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ご長寿エルフと若者エルフの復讐旅  作者: Re伊藤ミカン
6/8

開戦前夜

軍に入ってもう、二十年近くの月日が流れた。


戦争こそ起こっていないが、三つの勢力は三つ巴の軍拡競争を繰り広げている。俺たちのいる国でも軍拡の噂は後を絶たない。加えて、三勢力による数百年不可侵を守っていた空白地帯への勢力圏の拡大。これは国際社会の緊張を高めた。


さらに、驚くべき物が多く発明された。機関銃、プレス加工、内燃機関、スクリュー・・・・・。この短い間にここまで武器が発展するとは思ってもいなかった。おかげで魔法軍は軍隊に名前を戻し、一般人も入隊可能になった。


これらの発明は世界を大きく変える。さすがの魔法使いもあの大砲の直撃はたまらない。加えて新しく発明された戦艦の装甲を貫くことは不可能だ。


これはチャンスだ。もうすぐで大きな戦争が始まる。乗っ取りへの準備も着々とすすんでいる。俺が思っている以上にシリンは優秀だ。彼女は秘密裏に仲間と資金を集めている。おかげで乗っ取りの方法も大体は決まった。さぁ、これからどうする・・・・・。






俺が部屋で今後の展望について考えているとリードが俺を呼びに来る。


「おはようレイ。今日も今日とて模擬戦だよ。気を引き締めていこう」


リードが俺に言う。リードはいいリーダーであり友達だ。彼も乗っ取りに参加してくれるといいのだが・・・・・王族である以上立場が許すことはないだろう。


俺たちが話しながら班の部屋に行くと中では、酒瓶を持ったニーナ、談笑をするファルハとクラリアが待っていた。クラリアはロココの孫だ。ロココは十年くらい前に退役した。


「おはよう、みんな。今日も模擬戦だよ。作戦は・・・・・」


作戦を一通り話し終えると、俺たちは全員で作戦を確認し、外に出る。


一回戦は十二班とだ。模擬戦は総当たり形式だ。おかげで模擬戦は数日にわたって行われる。


さぁ、気を引き締めていこう。順位が高ければ高いほど、周りからの尊敬も大きくなる。乗っ取りの際、その尊敬は十分に利用することができる。死ぬ気で行くぞ。






数年なんてあっという間だった。気が付けばギムレットはおじさんになっていた。しかし、私は若いまま。彼との差は広がっていくばかりだ。


そういえば昔レイさんが言ってたな。彼女たちの老いていく姿を見たくなかったって。


今ならその気持ちがわかる。自分だけ置いて行かれる気分だ。レイもこんな感じだったんだろうなぁ。


そんなことを考えながら私はギムレットと一緒に大学までの通りを歩く。私は大学で講演をすることになっている。勢力拡大の一環だ。


通りの真ん中は路面電車が走り、ガス灯だった街灯はすべて、電気に置き換わった。


最初こそ私も含め、皆物珍しそうにそれらを見ていたが、数年もすればそれは日常の風景となり、今や誰もこの光景に疑問を抱いていない。時の流れとは恐ろしいものだ。


大学に着くと、学生が出迎え、私たちを大学の講堂に案内した。


講堂は満員だ。全ての椅子には学生達が座っており、座りきれなかった学生たちは通路に立って私の講演を待っている。


私が壇上に立つと様々な視線が私に向けられる。好意、疑惑、好奇・・・・・。慣れたものだ。何年活動してきたと思っている。


「君たちは実に恵まれている。学力、財力、多くのものに恵まれている・・・・・・・・・・」






講演が終わると、私に拍手が送られる。多くの生徒は特に興味を示していない。しかし、数人の学生は感動している。この数人を取り込むことが肝要だ。


「私達はこの国の為、活動をしています。国を救おうとする同志は私たちに声をかけてください。この後、共産サークルで待っています」


私はそう言うと、壇上から降り、サークルの部屋に向かう。かつてあの本に出合った場所だ。


部屋に向かう途中廊下に張られた様々な張り紙に目を通す。ナショナリズム、共産主義、絶対王政・・・・・様々な思想のポスターを見ることができる。


私はどのポスターにも心を動かされない。今信仰している共産主義すら私の心を動かすことはない。


もっといい方法があるはず。そう考えてはいるが、肝心の方法は思い浮かばない。まぁ、時間が解決してくれるだろう。


私は時間に頼る自分自身に飽きれながら、サークルの教室に入る。中では数十人の学生が待っていた。中には見慣れない顔がある。


「皆久しぶり。順調に同志を増やしているようだね・・・・・・・・・・」






今日の分の模擬戦が終わった。結果は全勝。リードの指示のお陰だ。しかし、撃墜数は隊で三番、班では一番だ。二十年間暇があれば訓練をした。頑張ったかいがあったってもんだ。


俺は班の皆と一緒に食堂に向かう。食事は俺の中では最上位の娯楽だ。


俺は食堂に向かうと多くの人が俺に声をかける。


「人気者だね」


「リードのお陰だ。お前なしじゃこの結果はない」


それを聞いて彼は嬉しそうに笑う。


「そうか。もし私がいなくなっても後を追ったりしないでね」


それを見て女性三人は野次を飛ばす。俺たちがデキてるだの、どこまで行ったかだの、下世話な奴らだ。


俺たちは席に座って食事をとる。話は尽きない。特に最近の世界情勢についての話だ。情勢次第では俺たちは前線に飛ばされる。気になるのも無理はない。


話によると三勢力の内の一つに軍事侵攻の兆しがあるそうだ。加えて対魔法使い部隊なんてものが結成されているそうだ。数十年前では考えもしていなかったことだ。


話し終わると俺たちは各自部屋に戻っていく。






俺は部屋に戻るとシリンあての手紙を書く。最後の指令だ。もはや三勢力による戦争は火を見るよりも明らかだ。軍拡はとどまるところを知らない。


そこで乗っ取りの合図とその方法を書き記す。少し楽観的な展望になっているが、彼女ならやってくれる。俺はそう信じている。それに、軍の中でも共産主義に傾倒する奴らも増えてきた。恵まれてるが故の考えだ。


俺は手紙を持って宿舎を抜け出し、路面電車に乗る。手慣れたものだ。


手紙を所定の位置で埋めるて帰ろうとすると後ろに気配を感じる。誰だ?見られたからには消す必要がある。


「やぁ、レイ。何年ぶりかな?まさか忘れたなんて言わせないよ」


聞きなれた声、ガーベラだ。


「おぉ、そんな怖い顔をしないでよ。今日はいいニュースを持ってきたんだ。感謝してよ?」


いいニュース?どうせろくでもないものだろ。


「ちょうど今日から一か月後のお昼時、レイたちの駐屯地は宣戦布告と同時に奇襲を受ける。海の先にいるベニューカの魔法使いだ。大体二十人の上級魔法使いと八十人の中級魔法使いからなる部隊だったけな」


奇襲!?戦争は近いと思っていたが、まさか・・・・・。


「どうだい?いいニュースだったでしょ?」


そういって彼女は宙に浮かぶ。背中にしょっている機会が青く光っている。


「せっかく未来を教えてやったんだ。生き残ってよね。それじゃ」


そういって彼女は雲の向こうに消えていった。彼女は創造主だ。それに、嘘をつくような奴じゃない。


帰り路、俺はどうやってあの奇襲を抜け切るかで頭がいっぱいだった。確かに生き残りたい。しかし、仲間を見捨てるわけにもいかない。何とかして奇襲に対抗する必要がある。






人類歴515年 8月15日 午前10時


俺たちは奇襲作戦に向けて艦内でブリーフィングを受けている。俺たちの班は軍港にいる戦艦の破壊が目的だ。


「作戦は以上だ。各自作戦開始まで休むように!」


上官がそう言うと俺たちは各々準備を始める。遺書を書く者、雑談をする者、神に祈る者・・・・・様々だ。俺は友人のザックと一緒に剣の稽古をする。今日は木刀を使っての稽古だ。出撃前に魔力を消費したくない。


いくら遠くに魔弾を飛ばせるからといっても、結局は接近戦になる。それに、こうして剣をふるっていると気がまぎれる。


「なぁ、俺たち何人殺すんだろうなぁ・・・・・」


ザックがつぶやく。俺は剣を振りながら答える。その振った剣を彼が受け止める。


「たくさんさ。その中には民間人もいるだろうよ。まぁ、そうしないと本土の俺たちが攻撃される」


俺はそういう。いや、言い聞かせる。そうでもしないとこの作戦をする意味を見失いそうになる。


「そうだよなぁ・・・・・仕方なくだもんなぁ・・・・・」


彼はそう呟いて剣を振る。俺は彼の剣を受け止める。手がビリビリする。俺は彼の剣をうけながし、彼の頭にそっと剣を付ける。俺の勝ちだ。


「力入りすぎ。これじゃぁ、すぐにユリジアの魔法使いにやられるぞ」


そう言うと、うるせぇ、と言いながら彼は立ち上がり剣を構える。あぁ、この時間が永遠に続けばいいのに。


ずっとザックとこの青い空の下で稽古していたい。この青い海を眺め、波に聞き耳を立てながら話していたい。


俺はそんなことを考えながら剣を振る。

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