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お待たせ

 そして訪れたパーティー当日。

 アリーシャは真っ青な顔で両親と対峙していた。

 しょうじきいろいろ言いたい。

 結局当日まで、アリーシャは己の婚約者と会うことはなかったし、本当にいるのかもわからない状態だ。

 そこはどうなっているのか問い詰めたかったが、新たな問題が現れアリーシャは顔面蒼白になっていた。


「――なんで、ダニエルと、バーバラに、招待状を、送ったの!?」


「どうせならって思ったのよぉ。アリーシャの幸せな姿をあの愚か者どもにも見せてあげようと思って」


 ぱちんっなんてウインクをする義母を、さすがに今回は笑って許すことはできなかった。

 よりにもよってなぜあの二人を呼ぶのだと、アリーシャは義母に詰め寄る。


「相手もいないのに……! あいつらに勝ち誇った顔されるくらいならダニエルは股間蹴り上げて、バーバラはドレス引きちぎってやる……っ!」


「そんなのとしたらお前が変人だと思われてしまうよ……!」


「そうなってもいいくらいってことよ!」


 もちろんそんなことをするつもりはないが、そうしたいくらいつらいということだ。

 彼らとは顔も合わせたくないのに、よりにもよってとアリーシャは顔を手で覆った。


「私の人生終わったわ……」


「そんなに悲観することないわ。ちゃーんと相手はくるから安心してちょうだい」


「安心して欲しいならどこの誰かくらい教えてくれてもよくない!?」


「それは…………会ってみてのお楽しみ!」


「だから安心できないんだってば!」


 安心材料をくれと叫ぶアリーシャに、しかし義母は朗らかに微笑むだけだった。

 そんなわけでパーティーの時刻となり、伯爵家は数多の招待客でいっぱいになる。

 そんな彼らの注目はもちろんアリーシャの婚約者で……。

 そう思うだけで胃がキリキリと痛み出す。

 そんな存在どこにいるんだろうか?

 義母はああ言ったが、果たして本当にいるのだろうか……?

 不安に押しつぶされそうになりながらも、アリーシャは両親とともに会場へと入る。

 ちなみにラルフは少し熱が出てしまったらしく、残念ながら今日はお休みだ。

 せめてラルフの可愛らしい正装で癒されようと思っていたのに、つくづく運がない。

 明らかに気落ちしているアリーシャだったが、主催の娘でありある意味主役であるゆえか、たくさんの人に話しかけられていた。


「おめでとう! あなたの話を聞いた時はどうなるのかって心配していたけれど、いい相手が見つかってよかったわね!」


「え? あ、はい……。ソウデスネ」


「お相手はとっても素敵な人だって夫人が言ってらしたけれど、どんな方なのかしら?」


「え? いやぁ……それはまだ内緒です」


 あはは、なんて笑いながらもアリーシャの視線は泳ぐ。

 相手はどんな人なのかむしろこちらが教えて欲しい。


「あなたに夢中だとか。愛されて幸せねぇ?」


「あ、はは……」


 これいつまで続けなきゃいけないのだろうか?

 もう罪悪感やら緊張やらで泣きそうなのだが、とアリーシャが崩れ落ちそうになっていると、またしても聞きたくない声が耳に入ってきた。


「あーら、アリーシャじゃない。婚約おめでとう。――できれば、の話だけれど」


「…………バーバラ」


「疑ってるわけじゃないんだけれどねぇ? あなたのお相手のお話を少しも聞かないから、気になってるのよ。そこまで必死に隠すような相手なのかしらって」


 いるかもわからないのだから、隠すもなにもないのだが……。

 バーバラはなにも言ってこないアリーシャに大きく鼻を鳴らすと、少しだけ近づいて周りに聞こえないよう小声で囁いてきた。


「あなた社交界でなんて言われてるか知ってる? 婚約破棄された落目令嬢。どうせあんたの相手なんて、年寄りかよくて変わり者くらいでしょ? こんなパーティーしちゃって……かわいそうに」


「………………」


 なにも言い返すことができない。

 アリーシャも同じことを思っていたからだ。

 両親はああ言ってくれたが、アリーシャは己という存在を客観的に見れている。

 バーバラが言うことは、アリーシャ自身が思っていたことだ。

 だからこそ黙り込んでいると、またしても聞きたくない声が届けられた。


「アリーシャ! お前、いい加減意地を張るのは――バーバラ?」


「あら。久しぶりね」


「……そう、だな」


 なんだこのメンツは。

 どうやらダニエルはあの後バーバラに振られたらしく、とても気まずそうにしている。

 そしてアリーシャは言わずもがなだ。

 バーバラ以外の二人はとても顔色が悪い。


「あなたもアリーシャの婚約者を見にきたのね?」


「え? あ、ああ……。アリーシャ、いい加減意地を張るな。婚約者なんていないんだろう? お前みたいな女、俺以外もらってくれるはずがないだろう」


「だとしてもあなたと結婚することはないわ」


 なぜアリーシャを傷つけた男と結婚しなくてはならないのか。

 そんなことになるくらいなら、結婚しないほうがマシだ。

 どれほど後ろ指をさされようとも、アリーシャは絶対にダニエルと結婚することはない。


「年寄りと結婚するっていうのか!?」


「――私はっ!」


 どうしてあれこれ言ってくるのか。

 放っておいてくれればいいのに、なぜ関わってくるのだと、アリーシャは思わず苛立ちを露わにしてしまった。

 もうここまできたらいっそ言ってしまったほうがいいだろう。

 結婚なんてする気はないと。

 それだけ言い放って、もうあとは田舎に引きこもってやる。

 そんなつもりで声を荒げたアリーシャの肩を、不意に誰かが掴んだ。


「――え」


 急に誰だと横を見れば、そこには長身の男性がいる。


「すまない、遅れた。せっかく我々の婚約祝いなのに……」


 アリーシャは大きく目を見開いた。

 この人は誰だ?

 こんな美しい人、見たことがない。

 黒々とした艶やかな髪に、真っ赤な瞳。

 見る人を魅了する存在が、そこにいる。

 そして彼は穏やかに微笑むと、アリーシャをそっと抱き寄せた。


「お待たせ、アリーシャ」

 

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