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第11話 ギルド受付女子高生②

 カウンター越しにも男の酒くさい息が臭う。 


「よう、おめえらが新しい受付かぁ? おお、若くてべっぴんじゃねえか。そんなところでつまんねえ仕事するよりもよお、飲みに行って俺に酌しろよ。俺の武勇伝いくらでも聞かせてやるぜ」


「ぁあ?」


 私が言いかけると、ミリさんが制した。


「ジョルトさん、お酒を飲んでギルドに来ないでくださいと前にお伝えしましたよね」


「うるせーな。俺にとっちゃ酒なんて水と同じだ。水を飲んで何が悪い。俺はな、銀等級になれる力があったんだよ。おめえらが審査で落とさなけりゃ。だいたいよぉ俺が」


「おい」


 別の冒険者が後ろから声をかけた。灰色のローブを着て身体より長い棒を持っている。魔法使いだろうか。男は酔っ払いを青い瞳で見ると低い声で話す。


「邪魔だ。くだを巻くなら他所でやれ。俺は受付に用がある」


「なんだてめえ。偉そうに話しやがってよ」


「俺はB級だ。古臭い言い方なら銀等級。お前の基準に沿うなら、俺のほうが偉いということになる」


「知るかよ!」


 ジョルトが男に殴りかかった。


 ゴッ!


 大きな音がした。ジョルトの足に男が長棒(クオータースタッフというのだと後で教えてもらった)を引っ掛けたために、すっ転んだのだ。


 倒れた相手に関心を払う素振りを見せずに男がカウンターの前に来た。そのままの姿勢で男が言う。


「おい、面倒くさい。動くな」


 ジョルトが立ち上がってやる気満々の顔で男を見ている。


「お前、見覚えがあるぞ。確か兄弟でパーティー組んでたな。今は一人か? 弟はどうした、おっ死んだか?」


 男はすごい顔をしたあとジョルトの方を向いた。ジョルトも双剣に手をかけている。


「いい加減にしなさい!」


 ギルドの二階へ続く階段から大声が聞こえた。背の高い細身の男が降りてきた。サラサラの金髪が肩まで伸びており、耳は細く尖っている。エルフだ。


「ギルド長……」


 ミリさんが言った。ギルド長はジョルトを睨んだ。


「先程ミリくんが言った通り、酔ったままここにこないようにとあなたには通達を出しています。今日は帰ってよく頭を冷やしなさい」


 ジョルトは双剣から手を離しながらぶつくさと捨てゼリフを吐いたあとに、ギルドを出ていった。


 ユキが手に持っていた大きな文鎮をそっとカウンターに戻したのが見える。まさか投げるつもりだったのだろうか。ジョルトの後ろ姿を見ながらミリさんがぼそっと言う。


「あの人も、昔はあんなじゃなかったのに。いつの間にか酒浸りになっちゃって」


 ギルド長が続ける。


「それと、マーカスさん。ギルド内の魔法の使用は厳禁です。以前お伝えしましたとおりにね」


 魔法? 言われてみると、床にいくつか小さな緑の石が転がっている。あれは魔法の触媒か。灰色のローブの男、マーカスはかがんで石を拾いながら言う。


「使う選択肢を作っただけで実際に使ったわけではない。それとも、ここのギルドでは何もしていないものも謹慎処分にするのか?」


「そ、そうですよ」


 私が言う。考えるよりも先に口が動いちゃうのさ。


「マーカスさんはむしろ私たちを助けてくれた側です。それなのに罰されるのは納得がいきません」


 ギルド長は大きなため息を付いた。


「執務室で話を聞かせてもらおう、と言おうとしたのです。ちょうどいい、サチ君とユキ君も来てください」


 大きな本棚、黒い重厚なソファ、そしてアンティーク調の大きな執務机。ギルド長の執務室は高級感に溢れた作りをしていた。


 勧められるままにマーカスさんがソファに腰掛ける。一緒に座るのも変な気がして、私とユキは後ろに立っていた。


「ああ、そんなに身構えなくてもいいです。ここに呼ぶ口実が欲しかっただけで、処分などはありません」


 エルフのギルド長は自身の机にかけながら言った。窓からの光が彼の背にかかり、顔が陰になっている。


「マーカスさん、クエストを受けていただけませんか? ミラージュ(フラワー)の採取です。おおよその分布もお伝えします」


 背後から見ても、マーカスさんが緊張したのが分かる。それはそうだろう。だって……


「ミラージュ花は、特別採取禁止植物(ブラックリスト)に指定されていたはずだが?」


「ええそうです。ですが……お金が必要なのではないですか?」


 声色を変えずにギルド長が続ける。彼は紙を綴った冊子をめくる。


「二ヶ月前のコカトリスの討伐で弟さんが右足を切断。クエストも失敗し、辛くも敗走。足を直すには、高額な回復の水薬(ポーション)が必要。まだ、買えていないのでしょう?」


「それ、は……」


「もちろんお金がかかるのはそれだけじゃない。あなたには妻も子どももいらっしゃる。ご家族と弟さんの生活費を稼がないといけないのに、お一人で普通のクエストをこなすだけでは厳しいのでは?」


「…………分かった。やるよ」


「色良いお返事が聞けて嬉しいです。なに、ずっと従事しろと言っているわけではありません。お金が必要な今だけですよ。禁止されているクエスト、私たちは黒依頼と呼んでいますが、それを受ける際は適当な依頼書を取って右下を折って、サチ君かユキ君に渡してください」


 マーカスさんは報酬などいくつかを確認した後部屋を出た。


「さて」


 ギルド長が私たちを見た。


「派遣のお二人にも、そろそろ本当の仕事の内容をお伝えしましょう」


 黒依頼。例えば乱獲が禁止されている魔物や動物の密猟。採取が禁じられている希少な鉱石や植物の入手など。禁止されているということは需要があるということ。そう思った誰かがこの仕組を始めた。


 地域の貴族や有力な商会が冒険者ギルドを仲介に依頼を出す場合が多いという。


 私たちの仕事はシンプルだ。まずはうちのギルドに登録している冒険者のうち、黒依頼を受けるもの二十人ほどの名前と顔を完全に一致させる。彼らが依頼書の片隅を折って出したら黒クエストの用紙と取り替えて渡す。採取禁止の動植物などの納品は別の場所で行われ、受領書を受け取った冒険者が窓口にそれを持ってくるので、報酬を出す。流れ自体は通常の冒険者ギルド受付とそう変わらない。ただちょっと非合法なだけで。


 翌日、マーカスさんが窓口に来た。


「はい、受け付けました。ではよろしくお願いします」


 彼が差し出すクエストの用紙をカウンターの下に滑り込ませ、代わりにミラージュ花の受注書を渡す。受注書には過去に花が見つかった場所、採取の際の注意点、周囲で危険になりそうな魔物の種類、花の保存方法などが細かく書かれている。昨日の夜、ユキに手伝ってもらいながら私が書いた。注意事項の最後には、お決まりの文章。『この用紙は内容を暗記したら燃やすなどして完全に破棄すること。収集を見咎められた場合、ギルドの名前は出さないこと』と書かれている。


 まるでスパイものの映画みたい。もっともこの取り決めが守られなかった場合、受付職員・ギルド長・依頼人まで全員が当局に連行されることになるため、映画を見ているときのように楽しい気分には全くならない。


 余談だが通常のクエストでも冒険者にわたす用とギルドに保存する用で、クエストの依頼書は二部作られる。同じ内容をペンで二枚作るのは結構大変だ。コンビニで気軽にコピーできる元の世界が恋しい。


 ジョルトも来た。彼は他の冒険者仲間と密猟系の黒依頼を中心に受けている。


 通常の仕事と黒依頼の受付とで慌ただしく日々が過ぎていった。


 黒依頼を受ける人間はまちまちだ。


 マーカスさんのように普通のクエストと並行して依頼をこなすもの。彼らは複数パーティーの合同クエストなどにも加わることがあり、平均的な冒険者に近い。それでも、法を犯している意識からなのか、マーカスさんは会ったときと比べても陰気で考え込む様子を見せることが増えた。


 そしてジョルトのように通常のクエストはほとんどこなさず、割のいい黒依頼ばかり受ける者。そういった人たちは他の冒険者とは少し違う空気をまとっている。裏社会と暴力のにおいだ。彼らは決まってお昼どきのギルドが最も空いている時間に現れ、クエストを受けていく。


 マーカスさんはジョルトと組むことにしたようだ。時々二人がロビーのテーブルで小声で話し合っているのを見かける。そしてそう言うときは、マーカスさんからもジョルトと同じにおいを感じた。




 仕事に慣れてきたある日の午後にその男は現れた。


 編み込んだ赤い髪。帝都騎士団の紺と金の正装……をかなりのアレンジ、というか着崩して身にまとっている。腰には金縁の鞘に入れられたサーベル。


 男が笑うように、そして吠えるように歯をむき出しにしながら言う。


「ギルド長は留守だよなあ?」



最後までお読みいただきありがとうございます。

創作の励みになりますので、「面白い」「続きが気になる」「二人に無事でいて欲しい」

と思っていただけましたら、ぜひ星評価とブックマークをお願いします。


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