革命への一歩
俺たちは役所を出ると服を買い、賃貸を契約した。
手こずるかと思ったが、賃貸契約は思ったよりも楽に行った。この町には違法移民も多く滞在していると聞く。そのせいで契約がずさんなのだろう。
三階のワンルームの賃貸に荷物を置いて、俺たちは町を見て回ることにした。
「ねぇ、あれ見て!本屋さん!」
シリンが通りの本屋を指さす。
本か。安くなったおかげで一般家庭にも本があると聞いたことがある。二百年前じゃ超高級品だったんだけどなぁ。
俺はシリンに手を引かれ本屋に入る。
値段もさることながら、俺は本の種類の多さに驚く。
無数の本の中で俺は一つ気になる本を見つけた。そのタイトルは
「平等の国」
何とも魅惑的なものだ。平等の国か。今、この国は企業のために動いている。おかげで、労働者たちは今や数字として扱われている。
もし、彼らと金持ち連中が同じ立場だったら・・・・・そう思ったことは何度もある。
俺はその本を手に持つ。
なぜだろう。俺の心がこれを読むべきだと叫んでいる。今まで心の声に従わず後悔したことは多い。ここは買うべきだ。
俺はその本を買った。
それを見たシリンは私もと言って一冊、本を買った。
その後、俺たちは夕食を食べに飲食街に行った。
やはりと言うべきか、俺の馴染みの店はすべてなくなっていた。どうやら、三十年前、謎の大爆発が起きて、ここら辺の店は全て消し飛んだそうだ。
俺たちは適当な店で夕食を済ませ、家に戻る。
「あー、美味しかった。明日も行こー」
シリンは自分の腕を枕に、床の上に寝転がる。
「バカ言え。今のまま、毎日外食してたら報酬があっという間になくなっちまう」
それを聞いてシリンはがっかりする。しかし、俺が話を続けるとその態度は豹変する。
「まぁ、俺は軍に行くから、月に百五十万は使える。これを軍資金に・・・・・」
「百五十万!?やっば!お金持ちじゃん!」
今日の外食代は四千。これを知っている彼女はこの給料の破格さに驚く。
俺は上級魔法使いだ。いくら一般火器が進化したとは言え、空を飛べるのは魔法使いだけだ。空飛ぶ砲台でも発明されない限り、魔法使いへの待遇は変わらないだろう。
「まぁ、活動費で結構使ってしまう。無駄使いは厳禁だ。しかし、軍に行くと俺は多くの時間拘束される。そこで、シリンには俺が働いてる間、いろいろとしてもらう」
そうは言ったものの、何をしてもらうかはまだ決めていない。これから話し合おう。
「まぁ、なにをしてもらうかはまだ決めていない。これから考えよう」
俺たちは二人で話合う。
戦争が起こった場合の徴兵の逃れ方。危険分子扱いをされた時の対処方法。明日の夕飯。欲しい家具・・・・・。
多くのこと・・・・・、後半は乗っ取りとは関係ないことを決めたが、肝心の乗っ取りの方法は出てこない。
「まっ、今日はこれくらいっしょ。明日考えよ、明日」
シリンはそういって仰向けになる。
それもそうだ。時間はある。それに俺は明日から軍に行く。もう寝ないとな。
俺は電気を消して床に寝転がる。寝心地は最悪だ。
「明日からは長い間一人で活動してもらう。まぁ、細かいことは明日だ。手紙でやり取りをしていればガーベラは満足するだろう。彼女は面白いことの見方だからな」
寝る前にそういうと、彼女は起き上がって、俺を問い質す。俺はその質問に淡々と答え、二人とも疲れたところで寝ることにした。
俺は日が昇る前に目を覚ます。これは俺の特技でもある。
毎朝誰かが起こしてくれるといいんだけどなぁ・・・・・。
俺はそんなことを考えながら、電気を点け、手紙を書く。そして、この町の駐屯地まで飛んでいく。
彼女と再会するのは何年後になることやら・・・・・。まぁ、手紙でやり取りはする。そう、気にすることはないだろう。
俺は門の前で降りる。そして、降り立った俺に二人の門番が銃を構えて近づいてくる。銃は見たことがないものだ。
「何をしにここに来たのですか?ここが魔法軍駐屯地と知ってのことですか?」
門番は警戒している。そりゃそうだ。飛行魔法が使える中級以上の魔法使いのほとんどは従軍している。そうなると俺は他国の魔法使いに見えるはずだ。
「いや、私は従軍しに来ただけです。これは国民登録書と魔力測定書です」
そう言って、二枚の書類を門番に渡す。それを見て二人は驚く。
「そ・・・・・そうでしたか。ここでお待ちください」
さーて、これで軍に入れるはずだ。最近はどこの国でも軍拡の話を昔から聞く。魔法使いは喉から手が出るほどに欲しているはずだ。
「あー、よく寝た」
私はそう言って床の上で目を覚ます。背中が痛い。
部屋を見渡すが、誰もいない。
あれ?レイさんはもう行っちゃったの?昨日のうちに言って欲しいこと結構あったのに・・・・・。
そんなことを思いながら体を起こすと、隣に書置きがあった。私はそれを手に取り、目を通す。
ここに、手紙のやり取りをする場所、俺が給料を振り込む口座、給料日を書いておく。この紙はなくさないように。
大体の内容は把握した。そして、私は紙を折りたたみ、てきとうなところに置く。というのもこの部屋には家具が一つもないからだ。
これからは分かれて行動するんかぁ。不安。
私は着替えて、報酬の入った財布を持つ。そして、家具を買いに行く。ベッドとソファ、テーブルくらいはほしいところだ。
私はこれからどうやってお金を使っていくかを考える。
報酬は五十万。しかし、家賃二か月分と昨日の買い物で二十万つかった。加えて家具をそろえるために十万使う予定だ。
そうなると残りは二十万。水は共用の蛇口から水を汲んでくるから問題なし。けど、電気代がこわいなぁ。
私は貯金として十万を家に置いておくことにした。
流石私。先が見えてる。それじゃぁ、家具を買いに行こう。
家具選びに結構時間かけちゃった。こだわりだすといけないなぁ。けど、安く抑えたから服が買えた。ラッキー。
夕飯はどうしよう。家具選びに夢中になりすぎてお昼を忘れてたから立ってられないくらいお腹ぺこぺこ。
私は近くを見渡す。すると、視界にOPENと書かれた看板入り込む。ここにしよう。
店に入るとギターと管楽器の音色が私を出迎える。真ん中の狼の耳と尻尾を持った男がギターを弾きながら歌っている。ブルースだ。
私はカウンターに腰を下ろす。
あー、疲れた。けど、疲れるまで歩いたし、お昼食べてないから、ある程度食べても太んないでしょ。
私は料理が運ばれてくるまでの間はブルースに耳を傾ける。
この雰囲気でこれを頼まない人はいないよね。
「このワインを一杯いいですか?」
ワイン。この店にピッタリだ。
出されたグラスに口をつける。うん、苦い。けど、ワインを飲んでいる自分が好きだからやめれないんだよねぇ。
そうやって、ゆっくりしていると、私の横に一人の男性が座る。背が高く、黒髪の似合う青年だ。
うわっ!めっちゃイケメン。気をしっかりシリン。こういう人は怪しいに決まってる。
「もしかして一人?良ければ少し付き合ってれるかな?一目惚れしちゃってね」
これって、ナンパ!?うそ!
「いいよ。私も話相手欲しかったところだし」
彼はギムレット・ホテリアと名乗った。
彼はいい人だ。話も面白い。それに、一方的に話さず、タイミングを見計らって私に話を振る!おかげで緊張せずに楽しい時間を過ごせた。加えて、ここでの代金を支払ってくれた。
店を出ると彼は私を引き留める。
え~!なにするの!?もうこっちは酔いが回ってフラフラするんだけど・・・・・。
「こんな夜中に一人は危ないだろ?俺が送るよ」
紳士~!顔良し、性格も良し。完璧じゃん!あれ?私、今日一日で一生分の運使い切ってないよね!?
私は彼と一緒に家まで歩く。
家までの間も彼は紳士に私に接してくれた。常に私に気を使い、途中出店で飲み物も買ってくれた。どうやら二日酔いに効くジュースらしい。
建物の前まででいいって言ったけど、彼は階段で転ぶと危ないからと言って三階の部屋まで一緒についてきてくれた。
そして、ドアを開けると、彼は驚いた。
あー、そう言えば家具は明後日届けてもらうことになってた。
「そういえば、この町に来たばかりだったね。そうだ。俺の家に泊めようか?俺はソファで寝ればいいから」
おっとぉ!?出会って間もないのにこんなことしちゃうの!?
でも・・・・・。
「いいの!?助かる~」
ついて行っちゃう!だって性格の良いイケメンだよ?逃したくないじゃん!
私は彼におぶられ、彼の家まで行く。