死
私はゆっくりと扉を閉める。まだ悲鳴は聞こえない。
(落ち着いて状況を整理しよう...26番は私をこの部屋に案内した。ここまでは合っている)
(そして26番は含みのような、同情するかのような物言いをして早々に立ち去った...。
まさかアレは「そういう事」なのか?)
私の脳は今までに無いほどフル回転をした。ここまでの思考に一秒の時間も要さなかっただろう。
一分が経過しようとした時、ドアノブがガチャリと動いた。
私は扉が開くよりも早く頭を下げた。その速度は音を置き去りにする程だった。いや、少し盛ったか。
「あの...」
私は何か言われる前に謝罪の言葉で先手を打った。
「ごめんなさい」
角度45度、目線先は靴、完璧だ。
彼女が口を開ける
「大丈夫です....」
ここで体を直すのはまだ二流だ。
相手に顔だけ向けてより同情を促す、そしてもう一度頭を下げて感謝をする。
「ありがとうございます」
(ラッキースケベは恋愛や感動、ギャグ系統専門の筈だ...勘弁してくれ)
私はそんな事を考えながら頭を上げる。ふと、鼻に石鹸のような良い匂いしてきた。
無礼を働いてしまった少女の髪が濡れている。
(もしかしてこの拠点のどこかにお風呂が存在する...?)
想像以上に良い所なのかもしれない。
「あの」
上の空だった目線を少女に移す
黒の長髪に整った顔、幼げながらもその「美」は言わずもがな伝わった。
(黒のマント...着合わせ中だったのか)
私は彼女がどうして着替えていたのか推測しながら返事をする
「はい」
「もしかしてこの部屋に...?」
「その通りです」
(その顔を見れば言いたい事はわかる...この部屋で一緒に住むのか?だろう)
「062番です。宜しくお願いしましゅ」
(あっ)
咄嗟に私は顔を逸らした。
私は緊張していた。
転生前は女の子と話す事なんてほとんどなかったのだ。歳が近ければなおさら...一年に一回あるかないかくらい。
(顔が見れない...)
同居人が刺そうとした女の子、しかも着替え途中に遭遇、そして最初の挨拶をしっかりと噛む。
そう...完璧な「死」である!
数秒間無言が続いた後、少女が口を開いた。
「061番です...宜しくお願いします」
相手の声が僅かに震えていた。
(ナイフを刺そうとした相手が同居人ならそうなるよなぁ...)
相手が後ろを向き、部屋に入った。私もそれに続いて部屋の中へと入る。
部屋の中は中央のカーテンを境に左右の家具が同じ様に置かれていた。奥にクローゼットと着替え中見えない為の二重のカーテン、そしてベッドとランプ、手前に机とイスという順番で設置されていた。
(ズレを一つも感じさせない程の丁寧さ...素晴らしい。こういうのを見ていると心がスカッとしてくる)
そんな事を考えていると、少女がこちらをチラチラと見ている。
(警戒されているのか...?)
何もしない事を伝える為に、中央に設置された仕切り用のカーテンをゆっくりと閉める。
私は紳士なので少女に手を出すなんて事はしない。
私はお風呂に入る為、着替えとタオルを持って部屋の外に出る。
(風呂場ってどこだ...?)
肝心なお風呂場が分からない。
私が路頭に迷うかの如く部屋の前をウロウロしていると、26番が遠くから近付いて来ていた。
「部屋の前をウロウロして、どうしたの?」
「お風呂の場所が分からなくて...」
「あ〜!ごめん!伝えるの忘れてたよ!お風呂は一階にあるんだ」
(救世主...!)
「ちょうど私もお風呂に行こうと思ってたんだ。一緒に行くかい?」
「是非ともお願いします」
今日から彼には敬意を払おう、私はそう心の中で決めたのだった。
私達はその後、一階のお風呂場まで行き、脱衣所で着替えて中へと入った。
「これは...結構な広さですね」
中は予想以上に大きく、銭湯かと思うほどの広さを有していた。
「設備の設計を任されているイリス様がだいのお風呂好きでね...結構力を入れてるらしいんだ」
(ほう...気が合いそうな人もいるものだな)
私達はそのままシャワーを浴びて、お風呂に身を委ねた。
お風呂に入ってる途中、頭がクリアになった私は幾つか26番さんに質問をした。
「26番さんも相部屋に?」
「ん”ん”ん”ゴホッゴホッ」
26番さんは今まで見た事がない程の動揺を見せていた。
「う、うん...そうだよ...」
「相手は誰なんですか?」
意地悪とかでは無い、勿論好奇心による質問だ。9割は。
「相手は25番...協会の時にいた、私と同じ部隊の女性だね」
(なるほど...つまり同じ部隊の人間が相部屋になるという訳か)
「君は誰と相部屋になったんだい?」
「そろそろ上がりましょうか」
私は逃げるかのように立ち上がろうとした
「いやいや逃さないよ」
(クソッ!)
26番さんは意外とやり手のようだった。私は腕を捕まれ、逃げるに逃げられない状況となってしまった。
私は腹を切って喋り出す
「相手は...協会で26番さん達が連れていた女の子です」
「あ〜!君が刺そうとした子か!」
(悪魔か? )
私はちょっとしたモヤモヤを抱えながら頷く
「実は26番がその子の事を凄く気に入ってて...色々話を聞かされていたから、私はお風呂に逃げてきたんだ」
(なるほど...それでちょうどでくわしたのか)
私は26番さんと長話をしながらお風呂を終えた。
「私もあの子に挨拶していこうかな」
という26番さんの言葉によって、私と26番さんは一緒に部屋へと向かった。
扉の前まで到着して、ゆっくりと扉を開ける。
私と26番さんは驚いた。
25番が61番の事を押し倒していたのだ...。




