68.山越え③
「...!雲、流れてないか?」
「本当だ!セーラさんさすが!」
「雲が流れてるからなんだ?」
「全く、そんなことも知らないなんてな。ね、アリス」
「ですね、セーラさんっ」
「おいおい、俺にも分かるように教えてくれよー」
「めんどくさいからやだ。アリスに聞け」
「じゃあアリスちゃん、教えて?」
「しょうがないですねぇ。ま、簡単に言うと雲の向かっている先が山頂ってことです」
「へぇー。じゃあ雲と同じ向きに進めばいいってことなんだ!」
「まぁそういうこったな。わかったんならさっさと行くぞ」
「“針山”を抜けたらゆっくり休みましょうね」
「そうだな。てか、それなら俺の地図いらなくね?」
「「うん」」
「そうか...俺は役立たずだったか...」
「「うん」」
「いや、そこは否定してくれよ!俺だってグルグル回ってるのに頑張ったんだよ」
「確かに頑張ってくれてはけど...方角を見失っちゃってるんだもんなぁ」
「しょうがないだろ!?」
「まぁまぁ、早く進みましょう。さすがに私も疲れてきました」
「そうだな」
夏はあまり急な天気や風向きの変化はないので、基本的に“陸海風”と言うものを参考にします。
陸地は暖まりやすく冷めやすい。
逆に海は暖まりにくく冷めにくい。
そして風は冷たい方から暖かい方に吹く。
この3つを把握していれば時間帯による風向きがわかります。
今は朝なので陸の方が冷たいです。
なので地上では陸から海へ、そして上空では海から陸へと風が吹いているはず。
つまりは風の向かう先が山頂なのです。
“針山”の中を歩きながらアルさんにそう教えます。
「へぇ。アリスちゃん若いのによくそんな難しいこと知ってるね」
「冬は本を読むしかすることがないからね...。アルさんも本を読むといいよ」
「読書かぁ。まぁ考えとく」
「アリスのその魔法も本でか?」
「うん。そもそも私の魔力量が多いってのと使える属性が多いってのもあるんだけどね」
「こっちには魔法鑑定なんて習慣ないからな。もしかしたら私もアリスみたいな才能があるかもしれないけどそんなの分からない」
「あるじゃなか。勘の良さとか」
「それは才能じゃないだろ。ま、何が言いたいかというと才能がありながら努力してるアリスがすごいってことだ」
「えへへぇ。ありがとうセーラさん」
「姉貴が褒めるなんて珍しいこともあるんだなぁ。明日は大雪か大雨か?」
「何言ってんだよ!このバカ愚弟め。それで本当に降ったらどうしてくれるんだよ」
「そんなわけないでしょ。こんな綺麗に晴れてるのに」
「ねぇアルさん。それ、“フラグ”っていうんだよ?」
「ふらぐ?なんだそりゃ」
「さっきアルさんが『降るわけない』って言ったでしょ?そのせいでフラグが立って雨が降っちゃうの」
「じゃあやっぱ雨降ったらアルのせいじゃんかよ」
「くぅぅぅぅう!知らなかったぁぁ!」
「その“フラグ”っての面白いな。それも本の知識か?」
「うん。よく物語とかであるの。この表現が後の出来事に繋がってた、みたいなことが」
「なるほど。で、さっきの『降るわけないじゃん』が雨が降る未来に繋がっていると」
「あくまで可能性の話だけどね」
そしてその日の夕方、ようやく針山を抜けました。
徹夜で進んだ分、余計に疲労が溜まっているだろうということで今日は特別に土魔法で即席の家を建てます。
あまりに魔法を使いすぎるとセーラさんとアルさんから心配されるので普段はしませんが、今日はそんなことを言ってられないくらい疲れていました。
家の中に荷物を置いて、寝袋をひいて、早速ご飯の準備に取り掛かります。
針山を出る直前に高山動物が獲れたので捌いて夕飯にします。
夕飯の後は交代でお風呂に入り、話も程々にして眠りにつきます。
徹夜軍行の疲れでぐっすり眠っていた私たちは普段より少し遅めに起きました。
そしたら私はみんなのために水を溜めに外に出ます。
そしたら降ってました。
雨が。
見事なフラグの回収を目の当たりにした私たちはもう1日休もうということになりました。
というわけで幸せの二度寝を堪能した後、外に出て魔法でタンクに水を入れて朝ごはんを食べます。
ご飯の後は雨漏りをしないように補強したりおしゃべりしたり横になったりと各々好きなように過ごしてローディア山登りで初の雨をやり過ごしました。




