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婚約発表

 この人はいったい誰なんだ……?

 アリーシャは呆然と隣にいる男性を見上げた。

 黒く艶やかな髪に、赤々とした瞳。

 すっと伸びた鼻筋に、薄く形のいい唇。

 身長も百八十は超えており、細く引き締まった体が魅力的だ。

 社交界でもなかなかお目にかかれないだろうイケメンが目の前に現れ、アリーシャはなんども瞬きを繰り返した。

 そしてそれはバーバラとダニエルも同じらしく、二人ともポカンと口を開けている。

 当たり前だ。

 なぜなら彼が待ちに待っていた、アリーシャの婚約者だというのだから……。


「…………あ、あなたが……アリーシャの婚約者…………?」


「ああ。はじめまして、ブラン・ウィットだ」


「……ウィットって、もしかして公爵の……?」


「おや、知ってるのか。なら自己紹介する必要もなさそうだな」


 ブラン•ウィットという名前は聞いたことがある。

 確か国に絶大な貢献をしたとして、国王陛下より直々に公爵の地位へと陞爵された男性だ。

 詳しいことは公にされていないが、国王陛下自ら祝いの言葉を述べたとあり、一時期話題になった。

 そんな優良物件、世の令嬢たちが狙わないはずもなく、我先にとブランに手紙を送りつけていたのだが、あるきっかけでそれもほとぼりが冷めたのだ。

 その理由はただ一つ。

 ブラン•ウィットがあまりにも醜い容姿をしていたからだ。

 体はでっぷりと太り、顔はできものだらけ。

 身長は恐ろしく低く、さらには若くして禿げていたという。

 そんなわけで令嬢たちは早々に熱が冷めたらしいが……。


「……あの、ブラン•ウィット? 不細工で有名な……」


「そのブラン•ウィットで間違いないかと。あまり直接不細工と言われることはないが……」


 そりゃそうだろうと、アリーシャはあんぐりと口を開いた。

 この人が不細工だったら、世の中のほとんどは見るも無惨なことになってしまう。

 世間の噂というのはあまり当てにならないらしい。


「二人のことはアリーシャから聞いていたから、会うのを楽しみにしていたんだ」


「え?」


 話したことなんてないし、そもそもアリーシャと彼は初対面のはずだ。

 どういうことだと眉を上げたアリーシャとは真逆に、イケメンに目がないバーバラは嬉しそうに頰を赤らめた。


「アリーシャとは友人で、とっても仲がよくてぇ」


 どこの世界線の話だとバーバラを睨みつけるが、彼女がアリーシャを見ることは絶対になかった。

 あまりにも図太すぎる神経に、いっそ尊敬すらしかけていた時だ。

 ブランがそっと腰を曲げ、その美しい顔をバーバラに近づけた。


「アリーシャからいろいろ聞いている。――元婚約者とは仲良くやってくれているようで安心した。あなたたちが愚かな選択をしてくれたおかげで、アリーシャと婚約できたので。……ま、彼女を傷つけたことには変わらないから、お礼なんて言わないけどね」


 にっこり、とまるで効果音が聞こえてきそうなほどのいい笑みを浮かべたブランに、バーバラは口端を軽く痙攣させた。


「とはいえできれば今後アリーシャには近づかないでほしい。……あなたがたを許すなんてことは一生ないので」


 ブランはアリーシャの肩を掴みながらくるりと踵を返すと、バーバラとダニエルに軽く手を振った。


「それじゃあ、アリーシャのご両親に呼ばれてるので。あ、パーティーはぜひ楽しんで。せっかく招待したんだから、アリーシャの幸せな姿をその瞳に焼き付けてね」


 ブランはそう言うと、すぐにアリーシャの背中を抱きつつ歩き出した。

 向かう場所は会場の真ん中にいる両親の元で、二人はアリーシャとブランの姿を確認すると両手を広げて声を上げる。


「みなさま! 本日はお集まりいただき誠にありがとうございます。そして今日この場で、我が娘アリーシャと、ブラン•ウィット公爵の婚約を発表させていただきます!」


 その発表に会場中がざわついた。

 当日まで隠されていた婚約者の正体が分かり、それがかつて社交界の話題を攫っていた人なのだからその反応は当たり前だろう。

 さらには噂では醜い姿だと言われていたのに、今みなの前にいるのは目を奪われるほどの美男子だ。

 令嬢たちはこぞって頰を赤らめ、熱い視線を彼に向けている。

 だがそんな中、当人であるアリーシャだけは呆然とその場に立ち尽くしていた。

 きっとこの場にいる誰よりも混乱しているのはアリーシャだろう。

 なぜこんな話題のイケメンがアリーシャの婚約者として発表されているのか……。

 全くもって理解できない。


「二人の結婚式にはぜひ、みなさま出席してくださいませ」


 義母の言葉にギョッとして振り返れば、目が合いぱちりとウインクされる。

 アリーシャのこの反応を予想していたのだろう。

 どことなくニヤついている様子の義母に、アリーシャはジトっとした視線を向け続ける。


「――驚かせたかな?」


「――え、あ、……はい」


 話しかけられるとは思わなかった。

 こんなイケメンには免疫がないと挙動不審になるアリーシャの肩を、彼が離すことはない。


「あとで話そう。ご両親とも」


「…………ぜひお願いします」


「だから今は少しでも笑ってくれたら嬉しいんだけれど……どうかな?」


 どうかな、と言われても……。

 だが確かに婚約発表の席でこの表情は合わないだろうと、アリーシャは必死に口端を上げた。

 それがあまりにも固くて逆に変な雰囲気になってしまったのだが、アリーシャがそれに気づくことはなかった……。

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