支持率三パーセント内閣
内閣総理大臣・豆原兼一郎は、朝八時二分、官邸の執務室で自分の支持率を見た。
三パーセントだった。
正確には、三・二パーセント。
誤差はプラスマイナス二・八パーセント。
つまり、統計上はゼロの可能性もあった。
豆原はしばらく画面を見つめ、それから秘書官に尋ねた。
「これは、つまり……まだ支持者がいるということか?」
第一秘書官の黒瀬は、長年の官僚生活で鍛え上げた無表情のまま答えた。
「はい。全国に、一定数は」
「ありがたいな」
「ただし、そのうち四割は『間違えて回答した可能性がある』との補足分析が出ています」
「それは支持者なのか?」
「調査会社としては、支持に分類しています」
豆原は椅子に深く沈んだ。
政権発足からわずか六か月。
最初は「庶民派」「調整型」「敵を作らない政治家」と評された。ところが実際に政権を運営してみると、庶民派は単に高級店に慣れていないだけで、調整型は何も決められないだけで、敵を作らない政治家とは味方にも存在を忘れられる政治家のことだった。
最初の失点は、所信表明演説で「国民の皆さま」と言うべきところを「株主の皆さま」と言ったことだった。
二度目は、物価高対策として配布した「国民応援クーポン」が、全国で使える店よりも使えない店のほうが圧倒的に多く、ついに「使えないことによって消費を抑制し、インフレを沈静化させる高度な政策ではないか」と皮肉られたことだった。
三度目は、内閣改造で任命した少子化担当大臣が、就任会見で「子どもは苦手です」と正直に言ってしまったことだった。
豆原自身は悪人ではなかった。
むしろ、悪人でなさすぎた。
政治家としては致命的なほど、言い訳が下手だった。
野党に追及されると、すぐに「そこは本当に申し訳ないと思っています」と言ってしまう。官僚が用意した答弁書には「国民の誤解を招いたとすれば遺憾」と書いてあるのに、豆原は勝手に「誤解ではなく、私たちの説明不足です」と言い直してしまう。
世論には一瞬だけ好感を持たれた。
しかし政治部記者たちは困った。
「叩きにくいが、褒めるほどではない」
それが豆原政権の本質だった。
支持率三・二パーセントの朝、官邸には緊急対策会議が招集された。
出席者は、総理、官房長官、幹事長、政調会長、選挙対策委員長、広報戦略担当補佐官、そしてなぜか農林水産副大臣だった。
豆原が尋ねた。
「なぜ農水副大臣が?」
官房長官の諏訪が答えた。
「昨日、総理が『最近、政治にも土づくりが必要だな』とおっしゃったので」
「比喩だよ」
農水副大臣は静かにメモ帳を閉じた。
「では失礼します」
「いや、せっかくだからいてください」
広報戦略担当補佐官の矢城が、白いボードの前に立った。三十二歳。民間PR会社出身。眼鏡の奥の目だけが異様に輝いている。
「総理、率直に申し上げます。現状は危機です」
「三パーセントだからね」
「はい。ただし、見方を変えれば伸びしろは九十六・八パーセントあります」
幹事長がうなずいた。
「それだ。若者はポジティブでいい」
黒瀬秘書官は小さく咳払いした。
「ゼロ方向への伸びしろもあります」
会議室が少し静かになった。
矢城は続けた。
「まず、総理の弱点を整理します。決断力がない。発信力がない。印象が薄い。怒られているときの顔が謝罪会見向きすぎる。街頭演説で手を振る角度が市役所のゆるキャラと同じ。以上です」
豆原は真剣に聞いていた。
「改善できるかな」
「できます。総理には、強い物語が必要です」
「強い物語?」
「はい。国民は政策の細部よりも、物語を見ます。この政権は何と戦っているのか。何を守ろうとしているのか。総理は何者なのか。それを再定義するのです」
政調会長が腕を組んだ。
「なるほど。敵を作るわけだな」
豆原は慌てた。
「敵は作りたくない」
「では、敵ではなく課題です」
「課題ならいい」
「しかし課題は殴れません」
「殴らなくていい」
矢城はリモコンを押した。スクリーンに、大きな文字が映る。
新スローガン案:やさしい強さ。
「どうでしょう」
官房長官の諏訪が首をひねった。
「やさしいのか強いのか分からないな」
「そこが良いのです」
「どう良いのかも分からないな」
「そこも良いのです」
幹事長が拍手した。
「分からないものは批判されにくい」
豆原は不安そうに言った。
「でも国民に伝わるかな」
矢城は即答した。
「伝えるのではありません。漂わせるのです」
広報戦略というものは、時に香水に似ていた。中身がなくても、なんとなく良い匂いがすれば近づいてくる人がいる。
ただし、豆原には匂いすら薄かった。
そこで矢城は第二案を出した。
「総理、動画配信をしましょう」
「動画?」
「はい。総理の日常を見せます。飾らない姿。親しみやすさ。等身大のリーダー像」
「私は等身大しかないが」
「そこが武器です」
翌日、官邸公式チャンネルに新企画が始まった。
『豆原総理の朝ごはん』
第一回、納豆ご飯。
再生数は伸びた。
理由は、豆原が納豆のフィルムを剥がすのに失敗し、糸を顔につけたまま外交日程の説明を始めたからだった。
コメント欄は盛り上がった。
「政策は不安だが納豆を食べたくなった」
「この人に国家運営は無理」
「支持はしないけど毎朝見たい」
支持率は三・二から三・九へ上がった。
官邸は沸いた。
幹事長は言った。
「納豆解散だ」
豆原は首を横に振った。
「解散はしません」
次の週、第二回が配信された。
『豆原総理の朝ごはん・焼き魚編』
今度は魚の骨が喉に刺さり、総理が三分間悶えていた。
再生数はさらに伸びた。
支持率は四・六パーセントになった。
野党は困った。
代表質問で、最大野党の霧島代表が詰め寄った。
「総理、国民生活は苦しく、賃金は上がらず、将来不安は増す一方です。その中で総理は、朝ごはんを食べる動画を公開している。これは政治の私物化ではありませんか!」
豆原は立ち上がり、答弁書を見た。
そこにはこう書かれていた。
【ご指摘はまったく当たりません。国民との新たな接点として、適切に運用しているものです】
豆原は少し考え、答えた。
「ご指摘は、少し当たっています」
議場がざわついた。
「私も、朝ごはんを食べて支持率が上がるのは、政治としてどうなのかと思っています。しかし、国民の皆さまが見てくださっている以上、そこに何かしらの期待があるのかもしれません。私は、その期待を政策に戻さなければならないと思います」
一瞬、議場が静かになった。
霧島代表も言葉に詰まった。
追及相手が自分で反省してしまうと、攻撃は急に野暮になる。
その日のニュースでは、豆原の答弁が「正直すぎる総理」として取り上げられた。
支持率は六・一パーセントになった。
官邸はさらに沸いた。
矢城は第三企画を出した。
「次は、総理が国民の質問に答える生配信です」
「危険じゃないか?」
「危険です。だから伸びます」
「政治ってそういうものだったかな」
生配信当日、官邸地下の会見室は妙な緊張に包まれていた。
タイトルは、『豆原総理に聞いてみた』。
質問は事前募集されたが、矢城は「リアル感」を出すため、一部を生コメントから拾うことにした。
これが失敗だった。
開始十五分で、画面にピックアップされたコメントが表示された。
「総理、スーパーでキャベツ一玉いくらか知ってますか?」
官僚たちの表情が凍った。
政治家に物価クイズをしてはいけない。
それは、ほとんど公開処刑である。
豆原は少し考えた。
「先週、近所のスーパーで見たときは、二百九十八円でした。ただ、店によって違いますし、天候や流通でも変わるので、一玉の値段だけで生活実感を語った気になるのは危ないと思います」
コメント欄が止まった。
次に、急に流れ始めた。
「知ってるのかよ」
「思ったより普通」
「近所のスーパー行く総理」
「そこまで言えるなら政策もちゃんとして」
豆原はうなずいた。
「はい。ちゃんとします」
その「はい。ちゃんとします」が切り抜かれ、翌日からネット上で流行した。
失敗した学生が「はい。ちゃんとします」。
締切を破った漫画家が「はい。ちゃんとします」。
飲みすぎた会社員が「はい。ちゃんとします」。
財務省の非公式アカウントまで、予算編成の遅れに対して「はい。ちゃんとします」と投稿し、即座に削除した。
支持率は十二パーセントになった。
世論はまだ低支持だったが、低支持の質が変わった。
以前は「関心がない」だった。
今は「頼りないが見てしまう」になった。
これは政治的には大きな前進だった。
しかし、党内は面白くなかった。
支持率が一桁なら豆原を降ろせる。だが十二パーセントあると、降ろしても得をするか分からない。しかも妙な人気がある。敵にすると損をするかもしれない。
そんな中、党内最大派閥の領袖・堂島元総理は、料亭で幹事長に言った。
「あの男は危険だ」
「豆原がですか?」
「そうだ。無能な善人は扱いやすい。だが、国民に笑われる善人は扱いにくい」
堂島は箸で煮魚を崩した。
「政治家は憎まれることには慣れている。だが、一国の総理が茶の間で笑われていてはな」
堂島は倒閣に動いた。
まず、党内会合で豆原のリーダーシップ不足を批判した。
次に、新聞各社へ「総理交代論が浮上」と流した。
さらに、若手議員に「このままでは選挙を戦えない」と言わせた。
ところが、豆原はその報道を見て、翌朝の配信で言ってしまった。
「党内で私に厳しい声があるのは事実です。たしかに私は頼りないところがあります。ただ、選挙を戦えないという若手議員の皆さんには、私の問題だけではなく、ご自身の地元活動も見直していただきたいと思います」
官邸スタッフ全員が硬直した。
黒瀬秘書官が小声で言った。
「今、総理が初めて人を刺しました」
矢城は震えながら言った。
「しかも素手で」
発言は大炎上した。
若手議員は怒った。
堂島派は激怒した。
野党は「内紛だ」と喜んだ。
国民は笑った。
支持率は十八パーセントになった。
豆原は困惑した。
「なぜ上がるんだ」
黒瀬が答えた。
「総理、国民は初めて、あなたが政治家に見えたのだと思います」
「私はずっと政治家だったんだけど」
「それは制度上の話です」
その夜、堂島元総理が官邸を訪れた。
二人きりの会談だった。
堂島は重々しく言った。
「豆原君。政治とは、善意だけで回るものではない」
「はい」
「君は正直だ。だが正直さは、時に国を危うくする」
「分かります」
「分かっているなら身を引きたまえ」
豆原は黙った。
堂島は続けた。
「君が降りれば、党はまとまる。私は後継に適任者を用意している。君には名誉ある退陣の道を作る」
「名誉ある退陣とは?」
「病気だ」
「私は健康です」
「では疲労だ」
「疲れてはいます」
「それで十分だ」
豆原は少し笑った。
「堂島先生。私はずっと、自分が総理に向いていないと思っていました」
「事実だ」
「はい。たぶん事実です」
堂島はうなずいた。
「ならば」
「でも、向いている人たちがやってきた政治が、今の政治なんですよね」
堂島の目が細くなった。
豆原は静かに続けた。
「私は、政治がうまくありません。駆け引きも下手です。失言もします。支持率も低い。でも、国民の前で、分からないことを分からないと言うことはできます。間違えたら謝ることもできます。朝ごはんを食べながら、物価の話をすることもできます」
「それが政治かね」
「違うかもしれません。でも、そこからもう一度始めるしかないのかもしれません」
堂島は笑った。
「理想論だ」
「はい」
「政治は理想論では動かない」
「でも、理想論がない政治は、何のために動いているんですか」
部屋の空気が変わった。
堂島は立ち上がった。
「君は長くない」
「はい。たぶん」
「後悔するぞ」
「もうしています」
「何を」
「最初から、こう話せばよかったと」
堂島は何も言わずに出ていった。
翌日、党内では総裁選前倒しの署名活動が始まった。
官邸は騒然となった。
だが豆原は、予定通り朝の配信を始めた。
その日の朝ごはんは、卵かけご飯だった。
豆原は茶碗を持ち、カメラを見た。
「おはようございます。今日は、党内で私を辞めさせようという動きがあります」
スタッフが全員青ざめた。
コメント欄が爆発した。
豆原は続けた。
「私は、それを悪いことだとは思いません。政治家が総理を代えたいと思うのは自由です。ただ、私は今日、ひとつだけお願いがあります」
彼は卵を割った。
殻が少し入った。
コメント欄に「殻」「殻入った」「国家危機」と流れた。
豆原は箸で殻を取った。
「総理を誰にするかだけでなく、何をする政治にするのかを議論してください。私が辞めるかどうかより、皆さんの暮らしをどうするかのほうが大事です」
彼は醤油をかけた。
「私は今日、物価高対策の追加案を出します。完璧ではありません。財源も厳しい。反対もあると思います。でも、ちゃんと説明します」
そして、豆原は頭を下げた。
「はい。ちゃんとします」
その瞬間、コメント欄が異様な速度で流れた。
茶化しもあった。
怒りもあった。
応援もあった。
「辞めろ」も、「続けろ」も、「卵混ぜろ」もあった。
だが、誰も無関心ではなかった。
その日の昼、豆原は記者会見を開いた。
追加対策は地味だった。
低所得世帯への即時給付、学校給食費の臨時補助、中小企業の電気代支援、ガソリン補助の段階的縮小と公共交通支援への振替。
派手な目玉はなかった。
だが、豆原は一つずつ、なぜそれをやるのか、どこに限界があるのか、何がまだ足りないのかを説明した。
記者が尋ねた。
「総理、これは選挙目当てのバラマキではありませんか」
豆原は答えた。
「そう見える部分はあると思います。だからこそ、期限と効果検証を付けます。効果がなければやめます。必要なら変えます。政策は面子ではなく、道具ですから」
黒瀬秘書官は会見場の隅で、少しだけ目を見開いた。
矢城は小声で言った。
「今の、良くないですか」
黒瀬は答えた。
「良いです。とても困ります」
「なぜ?」
「本物っぽい」
支持率は二十七パーセントになった。
まだ高くはない。
だが政権末期の数字ではなくなった。
総裁選前倒しの署名は、必要数に届かなかった。若手議員たちは急に「総理の説明責任を見守る」と言い始めた。堂島派は沈黙した。
野党は攻め方を変えた。
霧島代表は本会議で言った。
「総理、あなたは少し正直に話せば国民が許してくれると思っている。それは甘えではありませんか」
豆原は立った。
「甘えだと思います」
議場がざわめいた。
「私は、国民の皆さまの寛容に甘えている部分があります。ですが、政治家が国民を怖がり、隠し、飾り、間違いを認めずに済ませるよりは、甘えてでも開いていきたいと思います」
霧島代表は眉をひそめた。
「それで国が良くなるのですか」
豆原は少し黙った。
そして言った。
「分かりません」
今度は与党席までざわついた。
「でも、分からないことを分かったふりで進めるよりは、少しだけ良くなる可能性があります」
霧島代表は、そこで初めて笑った。
「総理、あなたは政治家としては困った人だ」
「よく言われます」
「ただ、討論相手としては嫌いではありません」
翌日の新聞各紙は、一斉に見出しを打った。
「分からない総理」
批判的な見出しのはずだった。
だが、それは奇妙に浸透した。
分からない総理。
ちゃんとします総理。
朝ごはん総理。
支持率三パーセントまで落ちた政権は、いつの間にか「頼りないが逃げない政権」と呼ばれるようになった。
もちろん、すべてがうまくいったわけではない。
給付金の振込は一部自治体で遅れた。
ガソリン補助の見直しでは地方から強い反発が出た。
学校給食費補助は歓迎されたが、恒久化を求める声が上がり、財務省が毎朝のように渋い顔をした。
そして豆原は相変わらず、外交会談で相手国首脳の名前を間違えた。
そのたびに支持率は下がり、また少し戻った。
政治は喜劇では終わらない。
だが、喜劇なしに続けられるほど、人間は強くない。
一年後、豆原政権はまだ続いていた。
支持率は三十四パーセント。
高支持率とは言えない。
ある朝、黒瀬秘書官が新しい世論調査を持ってきた。
「総理、支持率が少し下がりました」
「いくつになった?」
「三十二パーセントです」
豆原は真剣にうなずいた。
「三パーセントだったころを思えば、まだ十倍あるな」
「その前向きさだけは一貫しています」
「黒瀬君、もしかして褒めてる?」
「ええ、まあ」
その日の朝ごはん配信は、トーストだった。
豆原はバターを塗りながら言った。
「政治は、毎朝うまく焼けるとは限りません。焦げる日もあります。落とす日もあります。そもそもパン派でない方もいます」
コメント欄が流れた。
「急に何の話」
「比喩が下手」
「米を食え」
豆原は少し笑った。
「でも、食卓に出す前に焦げたところを隠すより、焦げましたと言って、次は火加減を変えるほうがいい。私は、そういう政治をしたいと思います」
矢城は配信卓の後ろで頭を抱えた。
「総理、比喩が長いです」
黒瀬は静かに言った。
「ですが、豆原節として定着しつつあります」
農水副大臣は、なぜかまた呼ばれていた。
「米の話もしてください」
豆原はカメラの前でうなずいた。
「明日はご飯にします」
その一言が切り抜かれ、また少しだけ話題になった。
翌日の朝刊には、小さなコラムが載った。
政治は、結局のところ、誰が朝食を食べるかではなく、誰が明日の食卓を考えているかで決まる。豆原総理は名宰相ではない。おそらく歴史に残る英雄でもない。ただ、失敗を隠さず、国民の前で殻を拾う総理である。その姿を笑えるうちは、この国の民主主義も、まだ完全には壊れていないのかもしれない。
豆原はそれを読んで、少し照れた。
「殻を拾う総理か」
黒瀬が言った。
「実績としては弱いです」
「そうだね」
「しかし、象徴としては悪くありません」
豆原は窓の外を見た。
官邸前には、今日も記者が集まり、反対デモがあり、通行人がスマホを向けていた。
政治は相変わらず騒がしかった。
怒り、不満、利害、理想、嫉妬、計算。
その全部が混ざり合って、国という巨大で不格好な朝食が毎日作られている。
豆原兼一郎は、自分が名料理人でないことを知っていた。
だが、少なくとも焦げた鍋を隠して新品のふりをすることだけは、もうやめようと思っていた。
その日の閣議で、彼は言った。
「皆さん、今日もちゃんとしましょう」
大臣たちは微妙な顔をした。
流行語を総理本人が使うと、急に寒い。
けれど誰も笑わなかった。
笑うには、少しだけ本気が混じっていたからだ。
会議の最後、少子化担当大臣が手を挙げた。
「総理、私、子どもが苦手だと言ってしまいましたが」
「はい」
「最近、保育園を回って、少し考えが変わりました。苦手だからこそ、親御さんや現場の方がどれほど大変か、前より分かるようになりました」
豆原はうなずいた。
「では、それを政策にしてください」
「はい。ちゃんとします」
閣僚たちは、今度こそ少し笑った。
官房長官も笑った。
黒瀬秘書官だけは笑わなかったが、議事録の端に小さくこう書いた。
【内閣、ようやく始動】
その字は、誰にも見せるためのものではなかった。
政治は、だいたい喜劇である。
なぜなら、誰もが真面目な顔で、自分だけは舞台の外にいると思っているからだ。
けれど実際には、総理も、大臣も、野党も、官僚も、記者も、国民も、全員が同じ舞台に立っている。
誰かが台詞を間違え、誰かが段取りを飛ばし、誰かが小道具の卵を落とす。
それでも幕は下りない。
翌朝も国は動く。
そして、豆原総理はカメラの前で少し眠そうな顔で言った。
「おはようございます。今日は、味噌汁から始めます」
コメント欄がすぐに埋まっていく。
「支持するか迷ってる」
「でも見てる」
「豆腐でかい」
「ちゃんとしろ」
豆原は画面を見て、少しだけ笑った。
「はい」
それから、いつものように続けた。
「ちゃんとします」
創作活動の一環として、手続き型およびAIツールを活用しています。完成した作品はすべて、私自身の創造性と表現を反映したものです。
I use procedural and AI-based tools as part of my creative process. All final work reflects my own creativity and expression.




