「携帯やめてください」と言ってるつもりの、いいまつがい。
エッセイではありません。
「終わっ…た…」
トラブル続きで遅れ気味だった案件。
なんとか立て直した直後、納期目前でサーバーダウン…
原因を!業者を!取引先に!と、連日徹夜の1週間。
もちろん途中に交代で仮眠とったり、休憩してたが…この1週間は本当に修羅場だった。
「お疲れ…って、うわ…お前ひでー顔してる…」
さっきまで一緒に仕事していた田中に声を掛けた。
「そういうお前も鬼300人くらい殺してきた顔しとるわ…」
「……俺、無敵の人………」
お互い疲れすぎて、それ以上言い返す気力もない。
俺も田中も無言でその場を離れた。
這々の体で、一週間ぶりの車。
エンジンかかるよね?バッテリー上がったりしてないよね?
普段ならしない変な心配をしながら車に乗り込む。
無事エンジンがかかり、ラジオから聞き慣れた声が聞こえてやっとホッとする。
いつのまにか始まっていた夜間道路工事。
ノロノロとしか進まないその渋滞にハマりながら「風呂入りてぇ…」「寝たい…」「帰りたい」の思考ループ。
ふと、、、
バックミラーを見ると、後ろの車の運転手の女の顔が青白く浮かび上がった。
「ヒッ…」
よく見ればなんてことはない。運転しながらの、ながら携帯。
しかし、下方から携帯の画面のライトが当たったその顔に、俺は一瞬恐怖を感じた。
普通に幽霊でもついてきたかと思ったから。
「だめだ。さっきからマジで頭が限界きてる…」
ノロノロ進んで止まる渋滞にハマり、後ろの女はラッキーとばかりに携帯をしている。
追突されないかとヒヤヒヤするのが、徐々にイライラに変わる。
闇夜に浮かぶ女の顔。
ライン通信なのか、やり取りで消える携帯の画面。
すぐ返信で光る画面。
笑う女の顔が浮かび上がる。
消える。
またすぐに浮かび上がる女の顔。
普段なら全く気にならない…かもしれない。
しかし、今の俺。
鬼を300人倒してきたばかり。
あと一人くらいの鬼なら難なく倒せそうに思う。
いや、相手は女性だ。
ダメだ。浮かび上がる顔なんて気にするな。
それが笑ってようと、泣いていようと、交通違反だろうと。
いや、ダメだろう!
いちいち明るくなるバックミラーに、俺は限界がきた。
穏やかに「携帯やめてもらえますか?」と、低姿勢で紳士的に言えばいい。
運転中の携帯は違反だと伝えれば良いだけだ。
ただその一言でこの戦いは終わる。
疲れ切った俺の判断力。
俺はギアをパーキングに入れ、サイドブレーキを引くと車を降りた。
後ろの車に行き、ガラス窓をノックする。
コンコン。
こちらを向いた女は笑顔だった。
よほど面白い返信が来ていたのだろう。
下からライトの笑顔が怖い。
「あの、すみません。運転中なのでその携帯やめてもらえますか?」
「は?」
「いや、携帯が浮かび上がってバックミラーに映って気が散るんで」
「なんですか?失礼ですよ!」
「いや、運転中にその携帯してたら違反ですよ、逮捕ですよ、逮捕」
「あなたに言われる筋合いありません!!」
「いや、こっちも迷惑してるんですよ。なんならドラレコ見せますよ?どこから携帯してたか映ってますからね?」
「え?」
「は?携帯のライトがバックミラーに映ってウザいんですよ?さっきからそう言ってますよね?とにかく、運転中の携帯は違反になりますからやめてください。それじゃよろしく」
言いたいことを言って、俺は車に戻った。
運転中の携帯は違反。
俺は間違えていないと思う。
運転中にスマホ等を使用して画像注視する行為は、携帯電話使用等(保持)違反となります。
ほんと、やめてね。




