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第一章29 『首都フォルムでの邂逅』

 運命の出会いを果たしたエリカとレナートは、まさかのいい感じの雰囲気を首都につくまで貫き通した。当然同じ部屋ではないが、それでも日々二人の距離が縮まっているのを感じる。

 アデリナもマリアも驚きを禁じ得ないが、友人の幸福を心から祈った。

 

 そうして思いがけぬドタバタがあったものの――、列車は数日の時を経て、ついに終点、グラナート共和国首都フォルムに到着した。

 グラナート共和国の首都フォルムは、都市全体が緑化されていることで有名である。特に春が終わり夏が始まった今の季節は、清涼な緑がそこら中に茂っていて美しく、空気も澄み渡っている。

 駅の天井はドーム型になっており、ホームは赤レンガを基盤に建造されている。その巨大なホームの中心には待ち合わせに最適な噴水があった。

 当然、例の通り自然も豊かである。


「うわわわ……凄い、これが首都! 大きい、広い、空気おいしい!」


「凄いな……いるだけで寿命伸びそうなんだが。緑化がすごい、見習いたい」


 マリアとエリカははしゃいでいるが、アデリナからすれば見慣れた景色なので、そう動じることもない。

 初めて見た時は、確かに興奮したかもしれない。だがあまりにも幼い時の記憶で、もうあまり覚えていなかった。


「――あれ? アデリナじゃないか。久しぶりだね」


「!? フェリクス!」


「「へ!?」」


 ぼんやりとホームの噴水を眺めていると、穏やかでいて軽快な青年の声がアデリナの名を呼んだ。

 驚愕と共に振り返ると、そこにはやはり彼の姿が。


 ――フェリクス・グラナート。

 第一元老ロスティスラーフの第二子であり、現在第一元老直属の騎士団《天王星ウラーン》の指揮官を務め、国防の要を担っている。

 アルトゥールの婚約者だった時代に知り合い、仲良くなったのだ。

 襟の高い茶色のコートを着て両手をポケットに入れた彼が、アデリナに歩み寄って目を合わせた。


「久しぶりね。何をしてたの?」


「しばらく魔物狩りに駆り出されたんだよ。その俺がいない間に婚約破棄騒動が起こるとは思わなかったな。ウチの騎士団も出動したんだろ?」


「ええ、そうね。意気揚々と貴方のお兄さんを連れて行ったわ。結構楽しそうだったけど、感想は報告されなかったの?」


「あー、されたよ。生意気な第二元老の自慢げなツラを引っぺがせてよかった、って言ってたな」


「だいぶぶっきらぼうな言いようね……的を射ているとは思うけど」


 距離が近い二人の話しぶりに、マリアとエリカは目をぱちくりとさせる。勝手ではあるが、アデリナに男友達はいないと思ってしまっていた。

 だがやはり、あの非常識人間アルトゥールと付き合っていく中で、常識人と知り合いでいることは心の安定に大事な要素だったのかもしれない。


 フェリクスは、どちらかというと母エレオノーラに似ている。

 その髪は、白銀交じりの灰色と言ったところか。そして少し長めの襟足が特徴的で、片耳にピアスがひとつ付いている。瞳は透き通るような銀色をしていた。

 腕を組んで唸る彼は、やれやれと首を振る。


「君ほどの人を手放すとは、俺の兄さんは目が節穴かなんかなのか? 親の顔が見てみたいね」


「貴方の親よ???」


 真面目な顔で変なことを言いだしたフェリクスに呆れの表情を浮かべたアデリナだが、二人とも楽しそうだ。

 不意に、フェリクスがポケットからサングラスを取り出してそれを頭上に付ける。


「それ、貴方の本体みたいなものだと思ってたけど、そういえばさっきはつけてなかったわね」


「それがなぁ。リチャード公爵と微妙にかぶってる感じがするんだよ。そうだ、あの求婚の話とか同盟の話とか、また宴会で色々聞かせてくれよ。明日の宴会はそう大きくもない舞踏会で参加者が少ないそうだけど、君は行くのか?」


 確かに、リチャードもいつもサングラスを付けているわけではないが、宴会期や人々の中心にいるときはたまに付けているのを見る。

 アデリナ的には、どちらも似合うとは思うが。

 ――ともかく、明日の宴会は「舞踏会」と名がついた小規模のパーティ。本来なら、カレリナの人間がわざわざ出場しなくてもいいわけだが。

 

「確かに、当主会議とも被っていて出る人が少ないけれど、わたしはひとりで行くつもり。色々偵察する必要があるの、少しでも人が集まる場所には行っておきたい。貴方は?」


「俺は父さんに報告があるから、ちょっと無理だな。おっと、友達との会話を邪魔して悪かったな。俺はそろそろ退散するよ」


「あら、どうも。また会いましょう」


 宴会と並行して、当主や有力者たちが集う「当主会議」も自主的に開かれる。そこへは両親に行ってもらうとして、むしろ重要人物が誰もいないからこそ、警戒心の薄れそうな場所を偵察しておきたかったのだ。

 どうやらフェリクスもかなり忙しい身らしい。仕方あるまい。アルトゥールが第二元老から引きずり降ろされるのはもはや確定事項なので、彼がその代わりを、という話になるだろう。


 ひらひらと手を振りながら去っていく彼の飄々とした笑顔を見送りながら、アデリナは深くため息を吐いた。

 ――未来が、変わった。前回のフェリクスの凄惨な終わり方も、もう二度と、繰り返さないだろう。そうならない未来を、アデリナが作るのだ。

 必ず。


「あ、アデリナちゃん、今のイケメンって……友達? それとも……」


「浮気かっ?」


「ちょっと! すぐそういう方面に考えるのはやめなさい! 何故わたしの一途な愛をみんな疑おうとするのっ! それに、そんなのアルトゥールと同類じゃない、有り得ないわ。フェリクスは友達よ」


 ぷるぷるしながら恐る恐る訪ねてきた友人二人に、アデリナは全身の毛を逆立てて反論した。

 人間は男女二人が共にいるとすぐそういう方向に考えがちなようだ。

 しかしどうやらマリアもエリカもからかいが目的だったようで、三人はすぐに噴き出した。


 とはいえ、どうしてどこでもこの純粋な愛が疑われなければならないのか。

 誰よりも一直線に、明白に、全身全霊で愛を謳っているのに。


 そこにやや不満を覚えながらも、アデリナは二人の友人と一緒に明日の「舞踏会」についての打ち合わせをすることにした。

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