壊れた心
カーテンからこぼれる太陽の光、そして見知らぬ天井、と言いたい所だが...匂いからして病院、今はベッドの上と言った所だろう。
「目覚めましたか?」
声がした方に首を向けようとするも力が入らない。女性の声という事は多分看護師だろう。
「ここは一体...?」
現状の把握の為にもありきたりな質問で返す。
「ここは病院で丸1日寝込んでたんですよ。とりあえず先生を呼んできますね」
これは...色々と説明を受けそうだな。
──────────数十分後─────────
お医者様の話と私が見たものを繋げるとこうだ。私は母の結婚指輪を見た後、息が荒々しくなり突然その場で倒れた。その後近くの病院まで運ばれて丸1日寝て今の状況に至るらしい。
私とした事が冷静さを欠けてしまうとは情けない。
ある程度力が戻ってきたので、起き上がり周りを見回してみる。周りのベッドとはカーテンで遮断されており、個人スペースが確保されている。ふと横にある机の上を見てみると、置き手紙があった。手紙の表には「息子へ」と書かれている。どうやら父親かららしい。
手紙には家が全焼した事、父が住んでいたアパートに引っ越す事、そして母が死んだ事が記載されていた。手紙を読んでいると心臓の鼓動が早くなるのを感じる。現実から目を背けないように1文字1文字しっかりと見る。
「母が死んだ」
もう一度読み返し心に刻み込む。何度見ようが現実は変わらない。
病院を退院した後、父が住んでいたアパートに向かってみる。父は数日間休みを取るらしく部屋でごろごろしているらしい。
アパートの周辺につく頃には、もう外は暗くなっていた。病院からアパートまで徒歩1時間、病み上がりとまでは行かないが、起きたての人間にはキツイ距離だ...。2階の部屋なので階段を登る。一段一段が足に響く、早く家に帰って私もゴロゴロしたい。
ようやく部屋の前まで到着し、ピンポンを押してみるが応答がない。色々な事が有りすぎてきっと寝ているのだろうが私も早く家で寝たいのでピンポンを連打してみる。自分で言うのもなんだが、傍から見ると相当酷い事をしているだろう。
試しにドアノブを回してみる...開いてしまった。
不用心にも程があると思いながら部屋の中へ足を踏み入れようとするが、突然寒気が走る。
この先を見たら元に戻れない気がする。
昼とは一変した夜の空気を吸い込む、喉が凍ってしまいそうなほど冷たい風が肺の中へと通ってくる。
ゆっくりと部屋に入り靴を脱ぐ。
覚悟を決め電気を付ける。
窓から風が出入りして、カーテンと、ロープと一緒に【ソレ】は揺れている。
脳が状況の把握を拒む
私は膝から崩れ落ちる
「やめてくれ」
誰にも届かない言葉を私は放つ。
天井から垂れているロープに首を通し、椅子の前で宙吊りになっている【ソレ】は
【私の父親】だった。