72.山頂にて
セーラ目線の話です
いざ山頂に行くぞ!ってなったときにアルが倒れた。
倒れる直前のあの陽気さ、変だとは思ったが休ませるつもりはなかった。
今思えば精神の疲れからああなっていたかもしれないと思うとちょっと申し訳なく思うが...自分から言わないアイツが悪い、そう思うことにした。
驚いたことに私よりも先にアリスが立ち上がり、このまま山頂に行く決断をした。
アリスのことだから最悪のことを考えてここでビバーク(野宿みたいなもんだ)するかと思ったがそうしなかった。
全く、あんな年齢のやつが考えることじゃないだろ、って思いながら着いていく。
出会った時からずっとだ。
歳不相応な頭の回転と体力と知恵と、そして才能と。
アイツは私たちのおかげで、なんて思っているだろうがほとんどが自分の力だと自覚して自信を持って欲しいものだ。
ようやく山頂に着いた。
アリスのやつ、岩壁を登るときにさりげなく引っ張っていた。
荷物も一緒に繋げることで体重の少なさを補いながら。
なんてことを思いついてんだ?と思いながら感謝はしておく。
言葉には出さんがな。
山頂に着いて早々にアリスが倒れた。
当たり前だ。
大人のアルが倒れたんだ。
むしろここまで登ってこれたのも奇跡なんだろう。
アリスが意識が朦朧としたまま家を建てやがった。
海獣の時からお世話になっているこの土魔法の家、魔法の知識がある私に言わせたらとんでもないものだぞ?
穴はない、ある程度の強度がある、火をつけても問題ない、水を使っても問題ない、普通に広い。
使う魔力も相当なものだし、それを「ポイッ」の一言でやる奴なんてこの世にいるはずがない。
思考の沼から戻って生きた私はアリスとアルと荷物を家の中に入れる。
とりあえず水を創り出してお湯を沸かす。
そのお湯を飲んで一息ついたらアリスとアルを布団に連れていく。
アリスの家には窓がある。
土魔法で窓まで創り出すなんて器用なことするよ、と思いながら外を見たら陽が昇り始めていた。
そういえばなぜか帝国と公国では宗派が違うんだっけ?
数日前の会話を思い出す。
私も創世教に宗派があるなんて聞いたことないが...実際のところどうなのかは分からない。
帝国には「魔法鑑定」なる習慣もあるそうだ。
帝国の常識は知らんが公国では魔法が使えるやつも使えないやつも関係ない。
魔法に興味を持って学びたいやつが学ぶもんだ。
魔法兵は少ないから多少の優遇はあるが魔法が使えないからといって差別があるわけじゃないし、魔法を強要しない。
一国家の意向だから私が言えることではないが帝国のやり方には反対だ。
アリスの友達に魔法を使えないやつがいるんだそうだが、アリス曰く練習すれば全然使える才能はあるだそうだ。
でも「魔法鑑定」で使えないと言われたから使ってないらしい。
そんなやり方に賛成などできるわけない。
そんな長々と考えてたら眠くなってきたので、お湯を飲み干し、アリスの隣で寝ることにした
今日も謎の夢が私を襲う。
言い方は悪いかもしれないがアリスが来てからずっとこんな感じだ。
アリスのせいだと言っても過言ではないと思うくらいには。
未来———次に起きた日に起こることがぼんやりと頭の中に夢として流れてくる。
最初は今までなかったことに疑問を抱いていたが今はもう慣れてしまった。
目が覚めたら内容を忘れている、それが夢ってもんだ。
それは私も例外ではない。
が、人間の脳とは恐ろしいものでうっすらと覚えているものらしい。
夢で見た光景と現実が一致したとき、なんとなく次に起こることがわかる、ような気がする。
夢は所詮夢だ。
その夢の内容を現実に持ってくるほど私は馬鹿ではない。
夢で起きたことが現実でも起きたとき、「あれ、なんか見覚えあるな。この状況」って思うだけ。
「明日は5回も転ける!?そんなの嫌だ!」なんて騒ぐのもその夢を信じるのも馬鹿馬鹿しい。
でも今日だけは思った。
思ってしまった。
アルが、アリスが、本当に起きてくれたらいいな。




