閑話.神罰
久しぶりの神様回です
神界。
そこは世界を創った神々が住み、暮らしている場所である。
もちろん、ただそこにいるだけではない。
己を創ったとされる創造神様から託されている仕事をしなくてはならない。
生き物の魂を糧とする邪神やその眷属達を見張ったり、時には倒したり。自分の世界の住民の動向を見守り、時には恵みを与えたり。
世界を創り出したら終わりではなく、その後の管理も創った者の責任である。
それ故に一つの世界を任された、とは神々にとってはかなりの出世である。
そんな神の1柱が下界を見ながら喚いていた。
「なんじゃあの娘は!ワシの子になんてことをしてくれる!」
もう一度言おう。神にも仕事がある。
だがそれは決して叫ぶことではない。
「グリモール様五月蝿いですよ。そんなにずっとアリスティア様を見てるなら訴えますよ」
「な、それだけは....いや、ワシはパーティーの様子を見てただけで———」
「言い訳はいいですから。ほら、西の大陸の方で災害が起きてますよ」
「そんな!大きなことが起きる予兆は....むぅ確かにこれは酷いのぉ」
「予兆ならありましたよ。巣の異様な発達、今貴方がご覧になってる中央大陸からの飛龍の移動、災害が起きている地での魔素濃度の上昇。どうです?」
と言ってメイド———エルノアが資料を渡す。
「予兆があるのぉ」
「しっかりしてください。アリスティア様が大事なのは分かります。この時代に呼んだってことは何かが起きるのでしょうから」
「そうじゃ!この後世界は———」
「未来に何があろうと現在を疎かにしてはなりませんよ。あの娘には私が悪戯をしておきますから貴方は御自身のお仕事をなさってください」
「しっかりやるのじゃぞ!あの娘はわしの———!」
「はいはいやっておきますから。ところでグリモール様、私に何が起きたのか教えていただけますか?私の過去に何か大事なことがある気がしてならないのですが」
最近エルノアはグリモールと会うたびにこれを聞く。
アリスティアの動向を見守るうちに親近感を抱き、グリモールに自分の過去を聞いた時の反応で確信を得た。
自分の過去にグリモール様が気にする何かがある。そしてそれは自分にとってかなり重要である、と。
「すまんが今からわしは忙しくなる。きっと教えるから待っておいてくれ」
今日も逃げた。
これ以上追求しても意味がないと分かっているエルノアは自分の仕事に取り掛かる。
「こんなことに使う神力じゃないのになあ」
なんて独り言を呟きながら。
同刻。
オースティンに追い出されたラウラとラウラの婚約者———カイルと2人の取り巻きが会場の外を歩いていた。
「なによあのジジイ!権力振りかざしているくせに!」
「よしっラウラ、ここは爺さんに一泡吹いてもらう」
「いいけどどうすんのよ」
「こんなパーティーでは毒味の人は基本いない。だから毒を混ぜても俺たちが疑われることはないだろうからね」
「分かってるわねカイル。じゃああんた達準備してもらえるかしら」
「「「はいっ!!!」」」
「最上級のをお持ちします」
「遅効性の方がより良いでしょう」
「いいねぇみんな。あの爺さんには舞台を降りてもらおうじゃないの」
「ほう、誰が舞台から降りるじゃと?」
「な、て、皇帝様」
「ご、ご機嫌麗しゅう」
オースティン毒殺計画を話していた2人の前に現れたのは皇帝であった。
「そのように見えるかね?目の前の者が暗殺計画を聞いておいて。のお?」
「いえ、決してそんなことは」
「じゃあなんだね、この国を滅すつもりかね?」
「全く考えておりません」
「まぁ詳しいことは後ほど聞くとしよう。年に一度のパーティーじゃ。これを無下にしては創造神様に怒られてしまうわい」
わっはっは、と笑いながら去っていく皇帝。
それを見ながら2人は胸を撫で下ろすのだった。
時間ができればどうにでもなる、と。
しかしその考えは甘かったとすぐに気づくことになった。
「「「ドネイト様、パーセリー様。帝より護衛の任を承りましたので憑かせていただきます」」」
衛兵が3人びったりと憑いてきたのだ。
これでは身代わりを頼むこともできない。
ターゲットはオースティンであったがそれはそれで問題である。
結局逃げることができず2人はたっぷりと絞られるのだった。
その頃、神界にはそんな2人を見ながら大笑いする神とそれを見て呆れるメイドがいたそうな。
ドネイトはラウラの、パーセリーはカイルの家名です