旅立ち
俺たちは近くの町に行く準備をするため、二週間ほど、俺たちのいる森でできる限りの準備をした。
干し肉、魚の干物、ドライフルーツ、大きなカバン、抱っこ紐、水筒。結構な量の保存食と装備を作った。これだけあれば一週間は耐えれる。
「これで準備ばっちりでしょ!これで町にいけるんじゃない?」
家の中で並べられた保存食達と装備を見て、シリンは言う。
「あぁ、十分だ。後は近くの町まで行くだけだが・・・・・」
どうしたものか・・・・・、一番近い町は天使のせいで崩壊している。ここは一番近い港町まで行く方がよさそうだ。
「少し時間はかかるが、大都市ライベルを目指す。二日間の旅になるな」
彼女はえぇ・・・・・と愚痴を漏らす。文句はクソ創造主に言ってくれ。
彼女のバックに保存食を入れながらこぼす愚痴を聞き流しながら俺は抱っこ紐を身に着ける。
彼女がバックに保存食を詰め終わると、俺はそれをしょって、両手を広げて彼女を待つ。
「はーい、待っててね~おじいちゃ~ん」
「誰がおじいちゃんだ。まだまだ現役だ」
彼女は冗談を言いながら、俺にしがみつく。
「さぁ、行くぞ」
俺はそう言って、飛行用の魔方陣を生成する。そして、ゆっくりと高度を稼いだところで加速して、ライベル目掛けて飛ぶ。
「すっご!めっちゃ速い!すご!」
何というか・・・・・、語彙力がないな。
あぁ・・・・・、彼女を見ていると昔を思い出す。
懐かしいな・・・・・。かつて友人の妹を連れて空を飛んだことがある。彼女も似たようにはしゃいでいた。
「ハハハ。そうか。もっと早く飛ぼうか?」
「マジで!?これより速く飛べんの!?」
こんなに嬉しそうに言ってくれると俺も頑張りがいがある。全力出しちゃおっかな!
俺は更に加速する。加速すると彼女は更に大声ではしゃぐ。
「キャー!ジェットコースターじゃん!」
じぇっとこーすたー?彼女は時折変な造語を使う。
まぁ、これが彼女の個性だろう。楽しいということは伝わってくる。気にするほどではない
俺は魔力をある程度残して草原の上に下りる。
予定ではもっと先にある川辺で休むはずだったんだが、はしゃぎすぎたか。そのせいで燃費が悪くなってしまった。
「え・・・・・、もしかして、ここで野宿?」
シリンは不満を漏らす。
「文句言うな。町に着いたら宿で休む。今日だけの辛抱だ」
「は~い」
彼女は不満そうだ。
俺に出会うまでは野宿してたろうに・・・・・。
「俺は薪を作ってくる。ここで待ってろ」
「いってらっしゃーい」
彼女の無気力な声が俺を送り出す。
さぁ、もうひと踏ん張りだ。
俺たちは二人並んで焚火の火にあたる。もう日は落ちて、辺りは暗闇だ。
「そろそろ、飯にするか。今日はこれだけだからな」
俺はそう言って、シリンに干し肉と魚の干物を一つずつ渡す。俺も同じだけ、バックから取り出す。
「これだけぇ?」
「文句言うな。町に着いたら俺がよく行ってた店に連れて行く。まぁ、今もあればの話だが」
あの店はあるかな。よく接待に使ったものだ。加えて毎日変わるフルコースには驚かされたものだ。懐かしい。
「あっ!何か思い出してる顔。暇だからさ、なにか過去の話してよ。彼女とかいなかったの?」
「彼女か・・・・・、三人いたな」
彼女は俺の話に食いつく。どうして人は恋愛話が好きなのだろうか。まぁ、かく言う俺も他人の恋愛話は大好きだ。人のことは言えない。
話を聞き終わると、彼女は俺を汚物を見るような目で見る。そんな風に見るな。
「仕方ないだろ。寿命が違うんだ。俺は彼女たちの死にざまを見たくない」
「それって、若い娘の方が好きってことじゃん。さいてい」
何も言い返せない・・・・・。俺は俺のために一方的に別れを突きつけた。今思い返せば最低だ。
「まぁ、私も同じことすると思うけど」
そう言って、彼女は笑う。
これは慰めか?それとも本心か?まぁ、どちらにせよその言葉はありがたい。優しいなぁ、シリンは。
「さぁ、寝よう。魔力の回復には睡眠が必要だ」
「は~い」
俺たちは焚火の近くで寝転がる。
星がきれいだ。森の中では木に邪魔されて中々見ることができない。おかげで、この星空は見ていて飽きない。あぁ、早く寝ないといけないのに・・・・・。
さぁ、今日も頑張るぞ!
俺は意気込みながら目を覚ます。目標は午前中の到着だ。
「さぁ、起きろ。出発だ」
俺はシリンを揺する。
彼女は眠そうな目をこすりながら起きる。
「ん~、おはよー」
そう言って座ったまま両手を広げる。
俺に立ち上がらせる気か。朝から手がかかるやつだ。
俺は彼女を起こし、抱っこ紐を使い抱える。
「行くぞ」
俺は全力で町を目指す。全速力だ。
ん?昨日のようにはしゃぐ声が聞こえてこない。もしかして、もう慣れたのか!?知り合いの妹は一か月経ってもはしゃいでいたのに・・・・・。
そんなことを考えながら彼女を見ると、彼女は寝ていた。
「はは・・・・・」
よく寝れるな・・・・・。俺ならこの紐がほどけないか心配で恐ろしいんだがな。
俺はあきれながらも、感心する。
「んぁ~、よく寝た~」
のんきなことを言いながらシリンは目を覚ます。
「あれ?ここは?」
「ここは役所だ。シリンの国民登録をしに来た。登録をすると色々便利だからな」
彼女はふ~んと言って俺の膝に頭を乗せる。
重い。それに・・・・・
「人前でそんなことをするな。勘違いされると困るんじゃないか?」
「いいじゃん。おじいちゃんでしょ。この姿勢めっちゃ楽だし」
彼女は適当なことを言って仰向けになる。そして爪をいじり始めた。
なんて自由なやつだ。
「ナガレ・レイさん。ナガレ・レイさんはいますか?」
役員が俺の名前を呼ぶ。
「ほら、行くぞ。頭どかす」
俺はシリンをどかし、役員のところまで連れて行く。
俺が連れて行くと、役員は彼女を連れて別室に向かう。俺は窓口でエルフ保護の報酬をもらう。
大体一時間くらい経ったか。
そう思っていると、シリンが戻ってきた。彼女の手には写真を貼り付けた書類がある。
彼女は俺の前に来ると俺に写真を見せつける。
「どう?」
「よく撮れてるな」
そう言うと彼女は不機嫌になる。
「私のこと!」
あぁ・・・・・、そう言えば自身の顔を見るのはこれが初めてか。
エルフはなぜか全員美形だ。言いたいことはわかる。
「あぁ、とても綺麗だ。町を歩けば大抵の男が振り向くだろうな」
「でしょー!めっちゃ可愛い!加工なしよね?ヤバ!めっちゃヤバい!」
彼女は写真を見てははしゃぐ。もう少し落ち着いてもいいんじゃないか。
「それじゃぁ、いまからいろいろ買いに行くぞ。あぁ、そう言えばほかにも書類はもらったか?」
「うん。これもらった」
そう言って彼女はもう一枚の紙を俺に見せる。そこには「適正なし」と書かれていた。
「あー、魔法使いの適性なしか。まぁ、稼ぐ方法はたくさんある。落ち込むことはない」
彼女は俺の言葉は聞いていないようだ。写真を見ては可愛い・・・言っている。
俺は彼女を連れて役所の外に出る。
「まぁ、何かを始めるには服からだ。身だしなみで第一印象は大きく変わる」
「服!!」
彼女は服という言葉に食いつく。
あぁ、そうだろう。ここまで自分が可愛いんだ。新しい服が欲しくて欲しくて仕方がないだろう。
「何着か買いに行こう。幸い金には余裕がある。私服も買えるかもな」
彼女は今にでも走り出しそうだ。
俺はそれよりも馴染みの店が残っているかが気がかりだ。それに三十年でどれほどこの町が発展したかも気になる。
買い物は長くなりそうだ。