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ご長寿エルフと若者エルフの復讐旅  作者: Re伊藤ミカン
1/8

出会い

一人の少女が炎を背景に瓦礫の山に立ち、俺を見下す。


「ガーベラ。お前は二百年前に死を受け入れたはずだ!なぜ戻ってきた」


俺は大声で怒鳴る。


「レイ!君は本当に純粋だね!けど、私は創造主」


そう言って、彼女は一歩ずつ、ゆっくりと俺に近づく。そして、邪悪な笑みを浮かべ、俺の頬に手をかざす。


「君の人生に飽きちゃった。だから、目標をあげる。私に会いにおいで。待ってるよ。何百年先でも・・・・・」


そう言って、彼女は誰かに連れ去られた。


俺は彼女を連れ去った影が空に消えていくのをただ、ただじっと見つめる以外できない・・・・・。






「畜生・・・少し昼寝をしだけでこれだ」


俺はそう呟いて目を覚ます。そして伸びをした後、近くの木に掛けていた斧を取り、木を伐り始める。


木こりは中々の重労働だ。木こり用の魔法があればいいんだけどなぁ・・・・・。


そんなことを考えながら俺は倒れた木を切り分けていく。そして、切り分けた木を肩に担ぎ俺は家に戻る。竪穴式の住居だ。見た目は簡素だが、最低限の暑さと寒さ、雨風はしのげる。






俺は薪を外に置き、家の中に入ると一人の少女がそこにはいた。彼女は・・・・・金髪、その背丈・・・もしかして、俺からこのささやかな生活すら奪いに来たのか?


幸い彼女は何かに夢中でこちらに気が付いていない。俺は魔法で剣を作り近づく。


彼女の肩に手をかける。


「おい。ここで何をしている。また奪いに来たのか?生憎・・・・・・」


「すいません!なんでもします!このとおりです!」


そう言って彼女は土下座をして許しを請う。よく見ると耳が長い。彼女はエルフだ。


俺としたことが焦りすぎた。


「おっと、脅かして悪かったね。ある人に似ていたもので・・・。ここで何をしていたのかい?」


俺が優しく訊ねると、彼女は安心したのか恐る恐る頭を上げ、右手に握っていたものを俺に見せる。


これは・・・・・俺の作った川魚の干物の食べかけだ。理解した。


この世界ではエルフは森の中など人目のないところで自然発生する。驚くことに、ある程度成熟した状態で生まれる。加えて、彼ら、彼女らの生まれながらに持っている常識にはずれがある。


彼女は最近生まれたばかりなのだろう。俺も生まれたばかりの時は不安で眠れなかった。


「もしかして、突然この森で目が覚めたんじゃないか?」


彼女は勢いよく顔を上げ、泣きそうな顔で俺を見る。


「そ・・・そう!突然この森で目が覚めて・・・。もう三日は何も食べてない!」


「そうか・・・。それなら俺の家で休んで行ってくれ。大したものはないが、雨風はしのげる」


俺の言葉を聞いて彼女は頭を深く下げる。そして、勢いよく干物を食べ始めた。三日もの間何も食っていなかったんだ。


「そこら辺の干物は好きに食べてもいい。俺は暗くなる前に魚を獲ってくる」


「ありがとう。怪我には気をつけて」


そう言って彼女は俺を送り出してくれる。誰かに送り出されるのは何十年ぶりだろう・・・・・






俺が魚をもって家に戻ると、彼女は葉っぱの寝床の上で寝ていた。安心したのだろう。


俺は焚火に魔法で火を点け、串に刺した魚を周りに並べる。塩があればもっとうまいんだけどなぁ・・・。


俺は魚が焼きあがるまでの間、彼女の顔を見る。やっぱり似ている。


彼女は俺から全てを奪った少女、ガーベラに似ている。彼女は俺の師匠でもあり相棒でもあった。これは何かの運命だろうか。何かの意図を感じる。


「何かの意図を感じるよねぇ・・・・・」


入り口の方から声がする。この声聞き覚えがある。三十年前、俺から全てを奪った女。


「ガーベラ・・・・・。ひさしぶりだな・・・・・」


俺は入り口に立つ彼女を睨みつける。


「創造主のお遊びってやつ?彼女は私が造形したんだよ。どう?かわいいでしょ」


うるさい。


「けど、これは目標達成ってことでいいか?さぁ、帰ってくれ。もう俺から何も奪わないでくれ・・・・・頼む・・・・・」


俺は弱弱しく彼女に嘆願する。自分の非力さを呪う限りだ。


彼女はそれを見て邪悪な笑みを浮かべる。あの時と同じだ。彼女はゆっくりと俺に近づいてくる。


「君は優しいんだね。私から誰も奪われたくないからこんな森の中に籠るなんて・・・・・。感動しちゃった」


何が言いたい・・・・・。


「けど、退屈もしちゃった。君は私のお気に入りだよ。もっと私を楽しませてよ。復讐する理由はもう、十分でしょ?」


このイカレ創造主が!俺は復讐なんてしない。お前の思う通りに動いてなるものか!


彼女は俺の考えを見抜いたのか、口を開く。


「そうかぁ・・・・・。十分じゃなかったかぁ。仕方がないね。天使!」


彼女は天使を呼ぶ。まさか、動く災害、天使を使役しているのか!?もう、なりふり構わずってことか。


入り口から背の高い黒髪の女性が入ってくる。帝政ローマ時代の男性の正装、トーガを着ている。


「ご同行願います」


そう言うと彼女は俺を抱きかかえ、空を飛ぶ。俺だって空くらい飛べる。逃げないためだろう・・・・・。





俺は天使に抱きかかえられたまま、近くの都市、バトフィリア上空まで来た。ここは俺の思い出が詰まった町だ。


彼女は無数の魔方陣を町に向ける。


やめろ・・・・・。


「やめてくれ!わかった。ガーベラの言う通りする。約束する!だから・・・、だからお願いだ!お願いだ・・・・・。どうか・・・・・この町は・・・・・」


俺の叫びも虚しく、彼女は街に魔弾の雨を降らせる。炎が町を照らす。


「すまない・・・、すまない・・・・・」


俺はその光景を直視することができなかった。俺は謝罪の言葉を弱弱しく吐き出す以外できなかった。


あぁ、住民の叫びが聞こえる。建物が崩壊していく音がする。その瓦礫の下には何人いるのだろう・・・・・。


「これで十分でしょう。帰りますよ」


彼女は感情のない声でそう言うと、俺の家に戻っていった。






家の前では満面の笑みを浮かべたガーベラが両手を広げて待っていた。


「お帰りレイ。どうだったかな?これで復讐するのに十分な理由がそろったんじゃないかな?」


理由?理由には十分、いや、十分以上だ。


「あぁ・・・・・あ・・・・・ぁ・・・・・」


死ね!二度と俺の目の前に現れるな!


言いたい言葉は山ほどある。しかし、口にできない。声がでない。


「あ~らら、口がきけなくなっちゃったか。まぁ、明日には治ってるでしょ」


そう言ってガーベラは天使に俺の拘束を解くように指示する。


天使の腕から解放された俺は地面に弱弱しく座り込む。そして、その顔をガーベラが覗き込む。


「私はレイが復讐してくれるならこれ以上理由は作らないよ。けど、私を三十年退屈させたペナルティを与えないとね」


ペナルティ?このクソ創造主はまだ、俺を苦しめるのか。俺が何をしたっていうんだ。おれは何もしていない。ただ、幸せを求めただけだ・・・・・


「あのエルフちゃんと別れたらだめだよ。一緒に私に会いにくるんだ。いいね?もしそれができないなら・・・・・、わかってるね」


そう言ってガーベラは天使に抱えられ、夜空に消えていった。


そうだ。これは夢だ・・・・・。夢に違いない。早く目覚めないと・・・・・。


俺は自身の顔を殴る。口の中が切れても殴る。


なんで目覚めない。これが現実なのか・・・・・。


俺はすごすごと家に入る、そして冷めた焼き魚、消えた焚火を横目に地面に横たわり目を閉じる。


目が覚めると俺は仲間たちと一緒にいるんだ。そうだ。明日は商船を見学しに行こう。そして仲間と一緒にいつもの店に行くんだ。そうだこれは悪い夢だ。


俺は現実逃避をしながら眠りに落ちる。

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