断罪イベント365ー第60回 すみれ会から追放令嬢ギルド設立へ
王都の片隅にあった追放令嬢たちのためのすみれ会。
今日はそのすみれ会が追放令嬢ギルトに成長するお話しです。
― 泣いてた昨日を、発酵させよう ―
王都の片隅、風にすみれの香りがただよう白壁の建物。
そこが――“すみれ会”だった。
婚約破棄、断罪、追放。
すべてを失った令嬢たちが、最後にたどり着く場所。
だが今、その小さな集まりに、異変が起きていた。
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「エリザさん! 門の前、また行列です!」
「えっ、もう朝の五時なのに!?」
受付嬢が悲鳴を上げる。
門の外には、朝霧の中、ずらりと並ぶ令嬢たちの影。
「順番にお並びください!」の札が揺れている。
エリザは、机の上に積まれた相談書類を見てため息をついた。
「……三日寝てないわ。次の紅茶、もう効かない気がする。」
それもそのはず。
最近では、“断罪されたらすみれ会へ”が王都の常識になっていた。
もはや一介の更生グループではない。――これはもう、社会現象だ。
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「限界ね。」
窓辺の光に向かって、エリザはぽつりと言った。
そんな彼女の背に、静かに声が降る。
「お手紙、出しましょう。王妃様へ。」
手紙係のリーナが、震える手で便箋を差し出した。
便箋の角には、前夜の涙がまだ乾いていない。
エリザは深呼吸して、ペンを取る。
“親愛なるリュシエル王妃陛下――
この国の片隅で、再び笑おうとしている娘たちがいます。
どうか、もう少し大きな屋根をください。”
封を閉じると、すみれの花びらを一枚添えた。
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数日後。
王妃からの返書は驚くほど早かった。
紫のリボンで結ばれた書状には、金の印章が輝いている。
『よくぞ立ち上がりましたね、エリザ。
泣いていた日々の涙が、誰かの花になることを願っています。
この手で、あなたたちの“居場所”を認めましょう。』
手紙を読み終えた瞬間、エリザは泣き笑いの声をあげた。
「みんな――! すみれ会、正式に“ギルド”になります!」
広間がざわめき、歓声が上がる。
パンをこねていた令嬢が手を止め、針仕事をしていた令嬢が針を落とした。
涙と笑いが入り混じる騒がしさ。
それでも、どこかあたたかい。
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数週間後
王都の通りの一角に、真新しい看板が掲げられた。
《追放令嬢ギルド すみれ会》
看板の下には、王妃の祝辞が添えられている。
「泣いていたあの日の涙が、明日の誰かを癒す花になりますように。」
エリザはその文を読み上げ、そっと微笑んだ。
風にすみれの香りがふわりと漂う。
「――これからよ、私たちの再生は。」
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その日から、“すみれ会”は正式なギルドとして動き始めた。
お仕事マッチング、村への旅立ち相談、バディ登録……。
笑顔の令嬢たちが次々と新しい人生へと歩き出していく。
泣いていた昨日は、明日の光に溶けていくに違いない。
断罪イベントをお題にどこまで短編が書けるか実験中。
読んで頂き、ありがとうございますm(_ _)m




