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夢見る少女

 結局カフェでまともな情報を得ることもできず、アリーシャは紅茶を堪能するだけで帰ることになった。

 ラルフのためにいい情報を得たかったが致し方ない。

 世間がここまでBLUE BLOODの話題で持ちきりだとは思わなかった。

 見た目も名前もなに一つ知らないが、ここまで注目の的になっている存在に哀れみを感じてしまう。

 自分も彼とは違って嫌な意味でだが話題の的になったのでわかる。

 あまりいい気はしないはずだ。

 特に目立つのを嫌う人ならば。

 かわいそうに……なんて思いながら街の中を歩いていると、不意に声をかけられた。


「あら? 噂の婚約破棄令嬢じゃなくって?」


「――…………バーバラ」


 そこには元友人であり、アリーシャが婚約破棄をする原因になった女性、バーバラがいた。

 彼女はアリーシャの元までやってくると、くすくすと笑う。


「話題の人がこんなところにいるなんて思わなかったわぁ」


「……あなたこそ。よく表に出てこれたわね」


 バーバラはまだ結婚していない。

 だというのに友人の婚約者を奪ったのだ。

 そのことは社交界にも筒抜けになっている。

 婚約者でもない異性と二人っきりになるなんて、普通の令嬢なら危惧するのに、結婚前日にあんなことをするなんて……。


「自分がどう見られているか、知らないわけじゃないでしょう?」


「婚約者がいても思わず手を出してしまう魅力的な女性だと、少なくとも殿方からは思われているようね。あれから送られてくる恋文が増えたのよ」


 なにを馬鹿なことをと、アリーシャは額を押さえた。

 恋文は増えようとも、結婚の申し出はないはずだ。

 それはつまり、遊ぶにはちょうどいい女だと下に見られているだけ。

 だというのに、バーバラは自慢の黒くウェーブががった長い髪をかきあげた。


「まあ? 私に似合う相手を探さないといけないから、忙しいんだけれどねぇ?」


「――は? あの馬鹿と結婚するんじゃ……?」


「まさか。あんな男と本気なわけないじゃない! あなたが本物の愛だなんだと言っていたから、試してあげただけよ」


 子どものころから一緒だった婚約者と結ばれるのは運命なのだと思っていた。

 それくらい彼のことを想っていたのだが、今思い返せば確かに夢見がちな少女だった。

 なるほどそれを教えてくれたのだから、彼女にはある意味礼を言ってもいいのかもしれない。


「――そうね、礼を言うわ。おかげで目が覚めたもの」


「本当に感謝してちょうだい。私のおかげであんなのと結婚して、夢見がちな人生を送らずにすんだんだから」


 おほほっと声高らかに笑うバーバラは目立つ。

 周りに人が集まってきているのに気づき、アリーシャは改めて帽子を目深に被った。


「はいはいどうも。――けどね、恨みがなくなったわけじゃないから、できればもう関わらないでほしいのよね。……あなたのその綺麗な顔面にパンチ食らわしそうになるから」


 婚約破棄令嬢と周りから笑われる原因を作ったのは間違いなくバーバラだ。

 とはいえこの間まで友だったよしみもあり、手まではあげたくない。

 婚約者は大切なところを蹴り上げ制裁したが、彼女もまた淫乱な女としての烙印は押されたのだ。

 それだけでもじゅうぶんだろう。

 だが当の本人はそんなこと思っていないのか、なぜか自信満々だ。


「私だってあんたみたいな負け犬に構ってる暇ないのよ。――私はさらに上を目指すんだから……!」


「……上?」


 なにを言ってるんだと眉間に皺を寄せれば、バーバラは馬鹿にしたように鼻を鳴らした。


「引きこもってるあなたには関係ないけれどね。……今この国で一番話題になってる男がいるのよ」


「――それって、BLUE BLOOD?」


「あらやだ。どこから噂を聞きつけたの?」


 当たりだったらしく、バーバラは怪訝そうな顔を一瞬見せた。


「カフェに行ったらその話で持ちきりだったのよ。あれじゃあ聞こえないふりをするほうが変よ」


「やだやだ。どこもかしこも身の程知らずの女ばっかり。BLUE BLOODがそこらの安い女に構うわけないのに」


「……まるで本人を知っているかのようなものいいね?」


 引きこもりのはずだから、会ったことはないはずだ。

 だというのにまるで知っているかのような口調に疑問を投げかければ、バーバラは胸を張った。


「そのうち知るわ。彼とは運命で繋がってるんだもの」


「………………ん?」


 つい先ほどまでアリーシャの夢見がちなところを攻めてなかっただろうか?

 聞き間違えでなければ、彼女の口からも似たような言葉が出されたような気がする。


「ちょっと待って。……それってどういう意味?」


「あんたに話す必要もないけれど……BLUE BLOODとは運命の赤い糸で結ばれてるの。――彼はきっと、私が見つけ出すのを待っているのよ!」


「あー……うん、そう。…………がんばって」


 これ以上は聞く必要もないだろう。

 BLUE BLOODの名前が出たからか、周りからの視線を集まってきた。

 アリーシャはさっさとその場から離れようとするが、それに気づいたバーバラが声を大きくして叫ぶように言った。


「私とBLUE BLOODの結婚式には呼んであげるわ! そこで新しい婚約者でも探したら?」


 余計なお世話だと言いたかったが、今はとにかくこの場を後にするのが優先だ。


「――全く。どこもかしこもBLUE BLOODばっかり! 迷惑な話よ……!」


 顔も知らない相手に恨み言を呟いてしまうくらいには、彼は一躍時の人となっていた……。

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