第15話 ギルド受付女子高生⑥
ロビーの氷柱がようやく溶け、掲示板含め目立つ破損箇所は修理され、ようやく冒険者ギルドに平穏が戻った。あれから十二日。根回しが効いているのか、赤髪は姿を表さない。
ギルド長は宣言通り、黒依頼の消化を急ピッチで進めさせた。薬草や媚薬、魔法の触媒になる特別採取禁止指定の草花鉱石霊水の収集。ギルド長とこの街最大手の商会の息のかかった業者により、ほぼ毎夜禁猟指定された動物や魔物の死体が街に運び込まれてきていた。お陰で報告を受け書類を整理するこっちも、睡眠が不規則になっている。
裏と表を兼任していた冒険者たちを総動員で黒依頼に回したため、一時的に正規のクエストの消化率が落ちるかと思ったが、そうはならなかった。
「はい、これでクエストの報告完了です。すごいですね。この短期間に三件も、それも全部討伐系のクエストで」
黒髪の青年、サトル率いるブシドーの躍進は著しい。農園を度々襲撃していた魔物、ライオンの胴体に人の顔を持つマンティコアを討伐した功績で今度領主のパーティーに呼ばれるらしい。
「毒消しを必ず持っていくようにと言ってくれたおかげで助かったよ」
マンティコアの尾には毒針が隠されている。資料をまともに読み込まないであろう冒険者たちに、要点をまとめて口頭で注意するのも受付の重要な仕事だ。
「良かったです、お役に立てて」
私がそう言ったあとも、彼はカウンターの前から去ろうとしない。女騎士と猫族の娘が早く行こうよという顔をしているが目に入っていないようだ。
「あの、サトルさん?」
「サチさんって、ひょっとして日本から来た? ほら、ここら辺じゃ黒髪は珍しいし、サチって名前も──」
「知っているんですか? 日本に帰る方法を!」
ずっと聞きたかったことだ。彼の言葉の終わりまで待っていられなかった。
サトルは私の食いつき様にびっくりした顔をしたけど、すぐに悲しそうに首を振った。
「いいや、知らない。僕がこっちに召喚されたときには、一方通行で帰る方法はないって言われた」
言葉は違うが、私とユキも神様を名乗る白髪のお爺さんに似たようなことを言われた。
「そ、そうですか。……それで、サトル様は日本に、現代に帰る方法を探しているんですか?」
「え、探してないよ? 僕は冒険者としてこっちの世界で困ってる人を助けるために召喚されたんだ。そう思ってる。かけがえのない仲間にも出会えたし、僕はこっちに来て初めて本当の自分ってやつを見つけられたんだ」
……どうやら、彼はこっちの世界で自分の居場所を見つけられたらしい。かっちょいい刀持ってたし、赤髪とやりあえるくらい剣術も強い。爪も牙もなく今すぐ自分の家に帰りたい私たちとは違う。可愛い女の子たちを引き連れて周囲から尊敬されている彼が、元の世界に帰りたがる理由もないのかもしれない。
私があからさまにがっかりした顔をしていると、サトルがおずおずと切り出した。
「サチさん、もし良かったら明日のパーティー、サチさんも一緒に参加しない?」
「はい?」
「服……ドレスは貸してくれるみたいだし。あ、でもギルドの制服すごく似合ってるからそのままでもいいかも。それにほら、美味しいものいっぱい出るって言ってたよ」
彼は前のめりになり黒い目でこちらをじっと見てくる。私はのけぞって顔をそらした。
「あーいや、えーっと、お誘いは嬉しいんだけど、ほら、急な話だったからね。明日はギルド的に外せない仕事があるっていうか」
あ、敬語。まいっか。
私がどの面下げて『英雄おもてなしパーティー』に参加すんのさ。しかもギルドの制服で? あんたの趣味に合うかもしれないけど、お貴族様のパーティーじゃ間違いなく浮くし、ヒソヒソ陰口叩かれながらじゃご飯もおいしく食べられないって。
「そ、そっか。まあ急な話だったからね。それじゃ次の休日にさ──」
「サトル」
カウンターに居座るサトルの背後にエルフの魔法使いが立った。サトルの腕に自身の腕を絡める。
「早く行こう。今日はドレスと小物選んでくれる約束」
「あ、ああ。そういえばそうだったね。それじゃあサチさん、また今度。美味しいレストランを見つけたんで是非一緒にご飯食べようね。奢ってあげるから」
彼は引きずられるようにしてギルドを出ていった。
「ちっ」
扉が閉まってから冒険者の誰かが舌打ちした音が聞こえた。
マーカスさんの死のニュースはそれから三日後にギルドにもたらされた。
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