世界大戦
人類歴515年 8月15日 ベニューカ勢力がユリジア勢力、エグラス勢力に宣戦布告。宣戦布告と同時に両勢力の重要拠点を奇襲。
人類歴515年 8月15日 ユリジア勢力のベニューカ勢力への軍事侵攻が決定。
人類歴515年 8月29日 ユリジアによるエグラス勢力圏への軍事侵攻が決定。
人類歴515年 9月10日 エグラス勢力圏海上
これからどんなところに行くのかな・・・・・そんなことを考えながら艦上デッキに寝転がる。
「あっ、かもめ」
隣に寝転がっていたリードが漏らす。
俺たちは戦争に慣れてしまった。まぁ、長年生きてきたせいか、諦めが早い。しかし、周りはそうではないようだ。
戦場を経験していくうちにニーナは酒の量が増え、ファルハは戦場で灰になった。軍に所属しているエルフ以外はほとんどが撃墜されるか、精神をやられている。
集合のラッパが鳴る。
皆はデッキにぞろぞろと出てくる。ある者は酒瓶を片手に、ある者は半裸のまま、またある者は・・・・・と皆乱れている。しかし、貴重な戦力である手前、戦果を挙げる限り厳しく指導されることはない。
「今回の作戦を伝える。今回は・・・・・」
魔法使いが集まると、海軍将校が俺たちに任務を伝える。
今回は赤道直下の島での爆撃任務。相手のエグラス勢力のネモネ軍に手を焼いているとのことだ。
というのも、奇襲によってほとんどの海岸線は占領したが、ジャングルでゲリラ戦を仕掛けるネモネの兵士によって、俺たちのユリジア陸軍は無視できない損害を出している。
加えて、ネモネは国民の大半が獣人で構成された獣人国だ。かつては魔法使い適性が低い種族として辛酸を舐めていたが、今は彼らの時代と言ってもいいだろう。人やエルフよりも重い装備を背負い、恵まれた身体能力を活かしてどのようなところでも駆け抜ける。まさに軍人になるために作られたような種族だ。
そこで、地上から魔法支援の要請を受けたのだ。ジャングルの中にあるであろうとされる弾薬保管庫の破壊が今回の任務の目標だ。
加えて魔法使いによる攻撃を地上部隊は数回受けたようだ。これは厄介なことになりそうだ。
将校が話を終えるとリードは13班を集める。班員の補充は今のところはなく、3人のままだ。
「どうしようか・・・・・。楽な任務だったらよかったんだけどなぁ・・・・・」
彼はその場で仰向けになり、空を見上げる。雲一つない快晴だ。
ベニューカの奇襲以降、大規模な魔法使い同士の戦闘は起こっていない。しかし、対空砲による被害は予想以上だった。対空陣地を攻めるためには数人の魔法使いの犠牲は覚悟する必要がある。
そこに、魔法使いの目撃情報・・・・・。加えて獣人は獣人専用の対魔法使いライフルを持っている可能性が大きい。当たる確率は低いが、食らえば致命傷は免れない。
「あー、もう仕方ないでしょ。死ぬときは死ぬ!幸い私たちは全員独身!華々しく散ろう!」
ニーナは酔っぱらっていて話にならない。まぁ、彼女は中級魔法使いながら上級魔法使い顔負けの軌道をする。心配はいらないだろう。
太陽はすっかり水平線の向こうに沈んだ。
奇襲作戦以降、軍は夜間爆撃を推奨している。昼間は視認性がいい。しかし、それは相手も同じだ。その結果、両軍甚大な被害を出しかねない。
俺たちは戦艦の中で最後のブリーフィングを受ける。そして、班ごとにデッキから飛び立つ。それをクルーたちが帽子を振って見送る。これはヒーローになった気分がして大好きだ。
俺たちは第一波だ。迅速に爆撃し、離脱する必要がある。そのためベテラン部隊が充てられやすい。
島に着くと、ビーチでバーベキューをしていた地上部隊の声援が聞こえてくる。そして、リードが照明弾を打ち上げる。すると、ある方向から照明弾が打ち上げられる。そして、次々と照明弾が打ち上げられ、爆撃地点を示す。
この方法は敵に位置を知らせうる危険性をはらんでいるが、夜間爆撃の精度を上げる画期的なアイデアだ。俺たちは編隊を組んで爆撃地点に向けて狙いを定める。
照明弾に気づいたのだろう。サーチライトが夜空を照らす。ビンゴ!ここが保管庫化はわからないが、重要拠点なことには違いない。
俺たちが近づくと、発砲音がジャングルの所々から多数聞こえる。対魔法使い兵か・・・・・。俺たちは回避行動をしながら接近する。すると、偽装したコンクリート構造物が見えてきた。この形・・・・・。保管庫だ。
俺たちは入り口を狙って魔弾をできる限り打ち込む。そして、全速力で近くのビーチの陸軍キャンプを目指す。
俺たちはキャンプに降りると多くの兵士たちが出迎えてくれた。彼ら、彼女らは俺たちを英雄だの、ライベルの守り神だの言って俺たちをたたえる。
奇襲を防いだことで、俺たちは国の英雄になった。これはいい。これだけアピールをすることができれば俺の発言力は高まる。これは乗っ取りの際に大いに役立ってくれるだろう。
俺たちは次の爆撃までそこでバーベキューをすることにした。陸軍の兵士たちが俺たちを椅子に座らせ、肉を焼いては持ってきてくれる。程よい塩加減だ。
戦争が始まって二週間。私の周りは大きく変化した。大学では学生運動が盛んになり、町では民衆が軍の発行する新聞を見て盛り上がっている。
ユリジア軍は破竹の勢いで進行を進めている。その戦果に国民は喜び、エースの武勇伝を聞いては心を躍らせていいる。
これはまずい。レイさんの憶測では国民の生活は次第に苦しくなり、反王家に傾いていくと書いてあった。しかし、目覚ましい戦果を見て、国民は戦争を支持している。なんなら、ベニューカ本土を占領するべきだという人も現れた。
「これはまずいな・・・・・」
ギムレットがつぶやく。確かにまずい。このままでは私達は国家を転覆させようとする非国民だ。このままでは弾圧を受けかねない。
私はとりあえず、掲示板に張り出される軍の新聞を見に行くことにした。とりあえず情報を集めて今後について考えよう。
私は共産サークルの部屋を出て、駐屯地まで歩く。最近は会議続きで疲れる。だから、こうやって外を歩くのはいいリフレッシュだ。
それにしても外は騒がしい。これは何かが起きたな。そう思った私は近くでたむろしていた男性に声をかける。彼は興奮気味に話してくれた。
どうやらユリジアがエグラスに宣戦布告をしたとのことだ。なるほど。今までエグラスとはライバル関係を築いてきた。そのエグラスとの戦いがついに始まったのだ。
国民の戦争協力度は今や最高潮だ。巷では400年前に勃発した植民地戦争、世界中の先進国が二つに分かれて戦った戦争の逸話などをまとめた本が飛ぶように売れているそうだ。
私はそのことをサークルの部屋に戻ると、メンバーに話した。すると、ギムレットが思いもよらない言葉を放つ。
「俺たちも植民地戦争の本を書くか。そうだねぇ・・・・・内容は適当でもいい。普通の歩兵の話がいいんじゃないか?」
熱心に活動する彼がそんなことを言うなんて。植民地戦争関連の本はどうやってもナショナリズムを国民の王家崇拝を加速させる。何か策でもあるのだろうか。
私と同じことを思ったのかメンバー達も動揺している。
「まぁ、落ち着いてくれ。これはあくまでも資金集めだ。それに、今はなんとか賄えている軍事物資も人員も、二つの大国と戦うとなるといずれ尽きる」
それはそうだ。しかし、それがどうした。軍事物資が尽きるなら工場を建てるまでだ。それに、人員が足りなくなれば徴兵を始めるだろう。それくらいこの国はできる。
「徴兵で働き手を奪われた農家は生活に困窮するはずだ。そこを狙おう。そのためには炊き出し用の金が必要になる」
それを聞いて皆は納得るする。私も納得だ。その時に備えて金が必要だというんだろう。さすがギムレット!
「知り合いを片っ端から当たって出版関係者を探そう。俺たちのサークル名は隠せよ。そうだなぁ・・・・・ビジネスサークルとでも言おう。それに大学の名前を使ってもいい」
彼がそう言うとメンバーはすぐに部屋を出ていった。
「さすが」
そう言うと彼は恥ずかしそうに頭をかく。
「君のおかげだよ。君が情報を集めてくれるから、俺は対策を打ち出せる。君なしのサークルなんて考えられないよ」
この紳士め!相変わらず謙虚で、やさしい。
さぁ、レイさんの計画も進んできた。それに巷ではレイさんはライベルの守り神なんて呼ばれている。もらった手紙に書いてあった展望以上にことはうまく進んでいる。これは期待してもよさそうだ。