戦争
人類歴515年 8月15日 午後12時
俺の目の前にはユリジアの戦艦が浮かぶ軍港が見える。
俺は腕時計を見て12時になったことを確認すると、全力で魔弾を戦艦に打ち込む。もちろん装甲を貫通することはない。しかし、艦橋に使われている木製の板に引火する。目標は達成だ。これで数日間この戦艦は動けない。
俺たちは戦艦をある程度行動不能にすると地上に降りて、重要文書を探す。大体は魔法使いの駐屯地にあるが、ここにおいてある分も無視できない。俺たちは海軍の宿舎に向かう。
宿舎に向かおうとすると、俺たちの近くで爆発が起きる。野砲だ。野砲の徹甲弾は俺たちのバリアをいとも簡単に貫通する。
仕方がない。魔法使いに見つかりたくないから地上を進もうとしたが、空から宿舎を目指すとしよう。
そう考え、浮かび上がると俺は信じられない光景を見ることになる。
ボロボロの駐屯地攻撃部隊が撤退してきたのだ。
「何が起こっている!」
俺は近くを飛んでいた魔法使いに話を聞く。彼女曰く待ち伏せされていたとのことだ。おかしい。この作戦は完全に奇襲だ。それにユリジア魔法軍の昼休みに合わせて攻撃をしている。
スパイ・・・・・。嫌な言葉が頭を過る。仕方がない。ここは撤退だ。
「海軍宿舎を砲撃した後離脱するぞ!急げ!」
小隊長の言葉に従って、俺たちは宿舎に砲撃を加えたのち離脱した。文書を手に入れることはできなかったが、戦艦は行動不能にさせることができた。最低限の任務はこなした。後は海軍に任せよう。
俺は数週間考えた。どうすれば仲間を救えるか、どうすれば奇襲に対応できるかを。その結果、最悪を避けることにした。最悪とは建物の中で撃破されることだ。
俺は夕食のときにリードにある話を持ち掛ける。
「そういえば、俺たちって班対抗戦はよくやるけど、大人数対大人数はやったことがないよな」
「あぁ、そうだね。私たちはいつも班対抗戦しかやっていないね。僕に人を集めてほしいってことでいいかな?」
話が分かる。その通りだ。
「さすがリード。それで8月15日の昼にそれをやりたいんだ。結構長くなりそうだから、日が昇っているときにやりたい」
「わかった。ほかの班に言ってみるよ。多分みんな参加するだろうね。それに今後は大人数での戦闘が増えると私も睨んでたんだ」
そう言って、リードは食堂にいる班長達に話を持ち掛けた。さすがは大ベテラン。全ての班長がオーケーを出している。
驚いた。なんと翌日には一班から二十までの班が二つに分けられ、対抗戦のルールや日程が決まりチームでの練習がはじまった。
面白いことに作戦室には相手のスパイが忍び込むといった珍事件も発生した。さすがにスパイを予想していなかった班長達はスパイの処遇を巡って議論を交わした。
ついに、決戦の日を迎えた。俺たちはチョコチーム。相手はアイスクリームーチームだ。なんというか・・・・・ほかに名前がなかったのか?町で人気のお菓子二つから名前をとったとのことだ。ちなみに命名者はリードだ。
人類歴515年 8月15日 午前11時
早めの昼食を終えて、二つのチームが空中で向かい合って並ぶ。
昼食中はなかなかに面白かった。食堂左側をチョコ、右側をアイスクリームが集まって決起集会をしていたのだ。
お陰で並ぶ魔法使い全員の戦意は申し分ない。
リードと相手のリーダーが握手をすると、チームは二キロほど離れて、陣形を組む。あぁ、初めての大人数戦だ!わくわくしすぎてたまらない。
下にいる下級魔法使いが真ん中で魔弾を打ち上げる。光が見たら開戦の合図だ。俺たちは事前に受けていた指示通り、高度をとる。雲が一つもないのが辛いが、高度は大事だ。
アイスクリーム達も高度をとっている。初手は同じだ。しかし陣形は違う。俺たちチョコは班ごとに編隊を組んでいるが、相手のアイスクリームは二人で編隊を組んでいる。大人数だからこそ生まれる編隊の違いだ。
そして、遂に両チームが激突する。チョコは少人数での一撃離脱を繰り返す波状攻撃で俺たちを苦しめる。しかし、ぶつかる人数ではこちらが有利だ。俺たちは人数を活かして少しずつ相手を削っていく。
いい勝負だ。お互い自チームの特徴と相手の弱点を理解し、自分の弱点は編隊同士でカバーしあう。
試合が始まって一時間が過ぎようとしていた。もうすぐだな・・・・・。俺がそんなことを考えていると、軍港から爆発音が聞こえる。それから少し遅れてサイレンが鳴り響く。
「敵襲だー!!」
下で望遠鏡片手に観戦していた低級魔法使い達が叫ぶ。そして、持ち場に向かって走っていく。
敵が来る間に両チームのリーダーは話をする。びっくりするほど話の展開が早い。さすがはリーダー二人だ。そうじゃないと!話が終わると、二人はチームのメンバーを集め簡潔に話をする。
「敵襲だ。私たちはおとりとして敵の攻撃を受け止める。安心して、俺たちが撃墜される前にアイスクリームが敵に攻撃来るから。行くよ!」
リードの話が終わると敵がやってきた。俺たちは班ごとに編隊を組み、敵に向かって直進しながら魔弾を打ち込む。
もちろん相手も魔弾を打ち込んでくる。しかし、高速で三次元を移動する魔法使いには当たらない。その結果、近接線にもつれ込む。剣と剣がぶつかっては距離を取り、魔弾を打つ。また接近して剣で攻撃・・・・・。
相手はざっと見90人。俺たちチョコは50人だ。数の差のせいでじわじわ削られる。あと少しだ。あと少しで・・・・・。
俺と向き合っていた魔法使いを青い爆炎が包む。アイスクリームだ!ナイスタイミング!
敵の上空からアイスクリームが波状攻撃を仕掛ける。俺たちは一気に士気が上がり、反転、攻勢を仕掛ける。加えて奇襲を食らった相手は一気に瓦解する。
勝った。そう思っていると、アイスクリームのリーダーがいるさらに上空から魔弾が飛んでくる。すると編隊を組んでいた5班全員が大きな爆炎に包まれ、炭化した5班が落ちていく。
は・・・・・?
その10秒後には7班が、さらにその10秒後には9班の内の二人で組んでいた編隊が・・・・・。
「なにが起こってんの!!」
そう言っていた彼女も次の瞬間には炭になって落ちていく。
俺はちらりと空を見たが、あれは人が飛んでいられる高度じゃない。それにそこにいる魔法使いは背中に大きな機会を背負っている。あれほどの量を背負っていれば最上位の上級魔法使いでも飛んでいられるわけがない。
編隊を組んでいた魔法使い達は別れ、分散する。しかし、それを敵が多対一で少しずつ狩っていく。
規格外。まさに上級すら凌駕する規格外だ。畜生聞いてねぇよあんなの・・・・・。
そんなことを考えている間にも仲間がどんどん落ちていく。俺達の軍はもう半分以下になってしまった。相手も勢いを取り戻している。
もう負けだ。そう思っていると青いビームが空の魔法使いに照射される。そして青いビームはすさまじい光を放つ。それを辛うじて防いだ空の魔法使いは撤退していく。
その後は一人一人、相手の魔法使いが正体不明のビームの餌食になっていく。
何が起きているんだ・・・・・。その一言だ。
相手は撤退していった。助かった・・・・・。死なずに済んだ。
「何だったんだ・・・・・。あれ・・・・・」
呆然としたリードが俺に話しかける。俺の何だったのかはわからない。
「残ったのは40人くらいか・・・・・。まぁ、相手も同じくらい削れたが・・・・・」
彼はすぐさまに正気を取り戻し、現状を把握し始める。そして、周りを見渡す。アイスクリームのリーダーを探しているのだろう。俺も探すが、彼は見当たらない。
「撃墜・・・・・。はぁ、まさかこんなにも簡単に人が死ぬなんてね・・・・・。なんで私達は戦争しているんだ・・・・・」
俺たちはいい環境で雇われている。いい環境に誘われて魔法使いになった奴がほとんどだ。戦争なんて考えていなかったのだろう。それはリードも同じだったようだ。
俺たちがあたりを見渡していると班員が戻ってくる。その中にクラリアはいない。やられてか。彼女は明るくて誰にでも優しい、完璧な女性だった。あぁ・・・・・ロココになんて言いに行けばいいのだろう。
「クラリアは・・・・・」
そう言ってファルハがある屋根の上を指す。そこには体の下半分が吹き飛ばされたクラリアが横たわっていた。
町は空から降ってくる死体でパニックだ。
帰ろうとした時、海から汽笛が聞こえてくる。まさか・・・・・。
「あらら・・・・・。敵艦が来ちゃったか。市街地戦かぁ、民間人の被害を出したらいけないからなぁ」
リードは頭を搔きむしる。あんなに冷静で頼れるリードがこうなってしまった。この不安はほかの魔法使い達に伝播する。しかし、その不安をある音が消し去る。五人の編隊が軍港に向けて飛んで行ったのだ。
そのスピードは規格外。それに背負っている装備も上級魔法使いですら飛べないほどのものだ。
俺達は呆然とそれを見る。そして、我に返って軍港に向かう。
軍港では戦艦が炎上しており、何隻かは傾き、浸水している。あぁ・・・・・これは沈むな。それに上陸用のボートはことごとく海上で炎上しており、上空では五人の魔法使いと三人の魔法使いが戦っている。
彼ら、彼女らは規格外のスピードで魔弾を打ち出す。連射速度は機関銃並みだ。毎分100発はあるだろう。
「規格外だな・・・・・」
俺の言葉に班員がうなずく。なんだよ、これ・・・・・笑えて来るな。