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「携帯やめてください」と言ってるつもりの、いいまつがい。

作者: コロン
掲載日:2026/06/09

エッセイではありません。






「終わっ…た…」


 トラブル続きで遅れ気味だった案件。

 なんとか立て直した直後、納期目前でサーバーダウン…

 原因を!業者を!取引先に!と、連日徹夜の1週間。

 もちろん途中に交代で仮眠とったり、休憩してたが…この1週間は本当に修羅場だった。


「お疲れ…って、うわ…お前ひでー顔してる…」

 さっきまで一緒に仕事していた田中に声を掛けた。


「そういうお前も鬼300人くらい殺してきた顔しとるわ…」

「……俺、無敵の人………」



 お互い疲れすぎて、それ以上言い返す気力もない。

 俺も田中も無言でその場を離れた。


 這々の体で、一週間ぶりの車。

 エンジンかかるよね?バッテリー上がったりしてないよね?

 普段ならしない変な心配をしながら車に乗り込む。

 無事エンジンがかかり、ラジオから聞き慣れた声が聞こえてやっとホッとする。


 いつのまにか始まっていた夜間道路工事。

ノロノロとしか進まないその渋滞にハマりながら「風呂入りてぇ…」「寝たい…」「帰りたい」の思考ループ。


 ふと、、、

 バックミラーを見ると、後ろの車の運転手の女の顔が青白く浮かび上がった。

「ヒッ…」


 よく見ればなんてことはない。運転しながらの、ながら携帯。

 しかし、下方から携帯の画面のライトが当たったその顔に、俺は一瞬恐怖を感じた。

 普通に幽霊でもついてきたかと思ったから。


「だめだ。さっきからマジで頭が限界きてる…」


 ノロノロ進んで止まる渋滞にハマり、後ろの女はラッキーとばかりに携帯をしている。

 追突されないかとヒヤヒヤするのが、徐々にイライラに変わる。


 闇夜に浮かぶ女の顔。

 ライン通信なのか、やり取りで消える携帯の画面。

 すぐ返信で光る画面。

 笑う女の顔が浮かび上がる。

 消える。

 またすぐに浮かび上がる女の顔。


 普段なら全く気にならない…かもしれない。

 しかし、今の俺。

 鬼を300人倒してきたばかり。

 あと一人くらいの鬼なら難なく倒せそうに思う。


 いや、相手は女性だ。

 ダメだ。浮かび上がる顔なんて気にするな。

 それが笑ってようと、泣いていようと、交通違反だろうと。

 いや、ダメだろう!

 いちいち明るくなるバックミラーに、俺は限界がきた。


 穏やかに「携帯やめてもらえますか?」と、低姿勢で紳士的に言えばいい。


 運転中の携帯は違反だと伝えれば良いだけだ。


 ただその一言でこの戦いは終わる。


 疲れ切った俺の判断力。


 俺はギアをパーキングに入れ、サイドブレーキを引くと車を降りた。


 後ろの車に行き、ガラス窓をノックする。


 コンコン。


 こちらを向いた女は笑顔だった。

 よほど面白い返信が来ていたのだろう。

 下からライトの笑顔が怖い。



「あの、すみません。運転中なのでその携帯(かお)やめてもらえますか?」


「は?」


「いや、携帯(かお)が浮かび上がってバックミラーに映って気が散るんで」


「なんですか?失礼ですよ!」


「いや、運転中にその携帯(かお)してたら違反ですよ、逮捕ですよ、逮捕」


「あなたに言われる筋合いありません!!」


「いや、こっちも迷惑してるんですよ。なんならドラレコ見せますよ?どこから携帯してたか映ってますからね?」


「え?」


「は?携帯のライトがバックミラーに映ってウザいんですよ?さっきからそう言ってますよね?とにかく、運転中の携帯は違反になりますからやめてください。それじゃよろしく」



 言いたいことを言って、俺は車に戻った。


 運転中の携帯は違反。



 俺は間違えていないと思う。



運転中にスマホ等を使用して画像注視する行為は、携帯電話使用等(保持)違反となります。

ほんと、やめてね。

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