さんじゅうきゅう、
彼が消えた。私の前から。
まだ何も伝えてないのに、何も話す事ができていないのに。学校にも家にも、友人のもとにもいなかった。平凡な女子高生の私には使える手段なんて限られていて、だけど絶対に諦めるわけにはいかなくて。あの頃に出逢った友人達の力とコネを大いに活用させてもらって、そしてようやく街の真ん中で彼を見つけた。
『話があるの』
だからお願い、帰ってきて。話を聞いて。そう懇願すると、彼は泣き出しそうな顔をして私に背を向けた。
『待って!! !!』
なりふり構わず彼の名を叫んで、私も駆け出す。そんな私の背に、友人達の切羽詰まったような声がかかった。え、と気付けばすぐそこに迫る車。思わずその場で立ち止まってしまった私は、直後に何かの力で突き飛ばされて道に転がった。何かものすごい大きな音がした気がする。ゆるゆると身を起こせば、道に倒れた彼と目が合った。赤色が彼の体を染めている。呆然とする私に、彼は一度微笑んで、そしてその目を静かに閉じた。
後の事は覚えていない。気付けば白い病室に私はいて、目の前のベッドに彼が横たわっていた。
こぼれる、涙。
(ごめんね、なんて言える資格が私にはあるのだろうか)