家族団らん
初デートはとても円満に終わったと思う。
アリーシャを伯爵家に送ったブランを見送り、化粧や髪の毛を元に戻していた時だ。
両親とラルフが帰ってきた。
「おかえりなさい」
「ただいまー! アリーシャにもお土産たくさん買ったわよー!」
楽しそうな母は珍しく少しだけ酔っているようで、ふにゃふにゃしつつ近づいてくるとアリーシャを抱きしめた。
「私の可愛い娘! 初デートはどうだった? あの馬鹿はちゃんとあなたをエスコートしてくれた?」
「え? あ、はい。もちろん……」
義母の物言いにびっくりして、思わず口淀んでしまった。
確かに節々に口の悪さのようなものはあったが、人に対して馬鹿なんて言うとは思えない。
もしや義母とブランは親しいのかと勘繰ると、父が大きく咳払いをした。
「楽しめたかい?」
「――はい、とても」
思い出すだけで頰が赤くなってしまう。
恥ずかしいし緊張したけれどとても楽しかった。
だから素直に頷けば、父は嬉しそうに表情を明るくした。
「そうかそうか。……ブランには感謝だな。アリーシャがこんなに楽しそうに外出してくれて、とても嬉しいよ」
「……心配かけましたよね? ごめんなさい……」
「なにを謝ることがある。娘の心配をするのは父のわがままだ」
本当に優しい両親と一緒にいられて、アリーシャは幸せものだろう。
「ねえさま」
「――ラルフ、おいで」
さらには可愛らしい弟まで。
こんなに最高の家族、他にいないだろう。
アリーシャはとことこ歩み寄ってきたラルフを抱き上げると、いつも通りその頰に擦り寄った。
「たくさん買い物できた?」
「……はい。ねえさまのおみやげもたくさん買いました」
おや?
とアリーシャは軽く違和感を覚えた。
なぜ今ラルフは言い淀んだのだろうか?
不思議そうにラルフを見るけれど、彼はかたくなにアリーシャのほうを見ることはない。
これもまた不思議だ。
ラルフはいつだってアリーシャに、その青々とした美しい瞳をキラキラさせて見せてくれていたというのに。
「ラルフ? どうか――」
「アリーシャへのお土産見せたいから早くいきましょう! ついでに家族でお茶もしたいわぁ。酔い覚ましもかねて」
「いいねぇ。アリーシャ、美味しいお菓子を買ってきたんだ」
「――あ、私も! 今日ホワイトガーデンに行ってきたので、そのお土産を」
「あらいいじゃない! ならお菓子パーティーにしましょう!」
楽しそうに歩み出した義母について、アリーシャも足を進める。
その間もラルフとは目が合わず、アリーシャは小首を傾げた。
本当なら聞き出したいが、こうなったラルフが話してくれるとも思えない。
なら下手に探るよりも、なかったことにするほうがいいだろう。
というわけで務めて普通に接することにした。
「ラルフのためにケーキ買ってきたのよ。一緒に食べましょう」
「はい。ぼくもねえさまのためにクッキー買ってきました」
どうやらクッキーのセレクトはラルフらしい。
感謝しつつ両親についていき、家族が集まるといえばの部屋へとたどり着いた。
こじんまりとした部屋ながら、義母の素晴らしい趣味により落ち着いた緑で統一された部屋。
そこにある小さなテーブルに四人で座れば、各々お菓子やらを並べ始めた。
「あら! 美味しそうなケーキね。それにとっても可愛いわ」
「クッキーも! うさぎの形してる」
「ねえさま好きかなっておもって」
「ラルフが絶対に買ってこいってうるさかったのよ」
義母の言葉になにか違和感を感じたのだが、それを突き詰める前に話を続けられてしまう。
「アリーシャにはね、可愛いアクセサリーがあったから買ってきたの。あとは靴も! 本当に可愛くて……。明日にでも合わせてみましょう!」
「わあ、楽しみです!」
義母とは趣味も合うので、彼女が買ってきてくれたものは全て楽しみだ。
わくわくするアリーシャに、義母は人をからかうような笑みを浮かべた。
「それでそれで? ブランはどうだった? アリーシャ的にアリだった?」
会話が若いなと、アリーシャは照れつつ口を開いた。
「……うん。とっても素敵だったわ。優しいしかっこよくて……しょうじきとっても好きです」
「まあまあ! あらあら! いいじゃないの! ここだけの話、ブランはアリーシャにメロメロだからあなたが受け入れるならすぐに結婚だってできるわよ」
「そ、それはさすがに……」
とはいえ、だ。
さすがにブランからの好意は感じている。
メロメロなんてたいそうなものではないだろうが、彼が好意を抱いてくれていることは気づいていた。
だからこそアリーシャも前に進むことができたのだが……。
「私どうしても彼と出会った時のこと覚えてないんだけれど……」
どうして彼がそんなに好意を抱いてくれているのか。
なにか知らないかと聞くと、義母は突然慌て出した。
「し、知らないわ。私じゃなくてこんど本人に聞いてみたらどう?」
「それが教えてくれなくて……」
「うわぁ、めんどくさい男……」
「……? ごめんなさい、今なんて……?」
「気にしないでちょうだい! とはいえ、ブランが言わないのなら、なおさら私から言えることはないわ」
そういうものかとアリーシャは黙り込んだ。
まあ確かに彼以外から聞くというのも、よろしくはないのだろう。
だが気になるものは気になると、過去の出来事をあれこれ思い出そうとする。
「…………んー、やっぱり覚えてないなぁ」
「それならそれでいいじゃない。大切なのは今よ」
「……確かに」
今がよければそれでいいかと顔を上げる。
あまり気にしすぎてもよくないなと、ラルフのお土産であるクッキーを口に運んだ。
「美味しい! ありがとうね、ラルフ」
「ケーキもおいしいです。ありがとうございます、ねえさま」
ひとまず今は家族との団らんを楽しもうと、アリーシャは紅茶を飲んだ。




