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全てを失った日

 明日は世界で一番幸せになるだろうと、本気で思っていた。


 ――あの光景を見るまでは……。


「…………なにを、しているの?」


 明日の結婚式のため、屋敷でドレスの最終確認をした後のこと。

 数時間立ちっぱなしは流石に疲れたと、自室で休憩しようと向かった先で見たのは、己の婚約者と友人が熱い口づけを交わすシーンだった。

 お互いが求め貪るように唇を押し付け合うその姿を、よりにもよって自室で見ることになるなんて。


「――アリーシャ!? こ、これは違うんだ!」


 必死に言い訳をしてくる婚約者と、涙目のアリーシャを鼻で笑う友人。

 いったいなにが起こっているのだろうか?


「信じてた私は、ただの愚か者……?」


「そんなことは――」


「そうよ」


 友人だと思っていたバーバラは、なにが面白いのかクスクスと笑う。


「あなたが言ったんじゃない。二人の間には確かに愛があるって。だからどんな困難が立ちはだかろうとも、二人なら乗り越えられるって。――どう? 乗り越えられる?」


 その瞬間全て壊れたのだ。

 愛も友情も。

 そしてそれは世間からの目もだった。


「見て。彼女婚約者を友人に奪われたんですって」


「まあ、哀れねぇ。それで婚約破棄なんてして……。もう結婚は諦めたほうがいいんじゃない?」


 婚約破棄をした女への風当たりは強い。

 まるでアリーシャが悪いことをしたかのように言われる。

 そんな日々が続けば誰の目にも晒されたくなくて、気づいたら屋敷に引きこもるようになってしまった。

 毎日毎日涙が溢れて、身も心もボロボロになっていく。

 どうしてこんなに苦しい思いをしなくてはならないのだと泣き続けたアリーシャを救ったのは、血のつながらない弟であった。


「ねえさま。だいじょうぶだよ」


「……ラルフ?」


「だいじょうぶ。だいじょうぶだよ。ぼくがついてる」


「…………あ、ありがとうっ」


 頭を撫でてくれる子どもの手のあたたかさと柔らかさに、アリーシャは気づいたらもっと涙を流していた。

 母を早くに亡くし、跡取りのいない伯爵家を憂いた父が連れてきた、後妻とその子ども。

 まだ五歳になったばかりのその子を胸に抱き、アリーシャは誓った。

 もう愛だの恋だのには騙されない。

 もうこんな惨めな思いをするくらいなら、はじめから恋などしなければいい。

 自分の一生は、この愛しい弟を立派に育て上げることだけに使おう。


 ――そう、覚悟を決めた。


 のに。


「愛してるよ。――ねえさま」


 ――いったいなにが起こっている……?

新連載はじまりました!

私にしては短めなのですぐに終わります。

気軽に読める物語ですので、気分転換になどお読みいただければと思います!

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