最期
もうあれから十年たったのか。
僕は病室の中でただ一人、寂しく生きている。
君は病室で佇んで、僕を見下ろしている。
目の見えない君は、そっと探すようにして僕の手に触れる。
君は泣いていた。
僕は笑っている。
君は言う。「ごめんなさい」と何度も何度も繰り返し言う。
今の僕には君がここにいるだけで十分だった。
動かない体に、片目のない自分に、最後の最後まで連れ添ってくれた。それだけで、それ以上を求められるはずがなかった。
僕は、最後の力を振り絞って言葉を綴った。
「遥か遠い存在になったとしても。僕は君のすぐそばにいる。だから悩むことや後悔することなんてない、君だけの自由な時を過ごすといい。」
そうして君の手から僕の手は滑り落ちる。
意識はある。しかし、体が限界なのだ。
腕も足も、指一本すら動かせない。
点滴の音と心電音が、彼女の啜り泣く声とで不揃いな旋律を奏でる。
君の目からは一雫の水玉が頬を伝い流れ落ちたのを最後に、僕の意識は永遠の暖かい闇に呑まれていく。
―――これほどの幸せがあって、本当にいいのだろうか?