もいない簡素な一室だった。

 すげぇな〈Dragon obey Licence Online〉。本当に異世界来た気分になる。ベッドに紙袋を放り投げ、部屋の中を覗く。

 

 6畳くらいの部屋だった。クローゼットとベッド以外、家具のようなものはない。窓もはめ殺しで、圧迫感が強い。

 その点、フィリップの部屋は広かったな。拡張していくのだろう。面白いなー。と、部屋の奥に、ドアを発見した。そのドアノブを引くが、目の前に『条件を満たしていません』と注意文が出て終わりだった。


 まぁ最初はこんなもんか。

 ログアウトを選択して、ゲームを終了させる。


「おもしれぇー……」


 勉強できるかなー。その日は、微妙な集中力で2時間の勉強を終わらせた。




 起きろよ、起きてくれよ兄貴ー!!!!――

 目覚ましをとめて、どうにか起き上がる。

 ゲームやったぶんを取り返そうと、ちょっと脳みそ使いすぎたな。夕飯もそこそこだったのでお腹がすいてしまった。


 ガッツリ米を食いたいと考えながら、一瞬いやな予感がよぎる。

 米炊いてないなんてことは――あった。

 

 リビングで、昨日とまったく同じ位置で寝転がる家族を見ながら、頭を抱える。

 ちゃっかりオニギリがなくなっていたことに舌打ちしながら、炊飯ジャーを洗うことにした。なんというか、お前らな……。時計を見ると6時前、まぁ両親が仕事に行けるかどうかは置いておいて、朝食を作っておいて損はないだろう。

 

 俺はパンを食いながら二階に上がる。

 ケータイを取り出し、親に共有メッセージを送る。


『米炊いたよー

 仕事あるならそろそろ準備しなよ』

『仕事休んだ』と母

『仕事やめた』と父


 冗談じゃないよ。


『いいから、適当にヤメろ! 風呂入る?』

『入んない。母さんの代わりにトイレ行っといて』

『父さんの分もしてきなさい』


 コイツらもうダメだ。

 弟にメールを送る。――が帰ってこない。

 もういいよお前ら!!


 コーヒーを飲みながら、勉強を再開させる。朝は一番脳みそがクリアだというのに、なぜこんなイライラしているのだろうか。

 そう、俺が勉強しているのに、家族がそろってゲームしているからだ!!


 赤本を閉じて、『セカンドライフ』をかぶる。

 あぁ、クソ、夏期合宿参加してよかった。実家離れて死ぬほど勉強してやる!


(フルダイブ、ログイン、共有メッセージ)


『絶対追いついてやるからな――』


 いくつか返信もきたが全部無視して、俺はボロアパートを出る。向かうは、全ギルド踏破だ。




 とりあえず、これだけリアルハードなら戦闘は体験したいので、戦闘ギルドへ向かう。

 しかし、いろんなプレイヤーがいるな。まだ6時だってこと考えると、もしかして外国の方? そう思って、ギルドの場所を聞きながら話しかけると、ほとんど日本人だった。まぁ、そりゃそういうヤツもいますよねー。


 ギルドではアイコン付きNPCが出迎えてくれた。可愛い女の子だ。誰も見てないからといって胸に触っていいのだろうか。と、右上のほうに『×』印が出る。なんだ、なんのサインだ?

 周りには人がいないので、ネットで検索かけようかと思ったが、NPCはそれより早い。


「いらっしゃいませ、ここは戦闘ギルドになりますが、どういった御用でしょうか?」

「えぇーっと、初心者なので、とりあえずチュートリアルを」

「かしこまりましたー! では少々お待ちくださいねー」


 彼女は奥に引っ込み、次出てきたときには――ムッキムキのつるっぱげNPCになっていた。


「お待たせしましたー」

「よぉ兄ちゃん。冒険者になりたいんだって?」


 そうだよね! 奥から別な人連れてきただけだよねー!

 ムッキムキに隠れるように顔を出す女性NPCを見ながら、少し頭が痛くなる。

寝ぼけているのかな……。


「俺はボアッサ。まずはこれを装備してもらうぞ」


 ボアッサはギルドの壁に設置された棚から、袋をズルっと取り出す。それをギルドのカウンターの上に広げていく。

 鞘付きの剣、鍋のフタっぽい盾、胸当て。

 面白いのは、それらが入っていた袋だ。一つ出すたびに見る見る縮まり、いまではボアッサの手の中に収まっている。あれは世に聞く道具袋ってやつですな!!


「装備してくれ。胸当てはキツかったら言ってくれよ」


 鞘にはベルトが伸びていて、それをツナギ服に巻きつける。リングベルトだったので、巻き辛いものの余裕を持って締めることができた。

 盾は、背面の革の輪っか二つに腕を通すだけで、充分固定できた。正確には掴むための輪っかだったらしいが、しかたないなーとNPCどもに笑われる。

 そして、胸当てキツくてつけられなかった。

 そのことを告げてしまった。


「そうか、じゃあ行くか!」


 戸惑う俺は、心身ともにボアッサに置いていかれる。

 初っ端から装備一つ不利じゃねぇか!

 まぁ道具袋に入れさせてもらったが、なんというか、ラフである。冒険者というか、子どものチャンバラに付き合う感じだ。


「まず街道へ向かう。そして、街道から離れる勇気あるギルド、それが戦闘ギルドだ」

「ほぉ」


 NPCだから、相槌など打たなくてもしゃべり続けるだろうが、癖みたいなものなので気にしない。傍から見れば、完全に独り言なのが悲しい。


「初心者ってことだから、まぁ初心者じゃなくなるくらいまでは俺が付いていてやるぜ。まぁ20分で初心者は卒業だ! 不慣れなやつでも1時間で卒業だ!」


 振り幅デカイな!!

 衝撃を感じながら、ボアッサに付いていく。噴水を通り、そのまま街の外に出た。おおー。すげー! 風が気持ちいいー! 人間の脳みそってすげー! 『セカンドライフ』すげー!!


 青い空。白い雲。遠くには山脈が見える。街道の土は白っぽく、車輪のあとも見えた。街道を外れると、緑の草原。綺麗だ。なんだこれ、テンションがあがってきた。子どもか!


「ハマりそうだよー」

「ん? どうした? なにか聞きたいことあるか?」

「No」

「そうか、じゃあ、とりあえずこっちに来な」


 草原を案内される。

 と、赤、緑、青のぷにょぷにょしたものを発見した。膝くらいあるかな? 案外でかいな。


「しっ、いいか、あれがモンスターだ。アイツらはすぐ増えるから、見つけたらできるだけ処理してくれよ」


 スライムだよな? 始まりの街っぽいなー。


「まずは、パパッと倒してきてくれ。危なくなったら俺がサポートするからよ」


 頷き、抜刀しながらソロソロと歩き出す。

 あ、後から知ったことだが、ソロソロ歩いてもドタドタ走っても、敵に見つかるスピードはほぼ変わらないらしい。それは〈歩行〉のライセンスでスキルを獲得すればいくらか変化するようだ。

 なので、速攻で気づかれて、3匹のスライムに襲われた。


「なんでだよ!!」


 1匹は俺の顔面目掛けて、2メートルほど跳躍した。その驚いた隙きを見抜かれるように、器用に跳ねる左右のスライムに攻め込まれる。

 たぶん攻撃タイミングはほぼ一緒だ。なら一番威力の高そうな、空飛ぶスライムを叩き落とす。

 盾すげー! ほとんど腕に当たったけど。

地面にぶつかったスライムは、一瞬ドロっとして、サラサラと消えていく。そのエフェクトを見ておきたい気はしたが、こんなチュートリアルで死ぬのは嫌なので、まずは左のスライムを、やっぱり盾で吹き飛ばす。ほとんど腕に当たったけど。


『〈シールドバッシュ〉を会得しました』


 使い方わからねぇ!!

 剣を不器用に扱って、最後のスライムを斬りつける。逃げようとしていたのは、気のせいじゃないはずだ。


「よくやった! 筋がいいな兄ちゃん!」

「スキルってどうやって使うの?」

「口に出すか、武装にあらかじめセットしておくか、頭で考えるかの3択だな。恥ずかしいって場合には、メニューから〈スキル〉を選んでくれ」


 恥ずかしいわ。

 急いでメニューを開く。〈スキル〉を選択して、〈シールドバッシュ〉を意識する。



シールドバッシュ

音声入力 思考入力 武器付与



 思考入力を選択する。


(〈シールドバッシュ〉)


 と考えると、左腕が勝手にボアッサに向かっていく!!


「ぬおっ!」

「ごめん!」


 ボアッサは俺のスキルを片手で受け止め、苦笑いをする。

 そして、なんだこの疲労感は……。いま、なんか疲れたぞ?


「スキルの注意は、パーティーメンバー以外はすべてターゲットっていうことだ。俺はいいが、他の人がいるときは気をつけるんだぞ。ちなみに、思考入力にしていても、音声入力することはできる。まぁ見た目重視ってやつだな」

「武器付与は?」

「威力はだいぶ下がるが、その武器の攻撃全てに、スキル分の威力をつけることができる。まぁ、いまのスキルが1000のダメージを与えるとすると、10くらいなるくらい下がるがな。攻撃型スキルじゃなければ、その括りにはならない。1個の武器に付与できるスキルは3つまで」


 威力下がるなぁ。

 そして攻撃型スキルってなんだろうと思ったら、ちゃんと説明してくれた。

 〈シールドバッシュ〉は攻撃型スキル。

 〈回復魔法〉は支援スキル。

 〈素早さアップ〉は付与スキル。

 そんな括りらしい。詳しいスキル名は教えてもらえながったが、そのうち覚えられるだろう。


「武器付与は回数が多くなるから、スキルの精度は上がりやすい。そしてスキルを使いすぎると疲れちまうが、武器付与はその心配がない」


 ああ、さっきの疲れはソレか。

 隠しステータスの、スタミナってやつですな。

 序盤は武器付与一択っぽいなぁ。


「よし、じゃあ次に行くぞ!」

「ういー」


 〈重戦士〉に憧れる俺は、剣をしまって盾での攻撃に熱中していた。草原の奥へ奥へと進んで、とうとう森にまで来てしまった。武器付与の効果は素晴らしく、あっという間にスキル〈盾威力Lv3〉〈被衝撃軽減〉〈被ダメージ軽減〉と、ライセンス〈盾使い〉を取得できた。

 

 〈盾使い〉のライセンスは優秀で、後ろにパーティーメンバーがいると、デフォで敵の注意をひきつけることができるらしい。〈被衝撃軽減〉と〈被ダメージ軽減〉は〈盾使い〉のライセンススキルではないようだが、フィールドでフルダイブ中は、ネットに繋げられないようなので調べられない。


 そして一つ残念なこと、あっという間に初心者を卒業した〈盾使い〉クロカゼ伍長は、あっという間にボアッサ教官の手から巣立っていた。巣立っていたっていうか、ボアッサいなくなってた。

 

 この森さ、どう抜け出せばいいの?





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