さんじゅうろく、
『……お前が奴の女、だな?』
部活帰り、一人きりの私の前に現れたのは数人の他校生。いかにもガラの悪そうな彼等は何故か私の事を知っているようだった。戸惑う私をあっという間に取り囲んだ彼等は、強引に何処かへと連れて行こうとする。何かまずい事に巻き込まれた事を感じて必死に抵抗するも、ことごとく無駄に終わり、私は身動きを封じられて知らない建物の中に転がされた。
『貸せよ』
そう言って私から取り上げた携帯を慣れた様子で操作して、そして。
『もしもし?』
耳に届いたのは彼の声。その瞬間、一気に血が引いていくのを感じた。下卑た笑い声が広い建物の中に響く。薄暗いその場所には、気付けば信じられない程の人数がいて。その手に握られた木刀や鉄パイプといった武器を見て、ああこの人達は彼を殺す気なのだと真っ白な頭で思った。
何か言えよ、と携帯を押し付けられる。無言で首を横に振った。嫌だ、絶対に声なんて出すものか。
ばちん。
派手な音がして、横倒しに倒れる。力任せに頬を張られた痛みは後からじわじわと来た。
『助けに来てって言えよ』
誰が言うものか。私が声さえ出さなければ、彼は来ない。
頑なに口を噤む私を、誰かが容赦なく殴った。殴り合いのケンカなんてしたことの無い私は、その痛みと衝撃であっという間に意識を飛ばしてしまったのだった。
助けてなんて、言えない。
(ただ、あなたを護りたかった)