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 ログアウトして家族の顔に乗っているイカの塩辛を処理したあと、ささっと夕食を作って家族にメールを送っておいた。


『飯できたよ。帰っておいでー』


 時計を見ると、すでに19時も半分が過ぎていた。


『午前1時から5時までメンテだって

 早めに飯くって続行したら?』


 というメールを送ると、ようやく弟と父親が稼働した。


「うわくさぁ!!」


 笑いを堪えながら、トイレに向かう父の背中を見送る。


「ありがと兄ちゃん」

「おお。なぁ、どこまで進んだの?」

「あ、トイレ行ってくるから待っててー」


 父と弟の分のご飯をよそって、他の家族の帰還を待つ。

 弟が戻ってくるころには、姉、母の順番で「くさぁ!!」と家族が集結した。



 ガツガツと飯を食う家族に、〈Dragon obey Licence Online〉のことを質問する。


「数時間で50000ケニーって稼げる?」

「ん? よゆー」


 おお。さすがベビーユーザーのお姉さま。ことゲームに関しては、マジ頼りになるな。


「四つ目の街で『火山の目覚め』ってクエスト受けて、火山の入山許可をもらって、鉱石掘り続けなさい。案外稼げるから」

「うっす。無理」

「ええ? ってかあんたどこまで進んだの?」


 素直に言うのもあれだが、まぁ隠すようなことじゃないか。


「二つ目の街についたところ。工房買うのに50000ケニー必要なの」

「なるほどねー。序盤じゃ意味ないけど、まぁそのうち買わなきゃいけないから、しかたないか」


 へっ、こっちにはお前らのしらないレアアイテムを、独りで加工しなきゃいけないんでぇ!


「そういえば、卵はちゃんと育ててるの?」

「うん。もらった紐リュック使えないから、市販のリュックに入れてる。問題ないんだよね?」


 父親は風呂に行く準備をしながら頷いた。

 ちなみに、紐リュックが使えない理由を言ったら、しっかり笑われた。


「ってか、まだ〈盾使い〉なんだね兄ちゃん。おっそいなー」

「うるせぇ。ウサギとカメって童話知ってるか?」

「俺が中学生って知ってるか?」

「あたしが大学生だと知ってるか?」


 ぐわっ、なんだこのプレッシャー!

 おのれっ学生どもがっ!

 あんたもでしょ、とケラケラと笑う母。


「あ、そういえばNPCの店から服買い占めただろ! おかげでスゲェ高い服買わされたよ!」

「〈交渉〉のライセンスほしくてねー。雪緒と火燐ちゃんにやらせてたら、いろいろ買い占めちゃった」


 ママ……発言がゲーマーすぎるよ。なんだよその〈交渉〉って。

 それを聞こうとしたとき、母親は珍しく神妙な顔をした。俺が塾に行きたいって言ったときの顔に似ている。


「そういえば、暴走NPCの話、知ってる?」

「あぁ。そのせいで緊急メンテなんでしょ? あと、たぶん俺会ったよ、そのNPC」

「ホント? どこで? 何時くらい?」


 夕方、〈セントラルライセンス〉と次の街行く街道で。

 そのことを伝えると、母親はスマホを取り出して電話をかける。


「もしもしー? あのさ、うん、NPC。ウチの息子見たかもって。電話代わる? 風太、このおっさんに説明してー」


 母のケータイを受け取り、もしもし、と話しかける。


『キミが風太くん? よろしく、エノキダマスオだよ』

「こんばんは」


 えぇ!? 本当かいサザ○ェ?

 と往年のリアクションが頭をよぎる。

 誰なのだろう。


『NPCの様子について聞きたいんだけど』

「はい、会ったのは女性型、たぶんポーション配給用のNPCです。最初の街から伸びる街道で。大きなリュックと、スカート。髪は長かったですが、全体的な色は、夕日が強かったので認識できませんでした。時間はたぶん、午後5時すぎだと思います。ポーション手渡されそうになりましたが、〈質問〉するとポーション落としちゃって、近づいたら逃げられました。あ、あと表情がありませんでしたよ」


 別に俺が気持ち悪いからじゃねぇし。


『キミ、本当にハヤさんの息子さん?』

「えぇ、よく言われます」

『あははは』

「母に代わります」

「どうだったー? うん、えー!? あはははー、コイツ塾とか行ってんの! 女の子に振られて! あはははははは!!」


 てめぇ! 聞き捨てならない!

 図書室で勉強しづらくなったから塾に変えたわけじゃない! 図書館でイチャイチャしている可愛い女の子を邪魔しちゃいけないと思ってだね!


「んじゃ、そっちまかせたから。えー、やだよゲームしてるもん! 鉄砲スキル実装はやくしてね! 9月までに」


 電話を切った母親に質問した。


「いまの人は?」

「ドーロのプログラミングの監督」

「めっちゃ偉い人じゃん!」

「偉くないよー。あれこれ指示出すばっかでなにもしてくれないしー。ハコちゃんのほうがよっぽど信頼があるね」


 誰だよ。


「風呂上がったぞー」

「次俺ー!」


 弟が走っていく。


「姉ちゃんは?」

「あたしはいいや。昨日入ったし」


 この親にして――っ!


「風太は?」

「入ったよ。風呂沸かしてからどのくらい経ったと思ってるのさ」


 食器を片付けながら、冷蔵庫の中を確認する。冷凍食品がなければ、あと2日だな。皿を洗い終え、本日三回目、米研ぎをする。普段は家事を一任されても苦痛に思わなかったが、後ろでゲームの話されると……すごい良くない気分ですな!

 

 〈準騎士〉だ〈狂戦士〉だ〈魔法剣士〉だ〈中級魔術師〉だ〈ボディービルダー〉だと……ん?

 唯一持っているライセンスが耳に入り、意識を持っていかれる。


「とりあえず〈ボディービルダー〉入手して大会に出ないと――」

「プロテインはありがたいけど見た目が――」

「あんな役立たずのライセンスどうでもいいから――」


 持っていかれた自分が本当に恥ずかしい。

 周囲の人から言われるならまだしも、「役立たず」とか開発スタッフの1人に言われるって、すごい情けない気持ちになるよ……。じゃあ作るなよ。


 姉以外の家族が風呂に入り終わったあと、家族会議は一区切りついた。俺はほとんど参加しなかった。

 家族が〈Dragon obey Licence Online〉にログインするなか、俺は二階で勉強することにする。

 時計を見るとすでに20:30。あと数時間で緊急メンテナンスが入ると思うと、朝感じていた焦燥感はなくなっていた。それに、今日はびっくりするくらい遊んだからな。


 一週間〈クロカゼ伍長〉になろうとも思ったが、それは無理だ。一週間どころか一日だって無理だと気づいたよ。やはり、いい大学入ってからゆっくりやろう。俺は、あんな暗い眼はしないんだ。

 歩行ギルドで出会ったプレイヤーを思いうかべながら、俺は紫本を開いた。





 朝、すでにゲームにログインしていると思われる家族を発見。いや、まぁ俺のこれからログインするから、なにも言わないけどさ。でもさ、皿くらい洗えよと。

 流しに散乱する油ギットギトの皿と、冷凍食品の袋を見ながら思う。


 二階に戻ったのは、食事も終わって7時頃だった。お米くらい保存しておいてもらいたいところなのだが、まぁいいだろう。

カレンダーにチェックを入れて『セカンドライフ』をかぶろうとしたとき、

 

 おいハチ! 犬なんて拾ってくるんじゃないよ――


 と、ケータイが鳴り出した。

 誰からだろうとメールを開く。相川さんからの誘いだろうか?


『From:ヒイラギ

 助けてくださいー!』


 おお! ちゃんとフレンド登録してくれたようだ。良かった良かったと思いながら、フルダイブする。

 一日経っても焦げたベッドは直っていなかった……。修繕スキルってあるんだよな?

 メニューからフレンドを選択して、通話――っと。


『どうしたヒイラギくん?』

『ああ! すみませんクロカゼさん。っわっ、ちょっと待ってよ!』

『ん?』

『あの! 森から出られなくなっちゃったんです!!』


 ……ああ。


 朝露をすぼんの裾に染みこませながら、草原を〈ダッシュ〉する。

 〈ダッシュ〉を手に入れる前でも走ることはできたが、ここまでのスピードはでなかった。これで〈神速〉になったらどうなるのだろう! 思わずほくそ笑む。


『それで、クーが森に行こうっていうから一緒に入ったんですけど、ボアッサさんいなくなってて……』

『まぁ、そうなるよねー。そのクーってのはフレンドなの?』

『はい。学校の友だちで。いた、やめてよ!』


 出られないことが不安なのか、ヒイラギくんの声は泣きそうである。


『まぁ大丈夫だよ。ゲームだし。道具なくなるだけだから』

『でも、あの、ボクたち、卵背負っていて――』


『〈ダッシュLv15〉→〈瞬足Lv1〉に変更されました』


 俺は加速した。





「ヒイラギくーん! どこだー!!」


 通話だと位置がつかみにくいということで、声を出して呼びかける。

 安心してくれ。俺がきたからには、キミたちが死に戻りしても卵は俺が育てるから!

 そんなゲスいことを頭の片隅で考えながら、声を張り上げる。

 〈クライミング〉で木々を飛び移りながら叫んでいると、


『〈ターザン〉を取得しました』


 お、なにそれダサい。

 開くとライセンスだった。どういうスキルを覚えるのかは興味がな、いや、わからない。


 昨日散々迷ったよいうのに、今回は楽に巨木にたどり着いた。

 巨木の爪痕はいまだ深々と残っていて、恐怖を感じさせる。――だが、昨日俺が開けた穴はなくなっていた。

 ヒイラギくんのことはそっちのけで、巨木に登っていく。菱形の木の板は健在。だが風が吹いてくるわけでもなく、〈鉄拳〉で殴っても動きもせず……もはやただのオブジェクトと化しているようだ。


「よくわからねぇな……」


 もっと攻撃力があれば動くのかもしれない。そう思いながらヒイラギくんに通話する。


『いまどこら辺かな?』

『えぇっと、川が流れてるんで、涼んでます』

『あぁ、了解。気持ちいいよねー』

『はい!』


 今日も彼のネコミミは可愛いんだろうなーと思いながら、通話を終了させる。大樹を登って、その天辺から見渡すが……わからない。木々の薄そうな場所が二箇所あるので、まぁどっちかだろうとアタリをつけて、


「アーア、アー!!!!」


 と飛び降りた。





「ぐはっ……くそ……こんなはずじゃ――」


 着地に失敗して深刻なダメージを負った俺は、足を引きずりながら歩いていた。ターザン、蔦もって移動してたよな……。


 さてお立会い、〈Dragon obey Licence Online〉は体力ゲージがない。だが、フィールドでもどこでも、体力がある程度自動回復する。

 この『ある程度』というものが曲者だ。例えば現実で、左手の指を骨折したとしよう。痛い痛いと思っても、右手では作業できるし、歩くには支障がない。だが、左手ではノートを開くことすらままならないものだ。この場合、DOLOでいうところの『ある程度』が適応されない。


 では、足の小指をタンスの角にぶつけたとしよう。ものすごい激痛で、歯を食いしばらなければ一歩も先に進めないということはよくある話だ。だが、1分後にはケロっとしている。これが『ある程度』の正体である。


 打ち身や打撲程度なら、30分もあれば回復する。どころか無理すれば動ける。

 深い傷であれば、3日待っても回復しない。どころかそのまま死んでしまう。


 俺がバーサークボアとの戦闘で、大ダメージを受けながらも立ち上がれたのは、そういう理由である。あの時は自動回復するのを待っていたわけじゃないが、足が欠損するほどのダメージを受けない限り、『根性論』で立ち上がることができる。足が欠損しても、逆立ちなら移動することができる。


 致命傷を受けなければ、逆転はできる――そんなゲームなのだ。


 川を見つけるころには足のダメージも回復していて、俺は元気に手を振った。


「おおーい!」

「きゃっ!」


 バシャ! と水面に隠れるプレイヤーと、ネコミミについた水滴をパラパラと払うヒイラギ少年。お前、あれだな、リア充ってやつだったのか!


「あ! クロカゼさん!」

「お、おう! なんかゴメン!」


 後ろを向いて服を着るように促す。

 いや、なんというか、気恥ずかしいもんですなー! こういうの! まぁ、あれだよ、後ろ、向いてもいいかな? チラッと! 事故っていうか、周囲の確認というか、見たいというか。


 チラっと覗いた先には、下着姿のプレイヤーの姿。


 ああ――なんということでしょう!

 女性キャラは上も下も下着は脱げないとは本当だったのですね。ブラジャーとショーツって言うんでしょう? 知っていますとも。

 頭から首筋にかけて水をプルルンと弾く頸鱗板けいりんばんの黒さは美しく、ブラジャーのフック部分に見え隠れする背鱗板はいりんばんも、やっぱり水を弾き切っている。ヘソがあるべき腹は『肚』と漢字を書き換え『ハラ』と呼び、その鱗は時計やバッグに加工されて高い値段で出荷されることが多い。


「おい」

「なに? って! ちょっと! やだっ! こっち見ないでよ!」


 胸があるのかなってところと、ショーツを隠すプレイヤーを見ながら、ク○コダイルドリーマーと叫びたくなった。


200pt突破して、感想までいただいて

本当にありがとうございます(´;ω;`)


でも、今日から三日ほど家を留守にするので

更新ができなくなりますすみません……

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