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Last witch  作者: 神崎ミア
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四話


「嘘!」


シェリルは咄嗟に強く否定してしまい、一瞬口をつぐんで視線をさ迷わせる。エミリアの存在は魔法を扱うもの、ミュータントですら知っていることではあったが、こうも強く否定すれば疑われてしまわないかと不安になった。

だが想像していたよりサラの反応はあっさりとしたもので、ふふっ、と口元に笑みを作って髪をさらりと流している。

その反応に少し安堵しながらも、何故彼女がこんな見え透いた嘘をついたのかを考えた。エミリアは既にこの世にいない。そしてエミリア自身は血の繋がらない者には決して伝えようとはしなかった。

それは彼女がいかに魔術の恐ろしさを知っていたかという証でもある。

エミリアをずっと側で見ていたシェリルなら分かることだった。



「確かにエミリア様から教わるなんて、私のような素質のある者にしかできないことよ?」

「お会いしたの?」

「ええ、先月。とても美しい方だった…崇高な魔術の前で、老衰なんて恐れることではないわね」


先月、シェリルはその言葉を頭の中で反芻した。

彼女の態度からして、先月エミリアという人物に魔術を教わったのは嘘ではないのだろう。

誰かがエミリアの名を語り、魔術を伝えている。

シェリルは今にも怒りで拳をテーブルに叩きつけたくなるのを堪え、静かな声を努めて尋ねる。


「何処でお会いしたの?」

「あら、随分と興味があるのね、力を恐れていたのではないの?」

「だっ…だからこそよ…お願い教えて、何処でエミリア様にお会いしたの?」


サラは空になった水のコップを傾げて、中の氷に視線を落とす。そしてなるべくシェリル以外の者が聞き取れないほどの声で告げた。


「実は…あなたを連れてくるように頼まれているの…あなたも素質があるのね、私が魔術を使える子がいるって言ったらそう言われたの…」


シェリルは青ざめ、席から急いで立ち上がった。急激に立ち上がった為、周りの客や、シェリルが頼んだ紅茶を持ってきたウエイターなどがシェリルに視線を送ったが、そんなことには目もくれず、シェリルは一言、帰る!とサラと突っぱねて店の外を目指す。もちろんそんなシェリルに驚いたサラは、彼女の腕を引いてそれを引き止めた。


「どっ、どうしたっていうの!イキナリ?!興味あったんじゃなかったの!?」

「お願い、離して、私そういう危なそうなの嫌なの、やっぱりやめる、帰るわ!」


彼女はやはり、騙されているのだ。

それも古の種族ではない、彼女が優劣を変えるべきだと罵ったミュータントに。

まだシェリルだと気づかれているわけではなさそうだが連れて行かれれば恐らく待っているのは罠、それもシェリル専用のどす黒い炎が取り巻く罠だろう。


シェリルはサラの手を強引に引き剥がし、お金を適当に置いて店を飛び出す。

数メートル走った所でサラが叫んだ。


「止まれ!止まらないと魔法でアンタを丸焼きにするわよ!」


シェリルは足を止め、振り返る。

彼女の手には魔法陣が描かれている。初級も初級のその魔法にシェリルはつい冷たい笑みを浮かべてサラに向き合った。


「あなたは私を丸焼きになんて出来ないわよ、もうやめた方がいい。あのね、危険なのよ、魔法って。ミュータントがあなたを騙しているの、いい加減気づいて」

「何よ、たいした魔法も使えないくせに偉そうに…わたしはエミリア様に選ばれたの…もう悔やんだって遅いわよ!」


魔法陣が鈍く光を帯び、サラは詠唱呪文を唱える。

サラの腕から一筋の炎が噴出し、それは真っ直ぐシェリルに向かって凄まじい勢いで放たれた。

まだ魔術の全ての文字をその脳内に記憶していない為、うまく制御できてないその炎は不規則に揺れ、周りに居た通行人を巻き込み、人々は混乱て走り出す。


シェリルはこれ以上通行人までも巻き込まないためにも、炎を除けず、打ち消す反照魔法を唱えた。


その瞬間、サラが放出した魔法は一瞬にして掻き消え、サラの手の紋章は淡い粒となって弾ける。サラはそれに驚き小さく悲鳴を上げ、数歩後ずさり、とん、と何者かに背中がぶつかり、尻餅をつく。


シェリルはサラがぶつかった人物の姿に息を飲み、思わず後ずさる。

身長が高い男と思しきフードの人物が、じっとりとサラを見下ろしていた。


「な…に今の…!なんなのよ!」

「こんな街中でアホか、この女」


ぐっ、とサラの髪を掴むと男はサラに指先を突きつける。すると指先は一本のナイフに形状を変化させ、サラは悲鳴を上げてフードの男の顔を見上げる。


「俺たちにはきったねぇ魔族を滅ぼす権限がある、お前、餌につかってた人間か…残念だったな、こんなきたねぇ魔術覚えさせられて、シネッ!って言われてるようなもんだよなア!」

「やめっ…!」


男が形状変化させたナイフがサラの喉元を掻き切る。鮮血が虹のように柔らかな弧を描き飛び散り、サラはその場に倒れこんで事切れた。

シェリルは口を押さえブラックファイアの男を見つめ、脳内における男に対抗できる魔術を探す。

だが男はサラの死体を回収すると、シェリルの脇を過ぎ去り何事もなかったように街は再び喧騒を取り戻す。


サラの血が広がる街路を見つめて人々は囁きあった。


「古の種族がブラックファイアに…」

「粛清ってやつだろ、怖いな…俺たちは人間でよかった」

「ああ、ミュータントに古の種族の小競り合いなんて化け物のいがみ合いみたいなもんだろ…」


囁く人々の声を遮断するように両の耳を押さえてシェリルは叫ぶ。


自分が煽ったりしなければともう遅い自責が繰り返しシェリルを苛んだ。






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