ろく、
「いっそのこと殺したらいいじゃない!私のこと、殺せばいいでしょ!?」
こんな事を思ったのも、のどが破れんばかりに叫んだのも初めてだった。裸足のまま庭へと飛び出して、走る。
もう十分に私は頑張った筈だ。毎日見張られていたのは知っていたし、あの男からの冷たい言葉や視線、態度にもずっとずっと耐えてきた。私なりになんとか状況を打開しようと頑張っていたけど、もう無理だった。知らない場所で、知らない人達の中で、知らないものばかりの生活をすることは苦しかった。ましてや敵視されていたら尚更に。腕を掴まれて、強制的に立ち止まってしまう。振りほどこうとしても力の差は圧倒的で、悔しくて、力いっぱい拳で相手の胸を叩いた。
「私のこと殺したいんでしょ!?殺しなさいよ!殺せばいいじゃない!もう、……もう嫌だ!!」
そう叫べば、自由だったもう片方の腕も痛いくらいに掴まれて、思わず顔を上げれば激昂した男と目が合った。
「ああ殺したいよ、今すぐに!あんた未だに何の情報も出てこないし、いつあの人達を裏切って殺そうとするかもわかんねぇし、殺す理由なんて山ほどあんだよ!!俺はあの人達を守るためにここにいるんだから、あんたを殺さなきゃいけねぇんだ、本当は!今までみたいに俺があんたを殺せばそれで全てが丸く収まるんだよ!なのになのに……っどうしてだ、あんたを殺せない」
最後は絞り出すようにそう言った男の顔は苦悩で歪んでいて、思わず呆然としてしまう。
「俺は……っ、あんたに生きていて欲しいんだよ」
そう言って力無くうつむくその姿は罪悪感に満ちていて、いつの間にか自由になっていた手でそっと目の前の男を抱き締めた。
「私、ここにいてもいいの?あなたの傍で生きていていいの?」
声もなく頷いた男に、ただ涙が溢れた。
そして、自覚する。
(誰よりもあなたに認めて貰いたかったんだ、私の存在を)