表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
虚界の間  作者: Fイエゴウ
第一章 全てを賭けた復讐
7/11

第五話 世界書(3)

ボラドルの基地から脱出した後、ドライはすぐに背中の翼を広げ、家の方向へ飛び立った。

しかし、先ほどの逃亡で大量の体力を消耗した上に、腕の中には気を失ったドリアを抱えているため、飛行は異常なほど困難になっていた。

「疲れた……最初からサボらずに体力を鍛えておけばよかった……ダメだ! ここで諦めるわけにはいかない、もうすぐ家だ……!」

極度の疲労を感じながらも、ドライは全力で前へ飛び続けた。

だが、しばらくすると、ある人物の気配が猛スピードでこちらへ向かってくるのを感じた。

速度を上げようとしたが、すでにドライの体力は限界を迎えていた。

その瞬間――突如として空気が激しく波打ち、次の瞬間、一つの黒い影が彼の目の前に現れた。

黒い礼服をまとい、長い紫の髪が風に揺れている。

虚ろな紫の瞳は底知れぬ深淵のように、全てを飲み込んでしまいそうだった。

ドライの全身が硬直し、背中の翼は震え、まるで空気さえも凍りついたかのようだった。

喉が見えない手で締め付けられたように詰まり、震える声でようやく数音を絞り出した。

「……末滅まつめつ……様……」

その時だった。

末滅まつめつの口から紫色のエネルギー球が吐き出され、空中で瞬く間に膨張し、濃い煙霧となって周囲の空間を覆い尽くした。

次の瞬間、ドライの体に異変が走る。

煙霧はまるで生き物のようにまとわりつき、彼の肌に素早く染み込んでいき、残されたわずかな力を吸い取っていく。

「くそっ……!」

激しい疲労感が襲い、意識がぼやけていく。

翼を動かす速度も鈍り、胸が見えない手に締め付けられるように苦しくなり、呼吸さえもままならない。

彼は歯を食いしばり、何とか意識を保とうとしたが、煙霧はますます濃くなり、体内の力が決壊した水のように流れ出していく……。

このままでは、あと十秒も持たずに墜落する――

「ふっ……」

末滅は小さく笑い、彼を見下ろす。

その紫の瞳には、全てを掌握しているという確信が満ちていた。

だが――次の瞬間、ドライの体が突然震えた。

まるで何かが彼の肌を覆ったかのように、異様な煙霧を遮断する感覚が走る。

「……ん?」

末滅の眉がわずかにひそめられる。

紫の霧はなおも激しく渦巻いていたが――その力を吸い取る効果が、なぜか……消えていた。

ドライは一瞬呆然としたが、ぼんやりしていた意識が一気に冴え渡る。

体力はほとんど残っていないが、少なくとも、もうこれ以上吸い取られることはなかった。

「これはどういうことだ?」

深く考える暇はなかった。

その隙に、ドライは思い切り翼を振り、筋肉の激痛を堪えながら必死に遠くへ飛び続けた!

末滅は目を細め、遠く飛び去る彼の姿を見つめ、口元に微かな笑みを浮かべた。

「……面白い。」

彼女は迷うことなく、その姿を煙霧の中に消し去った。

ドライの心臓は激しく鼓動し、逃げられないことは分かっていた。だが、少なくとも——少なくとも、ドリアをこの場所から連れて行かなければならない……

だが、次の瞬間、背後から不気味な気配が迫ってきた。

「遅い。」

耳元で低く響く声が聞こえ、次の瞬間、細くとも破壊的な力を持つ手が、ドライの翼の根元を力強く掴んだ!

「ぐあ——!」

激痛が襲い、骨が崩れる音が鮮明に響いた。そして——「プチッ!」という裂ける音が夜空に響き渡る!

引き裂かれる痛みが意識の中で爆発し、ドライの体は空中で激しく震え、血のような弧線を描きながら夜空に消えていった。

彼の翼は、無理矢理引き裂かれたのだった!

空気中に漂う濃厚な血の匂い、ドライの視界は次第にぼやけ、彼の体は壊れた紙のように落ちていった。腕の中のドリアは、依然として動かない。

「……今度こそ……本当に……ダメなのか」

意識が途切れかけたその時、彼は空中に立つ末滅を見上げた。

その口元に浮かぶ微かな笑みは、まるで死を見下ろしているかのようだった……


ウィンデルは洞窟から急いで帰宅し、ドアを開けると大声で叫んだ。

「まずい! ドライ、ドリアさんがあの赤青の奴らに……!」

しかし、言いかけたその瞬間、彼の声は途切れた。

空気が異常に静まり返り、屋内には誰の気配も感じられなかった。

ウィンデルは眉をひそめ、視線を素早く屋内の物品に走らせた。

すべてがいつも通りの状態で、しかし——

「……おかしい、この気配は……」

彼の瞳孔が急激に縮み、猛然と東南の方向へと目を向けた。

そこには強烈で、どこかで感じたことがあるような圧迫感が漂っていた。

まるで骨の奥まで染み渡る寒気のようなものが、彼の呼吸を一瞬止めさせた。

末滅まつめつ様? どうしてここに……?」

考える暇もなく、ウィンデルは即座に決断を下し、体内の力が湧き上がるのを感じた。

彼の体がわずかに浮き上がり、その方向にすぐに向かおうとした。しかし、動こうとしたその瞬間——視界が突然暗くなった。

予兆もなく、何の前触れもなく、目の前の世界は一瞬で消え失せ、「純粋な暗闇」へと飲み込まれた。

それは夜でも霧でもなく——彼の目が、光を失っていた。

「……これは?」

ウィンデルの体が一瞬停止し、心拍数が自然に速くなった。

無意識に手を握りしめ、まだ半空に浮いていることを感じ取った。

微風が肌を撫でる感覚、体内の冥力が抑制されていないことを感じ取ることはできる——

しかし、彼は「何も見えなかった」。

「この能力……赫冥かくめい様の仕業か?」

ウィンデルの声は低く、警戒の色を含んでいた。

彼は歯を食いしばり、浮遊している体を安定させた。

これはただの暗闇ではない——赫冥の能力だ。

視力を奪われ、方向感覚もぼやけ、まるで全身が無重力の虚空に浮かんでいるかのような感覚だった。

「くそ……」ウィンデルは低く呪いの言葉を漏らした。

その瞬間、彼は微かで不気味な足音を聞いた。それは四方八方から響き、遠く、近く、どこから聞こえているのか全く分からなかった。

——残像か? それとも幻影か?

ウィンデルは一瞬躊躇せず、両手を上げ、黒い骸骨の頭のエネルギー弾が素早く形を成すと、最も音が集中している方向へと撃ち出した。

エネルギー弾は流星のように暗闇を突き抜け、地面に衝突した。爆発の余波が空気を歪ませたが、弾が命中した痛みの叫び声は聞こえなかった。

「そこじゃないのか?」ウィンデルは目を細め、気流の変化から赫冥の本当の位置を探ろうとした。

——ドン!

大地が突然裂け、巨大な亀裂が猛獣の血盆のように開かれ、ウィンデルを飲み込もうとした。彼は素早く後退したが、次の瞬間、赫冥に操られた凶暴な獣たちが亀裂から飛び出し、牙を光らせて狩猟の気配を漂わせながら彼に向かって突進してきた。

ウィンデルは冷たく鼻を鳴らし、手にしたエネルギー弾を次々と放ち、黒い骸骨の頭が正確に獣たちに命中した。それらの生命力は急速に吸収され、体が硬直し、最終的に倒れ込んだ。だがその瞬間、赫冥の本体がようやく暗闇の中に現れ、ウィンデルの視界が戻った。

「見つけた!」ウィンデルは両手の間にさらに強力なエネルギー弾を凝集させ、発射しようとしたが、赫冥の姿は泡のように消えた——

「幻影?」

真正の赫冥は彼の横に現れ、指を軽く引くと、ウィンデルの足元の地面が再び割れ、今度は避けきれず、彼は混乱した地形に引きずり込まれた。

「チッ……まずい。」ウィンデルの眉はさらに深く寄せられた。

彼の体力は低下し始めたが、まさにその瞬間、半透明の白いバリアが彼の体に現れ、負荷感が一瞬で軽減され、攻撃力と防御力が同時に強化された。

「……これが始まりだ!」

ウィンデルは怒声を上げ、体内の力が爆発的に高まり、彼の両手が瞬時に別の二つの頭に変形し、戦闘形態が完全に解放された!

無数の黒い骸骨のエネルギー弾が嵐のように赫冥に向かって飛んで行き、それぞれが強力な破壊力を持ち、爆発音が次々と響いた。

赫冥は空中で巧みに動き回り、彼の幻影や残像が彼を捉えにくくした。

一部の攻撃は赫冥の体に命中したが、ウィンデルはこれが本物の赫冥なのか確信が持てなかった。

戦闘は膠着状態に陥った。

しかし、赫冥はついに優位に立ち、軽く手を振ると、再び暗闇がウィンデルの視界を覆った。

「くそ、また視線を奪われた!」ウィンデルは心の中で緊張し、反撃しようとしたその瞬間、強烈な衝撃が襲い、次の瞬間、彼の体は赫冥に一蹴され、遠くの地面に激しく衝突した。

強烈な痛みが意識をぼやけさせ、彼は歯を食いしばりながら体を支え、倒れずに踏みとどまった。

「まだ……終わってない……」

赫冥は軽く笑い、ゆっくりと歩を進めてウィンデルに近づいた。

「君の意志は確かに強いが、この戦いはそろそろ終わる。」赫冥は手を上げ、黒い霧が掌に集まり、ウィンデルに最後の一撃を加える準備をした。

その時、突然、空気を裂く音が響いた——

「し——」赫冥の言葉がまだ終わらないうちに、強烈な衝撃が側面から襲いかかってきた。

「くっ……!」

彼の体はまるで砲弾のように飛ばされ、岩壁に激しくぶつかった。

赫冥が倒れたことで、ウィンデルの視界がようやく戻った。彼は振り向き、少し離れたところに静かに立つドリアを見た。ドリアは重傷を負った多萊を背負い、肩には末滅の死体を担いでいた。

「お父さん、解放してあげる。」ドリアは静かに言った。

赫冥の目はドリアを見た瞬間、わずかに揺れたように見えた。まるで一瞬の迷いを感じたかのようだ。しかし、その迷いはほんの一瞬で、すぐに冷徹な表情に戻り、戦闘の構えを取った。しかし、それ以上の動きはなく——彼の手はわずかに震えていて、ドリアと目を合わせた瞬間、目の中の殺意が次第に消えていった。

「この反応……やっぱりお母さんと同じだね。」ドリアは静かにため息をついた。

「博拉多爾に操られていても、私に手を出せないんだね。」

ドリアは昏睡状態の多萊と末滅の死体をウィンデルに渡した後、ゆっくりと赫冥に歩み寄り、最後に優しく彼を抱きしめた。

「お休みなさい、お父さん……今まで、あなたとお母さんはずっと苦しんでいた。」

彼女の声は温かく、確固たるものだったが、長い間抑え込んできた悲しみが隠れていた。

赫冥はわずかに震え、何かに葛藤しているようだったが、最終的にゆっくりと手を上げ、ドリアを抱きしめ返した。体力が徐々に失われていく中で、彼の口元には久しぶりに微笑みが浮かんだ——まるで無限の暗闇から解放されたかのように。

赫冥の死後、ドリアは彼の遺体が博拉多爾に利用されないよう、末滅の死体と共に火葬することを決めた。

部屋の中で、ウィンデルは昏睡状態の多萊をベッドに寝かせ、静養させていた。だが、その時、彼は突然強い殺気を感じ取った——それは、背筋が凍るような圧迫感だった。しかし、その殺気は一瞬で消え、まるで何かの力により強制的に消されたかのようで、ウィンデルは不安そうに眉をひそめた。

山の洞窟で博拉多爾兄弟の会話を聞いたことを思い出し、ウィンデルの頭に恐ろしい考えが浮かんだ——ドリアは実は博拉多爾が送り込んだスパイではないか?

ウィンデルは扉を押し開け、ドアの前に立ち、低い声で問いかけた:

「こんなこと…初めてじゃないだろう?」

ドリアはわずかに横目で見、淡々と答えた:「初めてですよ。前回の輪廻では、こんなことは起こりませんでした。」

ウィンデルは冷笑を浮かべ、疑いを込めて言った:「どうして君の言葉を信じろうか?もしかしたら、君の一挙一動、あの赤と青の奴らの命令に過ぎないかもしれない。」

「冥域界と空霄界の王をここで死なせるつもりなら、あの二人がそんな愚かなことをすると思う?」ドリアは反問した、その口調は穏やかだった。

「もしかしたら……これはテストかもしれない。君の力がどれほど成長したかを試すための。」ウィンデルは鋭い目で彼女を見つめた、「結局、彼らの目的は——」

「私を第三世代の世界書に改造することですよね?」

一瞬、周囲の空気が凝固したように感じられた。

ウィンデルは黙っていたが、ドリアは静かに周囲を見渡し、そして口を開いた:「もし私を信じるための証拠が必要なら……確かにあります。でも、部屋の中で話せますか?」

ウィンデルは彼女を深く見つめ、最終的にうなずいた:「……いいだろう。」

部屋に戻り、ドリアは手を伸ばし、掌の中に輝く水晶石を浮かべ、それをウィンデルに手渡した。

「これには、私の一部の記憶が封印されています。触れれば、全ての経緯が分かります。」

ウィンデルは半信半疑で手を伸ばし、指先が水晶に触れると、脳内に突然一つの光景が浮かび上がった——

一人の少女が、星空のような空間に孤独に佇んでいる……

彼の瞳孔がわずかに縮まり、驚きの表情でドリアを見上げた:「これ…まさかこんなことが!ドリアさん、君は——」

ドリアは冷静な表情を保ちながら、異常に落ち着いた声で言った:「はい、私は二重能力者です。そして、私のもう一つの能力こそが、あの人たちが私を世界書に改造しようとした理由です。」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ