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BLUE BLOOD

 さあ、次は市場視察だと、アリーシャは侍女のナナリーとともに令嬢たちに人気の店へとやってきた。

 もちろん変装してだ。

 アリーシャは今、悲しいかな悪い意味で最も話題の人といってもいいいだろう。

 結婚前日に友人と婚約者の浮気を目撃してしまい、そのまま破局。

 人生最高の日を前にして、人生最悪の日を迎えた女。

 そんなうわさが囁かれているのだから、引きこもりたくもなるだろう。

 だが今はもういい。

 悲劇に泣くのはもう終わった。

 ラルフが助け出してくれたあの時から。

 というわけでそんな天使であるラルフのためにも、アリーシャはメガネに大きめな帽子を被り、こそこそと席についた。


「怪しまれないようにケーキと紅茶を頼みましょう」


「かしこまりました」


 それにしても可愛らしいカフェだ。

 真っ白な室内には真っ白な花がたくさん飾られており、各テーブルに一輪だけ色のある花が飾られている。

 アリーシャたちのテーブルには、青い花が一輪飾られていた。


「この席が一番人気らしいですよ」


「え!? なんで?」


 目立つのは避けたい。

 この席が人気ということは、それだけ注目されてしまうといことだ。

 慌てて帽子を目深に被り、あたりを見回した。


「青い花のせいですよ」


「……この花がなんなの?」


「BLUE BLOODですよ」


「ぶるーぶらっど……? それって……あの?」


 噂は聞いたことがある。

 確か国一番の魔術師と噂の人だ。


 ――魔術師とは国の宝である。


 これはこの国に住む人なら子どものころから植え付けられている考えかただ。

 我々がこうして日々平和に、そして便利に生きていられるのは、魔術師たちのおかげなのだと。

 国全体に通る電気も、魔力で動く鉄の塊にしか見えない車というものも、さらには天候だって彼らの力によって変わっていくのだ。

 彼らが明日は雨にすると決めたら雨になり、水不足が解消される。

 そんな宝である魔術師たちをまとめ上げるのが、歴代最高の魔術師である男。


 ――通称、BLUE BLOODである。


 本名は知らない。

 彼は人前に出ることを極端に嫌い、魔術師たちの住む魔法塔に引きこもっていると噂だ。

 そんな人がこの店となにが関係あるのか、アリーシャは首を傾げた。


「それがなんなの?」


「ご存知ないんですか? 今彼が行方不明になっていて、手掛かりを探すために肖像画がばら撒かれているんですよ!」


「肖像画?」


「その肖像画に描かれた男性の美しいこと……! それ以来女性たちはみなBLUE BLOODの虜というわけです」


「…………それとこの席との関係は?」


 BLUE BLOODが女子に人気なのはわかった。

 彼の肖像画が出回っていることも。

 しかしそれと、このテーブルが淑女たちに目をつけられている意味がわからない。


「実はですね! BLUE BLOODは青い目をしているとかで、今この国では青が大人気なんです!」


「……まさかそんな理由でこのテーブルが人気とか言わないわよね?」


「その通りです!」


 まったく女子の思考回路はよくわからない。

 BLUE BLOODが青い目だからって、なぜそうなるのか。

 やたら女性たちが青を身につけているのもそのせいかと、アリーシャはため息をついた。


「だいたいBLUE BLOODって冷徹なんでしょう? 愛だの恋だの興味ないわよ」


 冷酷な男、BLUE BLOOD。

 冷徹すぎて血が流れていない、もしくは凍った青い血が流れていると噂されている男だ。

 そんな男がこんなふうに話題の的になっていると知ったら……。

 しばらくは嵐になりそうだなと、雲ひとつない空を窓から眺めた。


「ですが本当に美しい男性らしいんです! お嬢様もきっと気に入りますよ! 私も見たかったので今から肖像画を探して……」


「興味ないからいいわ。そんなことよりラルフの相手よ! ここにくるのはラルフの相手候補よりも年齢は高いけれど、だからこそ耳寄りの情報をえられるわ」


 女性とはうわさ話が好きな生き物だ。

 それらが群れをなしたらどうなるか、答えは簡単だろう。

 アリーシャはテーブルに届けられた紅茶を片手に、耳を澄まして右隣のテーブルに座る令嬢たちの話を聞く。


「聞きました? 魔法塔のものたちがこぞってBLUE BLOODを探しているとか……」


「あら、情報が古いわよ。どうやらBLUE BLOODを見つけたらしいわ。ただとある事情で魔法塔には帰れないらしいのよ」


「とある事情って?」


「それは……」


 これは関係ない。

 今度は左隣の会話に集中する。


「BLUE BLOODって素敵……。肖像画を見たけれどあんなに美しい男性、他にいないわ」


「婚約者がいるくせになに言ってるのよ」


「BLUE BLOODと結婚できるなら破棄したって構わないわ」


「あなたまで婚約破棄令嬢になるつもり?」


 最悪な話を聞いてしまった。

 アリーシャは大きくため息をつくと、クッキーを手にとる。


「どこもかしこもBLUE BLOODの話で持ちきりね。これじゃあ情報収集しても彼の話しか手に入らないわ」


 また日を改めようとクッキーを口に含み、その美味しさに目を輝かせた。


「美味しい! これラルフへのお土産にしましょう!」

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