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泡沫の。  作者: 惠元美羽
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よんじゅういち、


病院の屋上から見た空は、いつか見た時と同じようにただ青かった。


「ねぇ、いつかもこんな風に空を見上げたことがあったよね」

「ああ」

「私ね、ずっと言わなきゃいけない事があったのに忘れてたことがあるの」


目を閉じて思い出すのは、あの最期の日。


「“置いて逝ってごめん、愛してる”って」


すごくすごく遅くなったけど、あの日の私の想いを今、彼に伝えたい。


「ひとりにして、ごめんね」


そう言った瞬間、彼の瞳から大粒の涙が零れた。あの日から彼は、どれだけ哀しんだのだろう?どれだけ苦しんだのだろう?どれだけの絶望が彼を襲ったのだろう?そして彼は何度も自分を責めたに違いない。


「あの時、私が死んだのは誰のせいでもないの。だから、もういいんだよ」


もう、終わりにしよう。もう私達はあの頃を生きているんじゃなくて、今を生きているんだから。


「……前世の記憶なんて無くて、ただの俺として出逢えてたら良かったのかもな」


そうしたらきっと今よりも優しい恋ができた。それは私もそう思う。だけど。


「それでも、どんな形であれ私達が出逢えた事って、それ自体がもう奇跡なんだから」


時を超えて出逢い、恋をして。死別した後も輪廻転生を超えて、私達はまた再び巡り逢えた。それはいったいどれほどの奇跡なのか。もしも運命の神がいるとするならば、なんて優しくて、そして残酷なのだろう。


「大好きだよ」


涙が溢れた。


「大好き、大好き、ずっとずっと今度こそ一緒に生きていけるって信じてた」


彼の顔が歪む。


「だけど、やっぱり駄目なんだよ。私じゃあこれから先もきっと苦しめてしまう、幸せにしてあげられない」


もともと、一度は終わってしまった恋だったのだ、私達は。約束通り再び逢えたけれども、一度迎えた別れは静かに二人を蝕んで、そして傷付ける。だから、もう一緒にはいられない。そうわかった。


「大好き、大好きだよ。これからもずっと愛してる。だから、さよならをしよう?」


本当は泣かずに笑って言いたかった。だってこれは私達の新しい始まりなんだから。だけど、どうしても涙が止まらない。止まってくれない。


「ごめんな」


ぎゅっと抱き締められた。


「逃げてしまって、ごめんな。辛いこと言わせてごめん。傷付けて、ごめん。たくさん、たくさん泣かせてごめん」


これが最後だ。耳元で小さく、彼は囁いた。


「愛してる、愛してた、愛してる。だからきっと……」


抱き締めあったまま、私達は泣いた。ありがとう、今も昔も愛してる、ありがとう、これからもずっと大好きだよ、だからさようなら。そしてまた新しく始めよう。

今度こそ、今を生きていくために。













愛してる、愛してた、愛してる。

(だからどうか、幸せに)


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