DOLO
「風太ー! ゲーム買ってきだぞー!」
父親の声が家に響く。
試験勉強で忙しいというのに、なんとご機嫌なオヤジなのだろう……。
「兄ちゃん! ゲームやろうぜ!」
「ダメだよ! やりたいよ! でもなぁ、いま頑張らなきゃ、って聞いてよお兄ちゃんの話!!」
飛び出していった弟は、すでに背中すら見えない。なんとご機嫌な弟なのだろう……。
「風太! 父さんがゲーム買ってきたって! 早く降りて来なさーい!」
「ご機嫌すぎるよ母ちゃん!!」
受験勉強中だよ!
昨日まで夜食作ってくれていた母親はもういない……。
受験最後の夏休み初日だというのに、この家族はどうなっているのだろうか。
するってーとなにかい? するってーとなにかい?――
タイミング良く電話をかけてきた姉、いやな予感を覚えながらも電話にでる。
『風太ゲー――』
ブチっと切って、参考書を開きなおす。
なんだろうな? 大学行かせたくないのかな?
ゲームゲームと連呼しているが、これだけ家族が騒いでいるのには理由がある。ゲームのタイトルは〈Dragon obey Licence Online〉。ドーロ、ドライセン、竜免許などの通称があり、β版の応募ですら、世界中から10万人。本製品は完全抽選になっており、一部関係社と、一部上流階級以外は、宝くじを買うようなものと、もっぱらの噂だった。まぁ、それを家族全員分買ってくる親父も親父だが。
まぁ〈Dragon obey Licence Online〉の発案が母らしいので、それも頷けるか……。ならば発売をもう三ヶ月送らせてくれてもいいじゃないか。
「俺だってゲームしたいよ! あと少しで偏差値68なんだぞ! くそっ!」
三時間後、俺は家族と一緒のゲームをしていた。
「ねぇパパー。キャラメイクだけどさー」
「うるさいぞ風太。ママ、スキル強化した?」
「したしたー。雪緒クエスト受けたー?」
「受けたー。兄ちゃん先行くからなー」
お前らさ……。
「あ、火燐ちゃん来たよ! グッジョブー」
「じゃ、フルダイブするからねー。またね風太ー」
「兄ちゃんも早くなー」
お前らさ……。
家族が熱中しているゲームは、VRMMOを利用したフルダイブシステムを搭載している。家族5人でパーティー組むなら、いっそオフラインでもいいんだけどさ。
1ヶ月前の先行発売で、俺と弟の分を買い漏らしたと親父は言い訳していたが、俺は知っている。先行を無視して、開発元に無理言って自分たちのだけ用意させていたことを。そして今日の一般発売で、俺たちの分を買ってきたのだろう。ありがた迷惑このうえない!
しかし、キャラメイクのしかたくらい教えてからフルダイブしてくださいよ……。ちなみに、家族は俺と弟以外、βテスターなのだが、それにも決して納得はしていない。去年ならゲームする余裕もあったというのに!
俺用なのだろう、梱包されたVRマシンを取り出して、かぶってみる。思わず口角があがる。なんとつけ心地がいいのだろうか、さすがVRマシン第2世代『セカンドライフ』。フルダイブシステムを導入したことにより、ドライアイ患者が激減したそうだが、いやー気持ちいい。
さて、と、みんなのコードを辿って、俺もフルダイブシステムを体験しようとしたのだが……。
「おいてめぇら」
HDMIケーブルは、3人で埋まっていた。俺二階かよ。
リビングのリラックスソファーで川の字になる家族を見ながら、頬がヒクつく。このソファーベッドより寝心地いいのに!
空腹を埋めるため、サンドウィッチを作って2階に上がる。
2階のケトルのスイッチを入れ、VRマシン『セカンドライフ』をかぶった。
「おおー」
フルダイブではないのに、グラスディスプレイから流れてくる映像は、なんと綺麗なのだろう。もう充分ゲームの域を超えている。もともと医療用だからな、解像度を上げていて当然なのかもしれない。
綺麗なOPを見ながら、サンドウィッチをつまむ。
まぁ、グラフィック飽和の時代では、綺麗なムービーだなーとしか思えない。このゲームのなにが凄いかといえば、このOPをプレイヤーが頑張れば作れるというところだろう。空を飛べる種族を選ぶと、空中での撮影も自由自在らしい。
「やっとキャラメイクか……」
両親から断られたいま、孤高に頑張るしかないか。
戦闘職か生産職か――たぶん最初が肝心だ。βの評判を見ると、やり込み要素は生産職が多いらしいが、戦闘の美しさは、もう他のゲームには戻れないと話題だし。
名前は〈クロカゼ伍長〉。性は男。身長は最大! 筋肉隆々!! 顔にはデカい傷!! 俺は男の中の男だ!! と、ここまで作って止まってしまう。
初期の服ピッチピチやないか……。
ちなみに、俺は〈人間〉を選んだが、他にも〈エルフ〉〈リザードマン〉〈神族〉〈魔族〉〈セイレーン〉〈ゴブリン〉〈オーク〉〈小人〉〈オーガ〉など、大量の人種が用意されている。他のキャラも見てみたいが、まぁ、とりあえずいいだろう。
今日はキャラメイクだけして勉強するんだ。
進めると、どうやらジョブシステムは用意されていないようだ。ライセンスを取得しなきゃいけないらしく、そのライセンスによって、自分に見合った仕事をしろということらしい。俺が求める職業は、重戦士か鍛冶屋の二択なのだが、どのライセンスを取ればいいのかな?
『スキルの会得の説明をします』
うぃー。待ってました。
スキルとは、ゲームには欠かせないシステムの一つであるが、この〈Dragon obey Licence Online〉には、ライセンスとの相互システムに関係して、物凄く重要なものになっている、らしい。
例えをあげると、
・スキル〈一刀両断〉を会得する
・両手剣ないし片手剣を装備する
・戦闘を10回する
これでライセンス〈剣士〉を取得できるというわけだ。ライセンスを得ることで攻撃・防御が増加し、〈剣士〉専用のスキルも会得できる。そして〈剣士〉専用スキルを会得して、今度は上位ライセンスを取得。この流れらしい。
あ、正直〈重戦士〉というライセンスがあるのかは知らないです。〈鍛冶屋〉はあるだろうが、どこから派生かはわからない。
で、ここでありがたいのがスキルへの解説だ。
ポイント制なのかと思ったが、そうじゃないらしい。
『スキルは基本的に自動更新と選択で成長していきます
プレイヤーには〈戦闘〉〈探索〉〈歩行〉〈作成〉〈育成〉のスキルが与えられます
この5つの初期スキルを反復行動でレベルアップさせてください
始まりの街〈セントラルライセンス〉には5つのギルドがあるので
まずはギルドを訪ねてみるといいでしょう』
〈戦闘〉……敵と戦闘になった場合、攻撃ができます
〈探索〉……フィールドで街道を外れることができます
〈歩行〉……移動する速さがアップします
〈作成〉……日用品、回復薬などの調合ができます
〈育成〉……家畜を育てることができます
『次にライセンスの説明をしたいと思いますが、進めてよろしいですか?』
「イエース」
パンをモグモグさせながら答えると、
『ライセンスは隠しステータスで自動取得します
5つのギルドでライセンスの取得条件を見ることができます
まずはギルドを訪ねてみるといいでしょう』
ギルドさんに丸投げされた。
おいママン、ちょっと親切に作れよ!
残りは注意事項だった。
言葉遣いから始まり、NPCとプレイヤーの違い、PKでのペナルティ、フルダイブシステムの注意事項、最後に、長時間遊ぶとウンタラカンタラ。
オートセーブが正直好きになれないが、オンラインならしかたないと割り切ろう。俺自身は一円も払っていないわけだし。ありがとうパパママ。
『それでは歩いて見てください
いまから現れる門を出ると最初の街〈セントラルライセンス〉に行きます』
おお、ようやっとか。
頭の中でメニューを開き、『フルダイブシステム』を起動させる。
「お、おおお、おおおおおー」
これは、なんと表現したらいいのだろうか。
さっきまで部屋のベッドの上だった。手にはシーツの感触があったというのに、いまはもうなくなっている。立った記憶もないのに立っているのは設定だろうが……。手をブンブンと振るが、なにかに当たった様子はない。なるほど、家族がソファーで寝ていられるわけだ。
そして、腕が風を切る感覚――。
完成度が高すぎて目眩がする。
あと、背が高すぎて目眩する。
耳元で電子音が鳴り始め、それと同時に風景生成される。
小うるさい電子音がなり止むと、出来上がったのはウッド調の小屋だった。
大きな門が不釣り合いだが、それ以外はログハウスそのものである。
机の上のコップを持てば――すごい、完璧な質量だ。なんだろう、なんだろうなぁもう。完璧すぎてゲーム感覚なくなっちゃうよ。
蛇口を見つけたので、そのコップに水を汲む。さすがに水道管や下水道はないだろうが、水は出た。すげぇ。それを口に入れるが、いやなんかもう、水だわ。とはいえ、食道を通るわけじゃないので、内蔵のほうの感覚までは用意されていなかったが、にしてもすげぇな。
部屋を見渡し、満足。身体を動かし、満足。自分の身体を見てスっと目を逸らした。そのさきに鏡があって、さっそくキャラメイクに後悔した。筋肉つけすぎたよ、服ピッチピチだよ、金髪にすればターミネーターごっこできたのに!
せめてものファッションと上着を脱ぎ、腰に巻くことにした。上着を脱ぐとき、ビリリという音が聞こえたが、初期装備だ。防御力がないんだろう、たぶん。
そういえば、装備ってどうするんだろ?
メニューは、〈スキル〉、〈ライセンス〉、〈クロカゼ伍長〉、〈クエスト〉、〈フレンド〉、〈フルダイブ〉、〈ログアウト〉、〈セットアップ〉、〈ヘルプ〉。装備を選ぶような項目がない。
〈クロカゼ伍長〉は所持金と、二つ名が入るだろう空白、所属が入るだろう空白。そのほか、いくつかの空白があるだけで、現段階で選択できるわけじゃないようだ。
「不便というか、リアルというか……」
とりあえず、意識をログアウトに向け、ゲームを終える。
ここまで20分弱。もっと繊細なキャラメイクをすればよかったと思いつつ、勉強を再開させ……んん……ゲームしてぇなぁ!!!
モブデブもそこそこに新しいの始めました
誰も見てないから、いいよねと……(´・ω・`)
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