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違って、ええやん?

作者: 原田楓香


 彼女が、じっとPCを見つめている。

 画面は、彼女の推しのグループの動画だ。


「はあ……」

 ため息をつく。

「どうしたん?」

 僕が訊くと、

「いやさ、ちょっとわからなくて」

「何が?」

「歌手が世界進出って、どうなったら世界に進出したって言えるのかな?」

「う~ん。他の国で、コンサートしたり、CD発売したら? かなぁ……」

「それって、『世界』、なのかなぁ?」

「まあ、『海外』進出ではあるね。『世界』かどうかって言われると、微妙やけど」


 彼女の推しグループの動画につけられた英語のコメントに、彼女は首をひねっている。

『このグループは、世界には通用しない、世界的に見たら、歌もダンスもレベルが低い』というようなことが書かれている。『他のグループは世界に出て行けるかもしれないけど、彼らには到底無理だ』と、とことん貶そうとしている気配が漂う。


 彼女にとって、とても好きな楽曲の動画につけられたコメントに、彼女は眉をひそめる。そして、首をひねる。

「世界って何なのかな? 誰が認めたら『世界に認められた』ことになるのかな? 」

「うん……でも、この間、あるグループがアメリカでヒットチャートにのったとき、世界で成功した、って芸能ニュースで言ってたよね」

「アメリカでその歌がヒットチャートにのったら、『世界に認められた』ことになるの? 世界=アメリカ、なの?」

「……たしかに、なんか違和感あるね。ってか、そもそも『世界に認められる』必要なんてあるのかな?」


「そうそれ! 」

 彼女が、PCから顔を上げて、言った。

「世界がどうとか、アメリカでどうとか、そんなモン関係ないよ。よその国の誰かに気に入ってもらうかどうかが大事なんとちゃう。今、ここにいる、ここに生きてる私らの心に、どれだけ響くかや。歌もダンスも彼らの個性と魅力で、すごく輝いてるし。カッコいいとか、可愛いとか、笑顔が素敵とか、ウリは山ほどあるけど、それだけじゃなくて。彼らの歌もダンスも見てると心に元気が満ちてくる。幸せな気持ちになる。今日がんばろう、明日もがんばろう、そう思えるもん。それが一番大事やと思う」

「……そやな。僕もそう思う」

 うなずく僕に、彼女は言った。

「でもさ、地球上どこへ行っても、同じ歌が流れてて、それがめっちゃ売れてるってなったら、たしかにすごいと思うけど。……なんかちょっと、つまらんかも。いろいろあってもええやん? 行く先々で、人が好むものも、売れてるものもいろいろ違って、ええやん?」

「うん」


 僕は、金子みすゞさんの詩を思い出す。

 そう。いろいろ違ってええやんな。

「誰かの『好き』を否定しなくても、自分の『好き』を大切にできたらいいよね」

 僕の言葉に、彼女が極上の笑顔を返してくれた。


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