仲間
小鳥のさえずりで俺は目を覚ます。いつもの家だ。エルフの少女もいる。
はぁ・・・・・、流石に悪い夢とは行かないか。
俺は薪を取りに外に出る。薪置き場に行くと一枚の紙切れが置いてあった。紙には文字が印刷されている。
昨日の約束は忘れてない?念のためもう一度教えるね、エルフちゃんと別れたらだめだよ。一緒に私に会いに来ること。次は何百年先になるんだか・・・。いつまでも待っているからね。
ちなみに、彼女には造形以外何も手を加えてないよ。安心して連れて行ってね。
これで確信した。もう俺に逃げ道はない。しかし、復讐をする気力が湧かない。まだ、諦めの方が強い。
俺は紙をポケットに入れ、家に戻る。エルフの少女は起きていた。
「おはよー、このベッド思ったよりも寝心地よかったよ」
「そうか、それならよかった。今から魚を獲ってくるから少し待っててくれ」
俺はそう言って焚火に火を点け、火を見守るようにと言って、川に向かう。
川に行くと魚が泳いでいる姿を見ることができる。今日の魚は中々に大きい。
俺は魔方陣を川に向け、エネルギーの塊、魔弾を川に向けて撃つ。
魔弾は川面にぶつかると、衝撃波を発生させて魚たちを気絶させる。
これは中々の大収穫だ。四人分くらいはある。残りは燻して燻製にしよう。
俺はそんなことを考えながら川に足を入れ、近くに置いてある網を川に向かって投げ、魚を引き寄せる。
さぁ、帰って朝食だ。彼女には聞きたいことがある。加えて、これからどうするかを話し合う必要がある。これは、長い話になりそうだ。
「おかえり。どう?魚獲れた?」
家に帰るとエルフの少女が迎えてくれた。彼女の笑顔は獲ってきたかいがあったと思わせるものだ。
俺は魚を串刺しにし、焚火の周りに並べる。食べない分は焚火の上に吊るす。
これから、どうしよう・・・・・。ガーベラからの手紙を彼女に見せてもいいのだろうか?あの内容は彼女にとって刺激が強すぎる。しかし、真実を話さない限り彼女についてきてもらうことを納得させることができない。
いや、ここは包み隠さず全てを話そう。今まで何かを隠して得したことはない。
「そう言えば、君の名前は?それに、何か覚えていることはあるか?例えば、森で目を覚ます前のこととか」
俺の質問を聞いて、彼女は悩みこむ。
「ん~、皆と話してたら突然この森で目を覚ましてぇ・・・・・みんな?みんなって誰?」
そう言って彼女はまた、悩み始める。なるほど、目が覚める前の記憶が一部ないのか。しかし、俺は目覚める前の記憶はほとんどなかった。これでも運がいいほうだろう。
「そうかぁ。まぁ、少しでも記憶が残っているのはラッキーだ。それに君の名前は?」
さらに彼女は悩み始める。これは名前も忘れているパターンか。俺も名前を忘れていた。このレイという名前はあの忌々しいガーベラが付けた名だ。
「名前も覚えてないか。俺もそうだった。それじゃぁ、自分で名前を考えるってのはどうだ?新しい旅立ちだ」
「名前・・・・・そうだ!命の恩人だし、名前付けてよ!」
なんと!俺に名付けを頼むのか。何度か頼まれたことはあるが、彼女にあう名前か・・・・・。
「シリン・・・、シリンはどうだ?数百年前の友達の名前だ。君みたいに綺麗な女性だった」
「シリン・・・、いい名前じゃん!なんか、可愛らしいし。てか、耳長さんめっちゃおじいちゃんじゃん!」
耳長さん・・・・・。それに、俺のことも話していなかったな。いい機会だ。昨日のこともここで話そう。
「そう言えば俺について何もおしえていなかったな。ちょっと長くなるがいいか?」
「退屈な話じゃないなら」
俺はポケットに入れていた紙をシリンに見せ、話を進める。どのようにガーベラと出会い、別れ、そして奪われたかを。
この話を聞いてシリンは両手で口を押える。
まぁ、こんな酷いことをする奴がいるなんて信じることはできないからな。その気持ちは痛いほどわかる。
「さぁ、ここからが本題だ。ガーベラは俺に復讐を望んでいる。だから、復讐をしないという選択肢はない。加えて君と離れるなとも言ってきた。覚悟してくれ」
彼女は黙り込む。立場が逆なら俺は憤慨しただろう。それほどにもこの話は理不尽で満たされている。
「いいじゃん!私達でガーベラとかいう悪魔倒そうよ!」
返事は想像とは真逆のものだった。
言っていることを理解しているのか?死ぬかもしれないんだぞ。しかも相手は理不尽そのものだ。
「本気か!?相手は勝ち目のない化け物だ!それに君は俺達には何の関係もない。どうして・・・・・」
彼女は自身の両手を見つめる。そして、力強い眼差しを俺に向ける
「私ね、記憶はほとんど無いけど、悪を倒せ、正しくあれって心がさけんでるの。もしかたら、目が覚める前の私の後悔かもしれない。だから・・・・・その声に従いたい」
そんな理由で・・・・・。いや、仲間は多い方がいい。彼女がそう思うならそれを尊重しよう。
「ありがとう。それじゃぁ、今から俺は魚を獲ってくる。ついでに果物も探してこよう。待っててくれ」
俺は上機嫌で外に出る。ひさしぶりの仲間だ。今日は少し川を下ろう。たしか、果物のなる木があったはずだ。熟しているといいが。
今日はラッキーだ。普段見ない魚を獲ることができた上に、鹿を狩ることもできた。加えて果物も手に入った。鹿は血を抜き、解体した状態で持っていく。シリンの目の前で解体するのは少々刺激が強いだろうからな。
家に着くと、俺は戦果を誇らしげに持って入る。それを見てシリンが大喜びする。
「すご!今日は贅沢じゃん!」
「もちろんだ!仲間が増えたお祝いだ。派手にいこう。塩も使おう!」
今日は大盤振る舞いだ。それに、嫌なことは食べて忘れるに限る。
俺たちは食いきれない量の肉、魚、果物を食べる。久々に肉を食べた。数か月ぶりだ。
今のうちに今後の今後について話しておこう。これからの見通しを共有することは大切だ。
「これからについて話しておこう。目標はガーベラを倒すでいいな?」
彼女は頷く。
「しかし、彼女は動く災害、天使を使役している。はっきり言って国でも天使に勝てない」
そこが問題だ。しかし、その問題はエルフの寿命が解決すると俺は信じている。
「だから、数百年かけて準備する。これは俺たちが長命種、エルフだからできることだ」
彼女は数百年・・・と声を漏らす。
まぁ、数百年準備なんてやりたくないもんな。しかし、これくらいしてやっと勝てるかどうかの相手だ。
「けど、安心してくれ。俺は数百年生きた身だ。まぁ、三十年この森に身を置いていたが、知識のずれは経験で補なう」
彼女は不安そうだ。
「けど、これからどうするの?時間があることは分かったけど、肝心の方法が分かんないんじゃどうにもなんなくない?」
鋭い。しかし、方法は考えてある。
「この世界では数百年戦争が起きていない。どうしてかわかるか?」
彼女は悩む。
「人が少ないから?」
「それもある。けど、答えは魔法使いが強すぎるからだ。下手すれば、一人の魔法使いで国を落とせる。だから、国同士が恐れて手を出せない均衡状態を保っている」
「核の傘・・・・・」
彼女が呟く。かくの傘?なんのことだ。まぁ、後で聞こう。
「しかし、この均衡状態が壊れようとしている。蒸気機関、新型の銃、新たな金属、それらが三十年前発明された。今はもっと進化しているだろう」
「ってことは・・・・・戦争?」
彼女は不安そうに俺の方を見る。まぁ、戦争というのはいいものではない。
「その通り。世界はまた、戦争を始めようとするだろう。というのも、新たな発明は膨大な量の資源、人を必要とする。国が拡大政策を推し進めるのも無理はない」
「けど、その戦争がなにか関係があるの?私たちが困るだけじゃん?」
それが一般的な考えだ。しかし、世界をガーベラに勝つためにはこんな考えじゃいけない。
「確かに困る。生活の質は下がるだろう。加えて、武器の進化のせいで戦争は膠着状態が続くと思われる。しかし、これはチャンスだ。生活の質が下がると政府への不満も高まる。俺はこれを利用してこの国を乗っ取る」
「乗っ取り・・・・・この国の住民はどうなんの?ついてきてくれんの?」
この国の住民か・・・・・、考えてもいなかった。いい考えだと思ったんだけどなぁ・・・・・。
「そうだなぁ・・・その点も考慮しないとな。まぁ、時間はある。一緒に考えよう」
これ以外の返答が思いつかない。時間が解決してくれることを願おう。
「わかった。私も頑張って考える」
そうだ。一緒に考えよう。一人には限界があるからな。
俺は寝支度を始める。それを見て彼女も寝転がる。
さぁ、明日からはハードに行くぞ。しかし、旅立ちに心を躍らせている自分が憎い。お前のせいで何人死んだと思っている。